第14話「師匠と弟子と熊と・Lv99」
ハルナ「……ナインティ。このお茶菓子、少し味が濃すぎませんか?もう少し、上品な甘さに仕上げてください」
ナインティ「ええーっ!?これでもレシピ通りに作ったんだよ、ハルナ師匠!これ以上どうしろって言うのさ!」
とある街の片隅。古いアパートの一室で、私、ハルナは弟子のナインティが入れてくれたお茶をすすっていた。
私の名前はハルナ。表向きは、裁縫が得意な、ごく普通の女性。しかし、その裏では、世界の異変を解決するために旅を続けている。
そして、私の隣で不満そうに頬を膨らませているのが、弟子のナインティ。人間の姿をしているけれど、その正体は熊。人の心を読むことができる、不思議なエスパー能力の持ち主だ。
ナインティ「もー、師匠は味に厳しいんだから。僕、お菓子作りよりパズルの方が得意なのに」
ハルナ「ふふっ。それも修行の一環ですよ。繊細な味付けは、力の繊細なコントロールにも繋がりますからね」
ナインティ「くあああああああ!頭なでちゃだめえええええ!」
私が彼の頭を優しく撫でると、ナインティは顔を真っ赤にして叫んだ。本当に、猫と間違われるのも無理はないくらい、可愛らしい反応をする。
彼を弟子にしたのは、気まぐれなんかじゃない。
私には、守らなければならないものがある。そして、償わなければならない、罪がある。
(セイン……ハル……セイカ……)
遠い故郷に残してきた、愛する家族。特に、悪魔の道へと堕ちてしまった弟、セイン(ヌシP)のことを思うと、胸が締め付けられる。私自身もまた、アクニンに脅され、その身に悪魔の力を宿している。この力が暴走しないように、常に結界魔法で抑え込んでいるが、その負担は決して小さくない。
ナインティの純粋さは、そんな私の心を、いつも穏やかにしてくれる。
ハルナ「……ん?」
その時だった。お茶を飲んでいた私の手が、ぴたりと止まった。
空気が、揺らいだ。
悪魔の力を持つ私は、世界の理が乱れるのを、敏感に感じ取ることができる。
ハルナ「……ナインティ。何か、感じませんか?」
ナインティ「え?……ああ、言われてみれば……」
ナインティは目を閉じ、集中する。彼の得意な、人の心を読む能力。
ナインティ「なんだろう……。街の人たちの心の声が……すごく、静かなんだ。楽しそうなのに、嬉しそうなのに、その感情の“音”が、全然聞こえてこない……。まるで、壊れたラジオみたいに、ザーザーって雑音だけが……」
ハルナ「……やはり。これは、ただ事ではありませんね」
私は立ち上がり、窓の外を見つめた。
街の景色が、心なしか色褪せて見える。太陽の光も、どこか力弱い。
ハルナ「この気配……。以前、セインが悪魔の道に堕ちた時に感じた、世界の悲鳴に似ています。ですが、もっと静かで、陰湿……。じわじわと、世界が内側から腐っていくような……」
ナインティ「師匠……?」
ナインティが、不安そうな顔で私を見上げる。彼には、私の抱える秘密のすべてを話してはいない。だが、私が何か大きなものと戦っていることには、気づいているだろう。
ハルナ「ナインティ。少し、街の様子を見てきましょう。あなたのその目で、人々の心を、もっと詳しく視てください」
ナインティ「うん、わかった!師匠の役に立てるなら、僕、頑張るよ!」
私たちは、顔を見合わせると、静かに頷いた。
師匠と弟子、そして熊。
私たち「Lv99」もまた、この色を失い始めた世界の異変に、足を踏み入れる。
この先に、私が探し続けている弟の姿があるとも知らずに。
ハルナ「(セイン……。もし、あなたがこの事件に関わっているのなら……。今度こそ、姉として、あなたを……)」
私の胸に、決意の炎が静かに灯った。
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少年少女大戦 セイセイ @saysaysan
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