第13話「最強属性ERRORS、道端の猫?」
街の喧騒から少し離れた、古い倉庫街。
コンテナの影が長く伸びるその一角に、私たち「ERRORS」はいた。
最強の水属性である私、アクア。最強の風属性である双子の妹、リケーン。そして……。
ラブリー「にゃっはー!今日の空はとっても青いのニャ!お昼寝にぴったりニャン!」
最強の炎属性(今は猫の姿だけど)のラブリー。
私たちは、誰にも見つからないように、こうして三人で静かに暮らしている。強すぎるこの力は、人を傷つけてしまうかもしれないから。
アクア「……リケーン。今日の風、何か変」
リケーン「うん……、わかる、アクア。いつもみたいに、街のいろんな匂いを運んでこない……。なんだか、空っぽの風……。吹いてても、つまらない……」
リケーンは、私の後ろに隠れながら、不安そうに空を見上げている。
私も同じことを感じていた。流れる雲も、大気に含まれる水分も、どこか活気がない。まるで、世界から命の潤いが、少しずつ失われているような……。
ラブリー「うーん?そうかニャ?ワガハイは、お腹が空いたことしか分からんのニャー!」
天真爛漫なラブリーは、私たちの不安など気にも留めず、ごろりと地面に寝転がった。私とリケーンは、そんなラブリーのことが大好きだった。彼女は、私たちが倒れていたところを助けてくれた、大切な恩人だから。
ラブリー「むにゃ……。そういえば、最近、胸の奥がチクチク痛むのニャ……。らぶ様……?ハート様……?うーん、誰のことだったかニャ……」
ラブリーは時々、こうして知らない名前を口にする。彼女は記憶を失っているのだ。 その度に、彼女の炎が、少しだけ悲しい色に揺らめくのを、私とリケーンは知っていた。
ラブリー「そうだ!こんな日はお散歩に限るのニャ!何か美味しいもの、落ちてるかもしれないニャン!」
そう言うと、ラブリーはぴょんと立ち上がり、街の方へと駆けだした。
アクア「……待って、ラブリー。危ない」
リケーン「一人で行っちゃダメだよー!」
私たちは慌てて、その後を追いかけた。
街は、やっぱりおかしかった。人々は無表情で、街灯や看板の色も、心なしかくすんで見える。
ラブリー「にゃ?にゃんだにゃ、あの子は……」
ラブリーが、路地の隅でうずくまっている、一匹の三毛猫を見つけて足を止めた。
ラブリー「どうしたのニャ?元気ないのニャ?」
彼女がそっと近づくと、三毛猫は弱々しく「にゃあ……」と鳴いただけだった。その美しい三色の毛並みは、色褪せてほとんど灰色になってしまっている。
ラブリー「大変ニャ!この子の“キラキラ”が、全部なくなってるのニャ!」
ラブリーは、今にも泣きそうな顔で三毛猫を抱き上げた。
私も、その猫から発せられる生命力の弱さに気づく。まるで、枯れかけた花のようだ。
アクア「……かわいそう」
私がそっと猫に手をかざし、水の力で癒やそうと試みる。猫は少しだけ元気を取り戻したけれど、根本的な問題は解決していない。色褪せた毛並みは、元の鮮やかさを取り戻さなかった。
ラブリー「うぅ……。どうしてこんなことに……。こんなの、ひどすぎるのニャ……」
ラブリーの瞳から、ぽろりと大粒の涙がこぼれ落ちた。
その涙を見た瞬間、私の中で、何かが変わった。
アクア「……ラブリーが、悲しい。それは、わたしも悲しい」
リケーン「ラブリーを泣かせるなんて……!アクアまで悲しい顔をさせてるなんて……!」
リケーンの周りに、小さなつむじ風が巻き起こる。彼女の瞳が、怒りの色に染まっていく。
リケーン「――絶対に、許さない!!」
アクア「……うん。この街は、泣いている。助けないと」
いつもは力を暴走させないように、感情を抑えている。 でも、今は違う。
大切な仲間が、理由もわからずに泣いている。
こんな理不尽、許してはいけない。
ラブリー「アクア……リケーン……」
アクア「行こう。この子をこんなふうにした、悪い奴を、見つけに」
リケーン「見つけ出して、全員、吹き飛ばしてやる……!」
最強の力を持つ、はぐれ者三人。
私たちは、お互いを守るためだけに、その力を使うと決めた。
ラブリー「うん!行くのニャ!この子の“キラキラ”を、取り返しに行くのニャ!」
ラブリーが涙を拭って、力強く頷く。
私たちは、色を失った街の中心……ひときわ強い「悲しみ」と「淀み」を感じる、中央公園へと、静かに歩き出した。
最強の三つの属性が、今、初めて同じ目的のために動き出す。
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