継ぎ接ぎ

裂けないチーズ

第1話

 継ぎ接ぎに舗装されて波打つ道路は時々バスを小さく揺らす。バスに乗った私はいつも通り後ろから二番目の席に座った。とりあえず、左を向いて外を眺める。かんかん照りの中、サラリーマンが汗を吹きながら、ポカリを飲んでいる。一瞬で過ぎるわけでもなく、ずっと見ていられるわけでもない。微妙なスピードでサラリーマンは流されていった。

 かわり映えしない車窓に飽きて、今度は車内を観察する。車内の密度は低い。ちらほらいる人は大体窓側に座っていて、通路側は空いていた。空調の風。黄色い吊革が控えめに踊った。音の出ない風鈴。暑い日によく合う涼しい車内だ。

 丸みを帯びた天井の縁にはポスターが飾られている。バスをお題に書かれた川柳が載っていた。どうやら地元の小学生が書いたもののようだ。私は目の届く範囲のものを一通り鑑賞した。


バス乗って 退屈しのぎ の戦争


という作品を気に入って、数回読み返す。バスの退屈と戦争という、一見関連のなさそうな言葉を綺麗に繋げていて美しい。戦争というのはおそらく、ジャンケンから派生した遊びのことだろう。退屈しのぎと戦争いうのが皮肉っぽくてまたいい。作者にはそんな意図はないかも知れないが、この作品には底知れない深みを感じた。

 視界の隅で何かチラチラ動き出した。そちらに目をやると前の席から白い頭が出たり入ったりしていた。睡魔と戦ってウトウトしているのか。何かに共感してコクコクしているのか。納得してウンウンしているのか。睡魔と戦っているなら、きっと降りるバス停が近いのだろう。粘り勝って、無事に降りられることを願っている。何かに共感したなら、これほど大きく頷くのだから、きっととんでも無いあるあるだったのだろう。ネットニュースでも見ているんだろう。子供の成長とか老親の心配とかそんなとこか。納得なら相当腑に落ちたのだろう。どうして私がモテないのかとかだったらすごく気になる。でも多分正解は睡魔と戦っているだ。他二つだとしたら頷きすぎ。あれこれ考えている間にバスは停留所に止まっておじさんはリュックを持ってスタコラ下車して行った。リュックを背負うのに苦戦するおじさんをバスは置き去りにしてスピードをあげた。

 やることのなくなった私はまた窓の外を見ていた。しばらくそうしていると懐かしい姿が目に飛び込んできた。中学生の頃好きだった女の子が同年代の男の子と二人で歩いている。五年前の彼女は元気ハツラツでよく喋る女子だった。それでいてちゃんと人の悪口も言う人間らしさがあった。私はたまに話すくらいの関係ではあったがそんな彼女の事が好きだった。笑顔で喋る彼女はきっと昔と変わらないだろうと思った。でも隣にいるのは私の知らない男で彼女の世界は前よりずっと大きくなっているだろう。私はきっと端っこにいて中心からは到底見えない。別に寂しくも悲しくも無い。ただ少し懐かしかった。ただそれだけ。ふと彼女がこちらを向いた。目が合う。一瞬で過ぎるわけでもなく、ずっと見ていられるわけでもない。絶妙なスピードで私と彼女は互いに互いを置き去りにした。

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継ぎ接ぎ 裂けないチーズ @riku80kinjo

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