第12話「アンドロイド姉妹の日常・+-」

マイナ「ふんっ!ふんっ!せーのっ、よいしょーっ!」


カラフルプロダクションのトレーニングルーム。私、キツネ型アンドロイドのマイナは、特製の巨大バーベルを軽々と持ち上げていた。私にとって、これくらいの運動は朝飯前だ。


マイナ「はー、いい汗かいたー!やっぱり運動は最高だね!」


タオルで汗を拭いながら、私はトレーニングルームの隅っこに目を向けた。

そこには、ソファの上で充電ケーブルに繋がったまま、すやすやと眠っている私の妹、プララの姿があった。


マイナ「こーら、プララ!また寝てるー!少しは運動しないと、ボディがなまっちゃうよ!」


プララ「んぅ……。プララは省エネ主義なの……。それに、運動なんてしなくても、マイナが全部やってくれるし……。むにゃむにゃ……」


マイナ「もー!そういうわけにはいかないでしょ!」


全く、この妹はしょうがないんだから。

私とプララは、とある博士によって作られたアンドロイド姉妹だ 。力が強くて元気いっぱいな私と、省エネ主義でいつも眠そうなプララ 。性格は正反対だけど、私たちはとっても仲良し。


マイナ「(……いつか、私たちを作ってくれた博士に会えたらいいな……)」


私たちは、自分たちを作ってくれた博士の顔も名前も知らない 。でも、きっとどこかで私たちのことを見守ってくれているはず。そう信じている。会って、感謝の気持ちを伝えたい。それが、私たちの夢の一つだった 。



プララ「……ねえ、マイナ」


マイナ「ん?どうしたの、プララ。起きたんだ」


いつの間にか目を覚ましたプララが、ぼんやりとした目で天井を見つめながら呟いた。


プララ「最近、街のノイズ……ひどくない?」


マイナ「ノイズ?」


プララ「うん……。なんていうか、人の感情の波長が、すごく乱れてる……。みんな笑ってるのに、そのデータが空っぽっていうか……。バグってるみたいで、うるさくて、眠れない……」


人にはあまりなつかないプララだけど、そのぶん、周囲の環境の変化には敏感だ 。特に、私たちアンドロイドが感知する、人間たちの発する微弱な生体エネルギーの波長……その乱れを、彼女は「ノイズ」として感じ取っていた。


マイナ「そういえば……。最近、街を歩いてても、なんだかみんな元気がないような気がするかも。楽しそうなのに、どこか寂しそうというか……」


プララ「でしょ……。プララ、ああいうの、苦手……。心が、ざわざわする……」


そう言って、プララは私の服の裾をぎゅっと掴んだ。人見知りな彼女が甘えてくるのは、本当に不安な時だけだ。


マイナ「よし!わかった!」


私はプララの頭を優しく撫でると、にぱっと笑って立ち上がった。


マイナ「それなら、私たちがその『ノイズ』の原因を突き止めよう!街のみんなが元気になれば、プララもぐっすり眠れるでしょ!」


プララ「えぇ……。めんどくさい……。マイナ一人で行ってきてよ……」


マイナ「だーめ!二人で『+-(プラスマイナス)』なんだから!それに、これは人助けだよ!困ってる人がいたら、助けるのがヒーローでしょ!」


私は、半ば強引にプララの手を引いて、トレーニングルームを飛び出した。

私たちが事務所のロビーに出ると、ちょうどグレーケル社長たちが、険しい顔で何かを話し込んでいるところだった。


グレーケル「……リトル4リトル……。彼らの次の狙いは、一体どこになるのかしら……」


マイナ「あ、社長!こんにちは!私たち、今から街のパトロールに行ってきまーす!」


グレーケル「あら、マイナさんにプララさん。パトロール?何かあったの?」


マイナ「はい!プララが、街のノイズがひどくて眠れないって言うので!私たちが原因を突き止めて、解決してきます!」


私の言葉に、グレーケルさんたちの顔色が変わった。


レトリバー金「ほう、アンドロイドのお前たちも、この異常を感知していたか。ノイズ、ね。面白い表現だ」


ハート「……あなたたちも、気をつけてください。この事件の犯人は、私たちの想像以上に、危険な相手かもしれませんから……」


よく分からないけど、どうやら社長たちも、同じ事件を追っているみたいだった。


マイナ「大丈夫です!私、力には自信ありますから!どんな悪い奴だって、このアイアンクローでぎゅーっとしちゃいます!」


私は力こぶを作って見せる。

その時、ロビーのテレビモニターに、緊急ニュース速報が映し出された。


アナウンサー『――次のニュースです。本日、〇〇地区一帯の通信システムに、大規模な障害が発生。原因は不明で、現在も復旧の目処は立っておりません。専門家によりますと、これは外部からの極めて高度なハッキングによるものではないか、との見方も――』


プララ「……ハッキング……?」


プララが、そのニュースに、ぴくりと反応した。


プララ「このノイズ……。ただのエネルギーの乱れじゃない……。もっと、人工的で、悪意のある……。誰かが、この街のシステムそのものを、内側から壊そうとしてる……?」


いつもは気だるげな彼女の瞳に、鋭い警戒の色が浮かぶ。

省エネ主義の彼女が、本能的に危険を察知した瞬間だった。


マイナ「プララ……?」


なんだか、よくないことが起きている。

でも、大丈夫。私とプララ、二人がいれば、きっと何とかなる。

だって私たちは、最強の姉妹なんだから!

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