最終話 私達が目指す世界
「え……えぇっ!?」
これが、賢者の石!?
「賢者の石って、岩みたいに大きいんじゃなかったの!?」
「ですから、曽祖父はそれを砕いて封印したんですって。おそらくこれは、そのかけらのひとつです」
秋斗が反論した。
「おじさんは、これをマルコーニ村で拾ったんたぞ。なんで賢者の石が、あんな場所にあるんだ」
「おそらく曽祖父は、魔法世界にも賢者の石を隠したんです。魔法世界の人間が、科学を良いものだと思ったとき、賢者の石が現れるように……」
マルコーニ村の人達はみんな、科学を気に入っていた。魔法世界の人は科学を恐れているのに、あの村の人達は違った。ああいう状態になったら、賢者の石が現れるってこと?
「……きっと曽祖父は、僕と同じ考えだったのですね。科学と魔法が手を取り合えば、きっと世界は良くなると思ったんでしょう。だから、その二つが手を取り合える場所に、賢者の石が現れるようにした」
私は手の中の赤い石を見た。
これが、賢者の石?
これがあれば、魔法が使える?
「ど、どうやって使うの、これ?」
「わかりませんが、おそらく魔寄せの儀式と同じです。それを握りしめて、『何か起これ』と唱えてください。うまくいけば、何かが起こると思います」
言われた通り、私は赤い石を力強く握りしめた。
三人の視線が私に集まる。
私は祈るように両手を重ねると、叫んだ。
「何か、起これぇ!!」
その途端。
私の手の中から、赤い光が漏れだした!
え、えっ。本当に何か起こってる!
赤い光は玉になって、ゆっくりと私の手から外に出た。そして……ベッドの下に飛び込んだ!
ベッドの下でひときわ明るい光を放つと、光は消えた。
「……いま、何が起こったの?」
「わかりません。海さん、ベッドの下を確認してください」
な、なんか怖い。ベッドの下なんて、何もないはずだけど……。
いや、待って。ある。お父さんを探すときに破れた、お父さんのTシャツがある。
あれに、何かの魔法がかかった?
私はベッドの下に手を伸ばした。柔らかい布が手に当たる。それを引っ張り出して、広げてみた。
「あっ! 直ってる!」
破れていたお父さんのTシャツが、元通りに戻っている!!
私は三人を振り返った。
「見てこれ! 私が直したよ! 私が、魔法で!!」
すごい、すごい! 魔法だ、魔法だ!!
私、魔法を使ったんだ!!
「海さん、これは……これは、ものすごいことです」
ガイア君の声が震えていた。
「海さんはいま、科学使いでありながら、魔法を使いました。これは、僕達の二つの世界で、初めてのことです。いま、この瞬間の出来事は……いつか歴史の教科書に載るでしょう」
私が教科書に!?
でもそんなの、どうだっていい。私に魔法が使えた! それが、いま一番重要なこと!
「ガイア君、フウラちゃん、秋斗! 私、賢者の石を探したい! 全部のかけらを集めて、元の大きな石を復活させたい! そして、科学と魔法が手を取り合う世界を作りたい!」
きっとそれは、素晴らしい世界になるはずだ。誰もが明るい部屋で夜を過ごし、絶対に安全な車が空を飛ぶ!
「協力してくれる?」
「もちろんです」
ガイア君は大きくうなずいた。
「むしろ、僕からお願いしたいくらいです。だって、それこそが、僕が作りたい世界なんですから」
「俺も興味が出てきたな。おじさんみたいに、科学で魔法を解き明かしたい」
「あたしも新しい道具を作ってみたい。あたしだけじゃなくて、誰にでも使える道具を」
「じゃあ、決まりだね」
私は小躍りした。
「今年の夏休みは、みんなで賢者の石を探そう!」
科学の私と魔法の王子 黄黒真直 @kiguro
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