4.餞
――――君はそっとその機械に入った。ふふ、君の好奇心は留まることを知らないねえ。まあ僕だって人のことは言えないけれど。ああ、扉がゆっくりと閉まっていくよ。君はどうなってしまうんだろうね?
……残念、君を脅かすような危険なことは起こりませんでした。もしかしてちょっと期待した? 僕はそんなに悪人じゃないよ。一応研究者として世界を救おうとしてるんだから、そんなに疑われるとちょっとショックだね。
ん? 機械のトラブル……まあ、そういうことが起きる
あ、もしかしてトラブルを起こしてそこから出ようとした? 残念。動けないでしょ? ようやく脱出の
……よし、異常なし……っと、ロックを解除してあげよう。ほら、出てもい――――
君は僕の首を締めた。ねえ、苦しいよ、ほら、僕の身体は脆いし、そんなに急がなくたってすぐ死ぬよ。だからそんなにきつく締めないで……苦しい、まだ僕は、死んでないから……まだ間に合うから……やめ……っ。
なーんてね。君が僕のボディを壊したところで、僕の本体……すなわち脳は別の機械にあるのでした〜。ああ、苛々してるね。ごめんね、僕一応研究者だからそういうリスクには備えてるんだよ。
君はスピーカーから聞こえる声に苛立ってその場にある機械をひたすらなぎ倒した。あれれ、いいのかな? さっきの彼、すぐそこにあるよ?
君が目を向けた先には、なんともいえない色の液体があった。それは君があのボトルに注ぎ込んだものそのものだ。さてどうする? 君は怒りに任せてそれも投げるのかい?
君はある一点を見つめている……ただ、何もしないままに。……君、もしかして、僕を見つけたね?
ちょっと待ってよ、ね?ほら、あ――――
ケースを叩き割り、中にある謎の物体を踏み潰した。原型がなくなるまで踏み潰した。最後にあのお兄さんの中身もかけてやった。気持ち悪い色が真っ白い床に広がっていく。
――――はは、これは僕への
第一君にこんなにぐちゃぐちゃにされて死にかけだよ。というか、そろそろ死ぬ気がするよ。思考バックアップもそう長持ちしないように設計しちゃったしなあ……にしても最後に僕の研究のおかげでこうして話せるとか、研究者として最高すぎるよね。
ねえ、君。君はちゃんと研究者になってくれるって信じて最期に話をするよ。
――――人類を溶かしたのはね、僕たちの祖先だ。つまり、コピー元ってことかな。僕たちにも受け継がれているようにその人間の知的好奇心は凄まじかった。発明してしまった物質をうっかり外に漏らしてしまってこのざまだよ……しかも人間以外には融解作用は働かない。
僕たちはその対処法を見つけるためにこうしてコピーされ続けているんだ……うん、ねえ君? 僕には君がその人間のようになってしまうんじゃないかという予想をせずにはいられないんだ。でも僕は死ぬからそれを見届けられない。はあ、悲しいねえ。
でもいいよ。僕、一応後継を準備しただけちゃんと仕事してるでしょ。諦めきれないけど……うん、仕方ないよねえ。え、あと数分? 待って、データは保存してあるし君でも見られるようにしてあるけど……他に伝えることあったかな。
……うん、ないや。よし。全部君に託すからね。心配でしかないけど。
――――君が
うざったい声は聞こえなくなった。これからどうしようか。この汚い床をどうしようか、研究者の死体をどうしようか。
まあ、いいか。いかにも高そうな背もたれ付きの椅子に腰掛ける。この世界は、もう手中にある。スクリーンらしきものには、人類を融解させた物質について綴られている資料が映されている。どうやらこの研究室にも一部保管されているようだ。
……融解。そばにあるボタンを押した。そこに書かれていたのは――――
融解の標 冷田かるぼ @meimumei
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