シチュエーションは突然に。自覚する恋はまだ幼くも。
大創 淳
Episode 00 教室で、恋に落ちた瞬間まで。
――青い世界。窓から零れる日差し。それは初めて見る早朝の世界。
早起きは三文の徳。……というわけではないけど、浮かれ気分から、いつもより早く登校した。この学園に来て三日目。それも志望校。専願で一撃必殺の合格を得たから……
歩む廊下は、少しばかり寒い。
でも新鮮という言葉にはピッタリなイメージ。色々と学園内を探検したいと思うも、やはり足は、まっすぐに教室へ向かっていた。今はまだ七時半。教室に入ったら、丸い時計が、その様に表示していた。中等部一年二組。そこがウチのクラスで、ウチの教室……
時は、まだ平成。
二〇一四年と年号は記されている。
ウチは晴れて、この学園に入学した。だから今は春。そしてウチの名前は
ウチという一人称だけど、見た目も少女を思わせるけれど、しっかりと男の子だ。
それに制服だから、どう見ても男子生徒だ。今なら胸を張って堂々と。すると蠢いている? 机や椅子が音を立てて……ちょっとちょっと「この展開は駄目なんだから!」
その声は響く。誰もいないはずの教室だから、ポルターガイスト? 怪奇現象の何かだろうか? ガタガタ身が震える最中、ポン! と、音を立てて現れたのだ。
白い……白衣を着た少女。
益々怪しい。どう見ても生徒ではない。でも、誰かに似ている? 或いは、その様な想い出の糸の先にあるもの? 手繰る間もなく少女は喋る。ウチに話しかける……
「君、このクラスの子?」と、いう具合に。
「そうだけど……君は? 生徒じゃないみたいだね? もしかして迷子? もう少ししたら先生たちが来ると思うから……きっとお家か、君の小学校まで帰れると思うよ」
良いことした後は、とっても気持ちがいいと、陶酔に入ろうとした矢先も矢先。そ
の少女は何故か「キーッ」という雄叫び? と共に「どうしてそんなに怒ってるの?」とウチが訊きたくなる程、もの凄く不機嫌な様子。それで「どう見たら小学生と思うの?」と言いつつ、チョークを持った。……思わぬリアクションに驚きつつも、ウチは幾つかの思考を浮かべてみた。この少女はボブでポッチャリさんだけど、可愛らしく……
思考一、チョークを投げる。それも一撃必殺で額に命中する。
思考二、チョークを芋けんぴみたいに鋭くし「金を出せ」と脅してくる。
「ブーッ、どちらも外れだよ。どう考えたらそうなるの? それに忘れたの? 確かに確かに二日休んじゃったから知らないのも当然だけど、前に会ってるよね? この学園の中庭で、また会おうって。今度は先生と生徒の関係になっちゃうけどね……」
じっと見る顔。想い出の糸を手繰るも、そこはもう、夢に等しくて……するとチョークの使い道を、少女……あ、いや、彼女は示した。威風も堂々と、黒板にて。
黒板狭しと、名前を表示したのだ。
――
この旧校舎に蘇る思い出たち。異世界から繋がった縁を悟った時、それが喩え夢であっても、目の前の彼女は紛れもなく現実のもの。ウチは、その瞬間から落ちた……
いやいや、もうすでに落ちていたのかもしれないの。異世界で会った彼女は、もっと子供だったけど、マジカルエンジェルと名乗ってもいて。……でも、現実でも……
ウチには、旧校舎の魔法少女だ。
手を繋いだら、初めての感情が湧き上がる。お友達との再会とは違った感情。胸の奥が熱くなるような。これが恋なのだろうか? ウチは、先生に恋をしてしまった。
そうであるならば、落ちるしかないの。
ところがだよ、彼女……瑞希ちゃんは言うの。
「教育実習生だよ。まだ先生じゃないの。千春君と一緒にお勉強するから、この教室で」
「じゃあ、これからも一緒なの?」
「そうだよ。……でも、一学期の間だけ。宜しくね、千春君」
始まりなの。何事もこれからだ。チョークで黒板に相合傘。天辺にはハートマーク。ウチの名前と、瑞希ちゃん、君の名前と。今はまだ無理だけど、この先この黒板に、僕と瑞希ちゃんの名前が入るのは、可能性としてはゼロではないと、そう思えるの……
シチュエーションは突然に。自覚する恋はまだ幼くも。 大創 淳 @jun-0824
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