「自分。」

高黄森哉

自分


 焚火に知り合いの顔が照らされている。あたかも、顔や手、胸部だけが、闇に浮かんでいるかのようだ。みんな、顔の堀が濃くなって素敵だ。友達のさちも、ともえも、みんな綺麗だった。特に後者は、同性の私でも嫉妬するほど、大人びていて綺麗だった。そんな彼女を私の幼馴染が見つめている。巴を見つめてから、大貴は口を開いた。


「なんかさあ、簡単なゲームをしようぜ」

「好きな子ゲームってどう」


 幸は、明るい声で提案した。


「なんだよそれ」


 幼馴染の隣に座っている斎藤は苦笑した。五人は焚火を囲うようにして、輪になっている。斎藤や大貴は、私の対面にいる。


「だから、好きな子ゲーム。耳打ちで誰が好きか伝え合うゲーム。ただし、本人に伝えてはいけません」


 そう喚く幸は華を真っ赤にしていた。お酒を飲みすぎたようだ。


「だからなんだよそれって」

「もう、斎藤君は物分かりが悪いなあ」

「いや、ルールは分かったけど」


 斎藤は、お酒に酔っているのに冷静を保っている。


「いいね、やってみようよ」

「本気か」


 大貴は私に向かって訊いた。


「じゃあまずさ、さっきから喋ってない巴から」

「えっ私。えーっと、じゃあ大島さん、いい? 耳かしてよ」

「うん、いいよ」


 彼女は立ち上がり、焚火をグルっと回り込んで、私に耳を貸す。こめかみに手刀が当たると、唇から微かに「斎藤君」という文字が現れた。


「誰。ねえって。大島、教えて」

「それ、言ったら意味ないじゃん」


 私は、訊きたがる幸に言った。


「じゃ、次、斎藤君」

「えっ、俺」


 すくっと立ち上がり闇に消える。しばらくして、当てた彼女の裏から現れた。彼からは見えないだろうが、彼女の表情はそのままなのに、すっと色を失っていた。


「ふうん。へえ、そうなんだ」


 幸の大きな目は、確実の巴を向いていた。目は口程に物を言う。


「なんだよ。悪いかよ」

「へえ。なんか似合わな」

「別に、関係ないだろ」

「じゃ、次は大貴君」


 すくっと立ち上がり裏へ消える。足音が回ってくる。まさにルーレットだ。そして、私の後ろで立ち止まるのがわかった。対岸の幸の顔色が、見えないくらいに良くなるのを感じた。しかし、先程の私だってそんな感じだったはずだから、責めることは出来ない。また、無意識なのだろう。

 耳へ彼の声が入ってくる。


「俺が好きなのは。自分」

「えっ、自分?」

「おい、言うなよ。恥ずかしいなあ」


 ピンと緊張が張っていた場が、緩くほぐれていくのがわかった。


「ズルいぜ。それ」

「んだよ、斎藤。うるせえなあ」


 大貴は、お酒をグビッと押し込むように飲んだ。

 私は彼の幼馴染。私は知っている。彼が他者の事を必ず ”自分” ということを。彼は決して俺以外の一人称を、使わないこと。


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「自分。」 高黄森哉 @kamikawa2001

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