第27話 File6 二人の探偵5

この作品はフィクションであり、実際の人物・団体・事件とは関係ありません。
















時間は朝を迎え、時折雀の鳴く声が聞こえてくる。

その声に導かれるように明が起床し、ベッドから降りると涼もそれに続く。まだ眠気は残っていて頭は覚醒しきっていない、ただそれでも分かる事があった。


「…この人、寝落ちでもしたのか」

「お酒飲んでて寝ちゃったんだね多分」

リビングまで来るとテーブルに突っ伏して爆睡している下田の姿が見える、昨日は正と話しながら下田は酒を飲んでいて途中で眠りに落ちてそのまま眠ったようだ。

その正の姿はリビングには無い、今頃自分の部屋でまだ夢の中に居て快適な睡眠の真っ最中なのだろう。



「まあ、朝飯出来るまでは二人とも寝かせとくか」

ふあ~っと欠伸しつつ明は台所へ歩く、朝食の支度は飯係である明の役目だ。正が一人の時は料理を作らず買ってきた物かココアだけで済ませる事がほとんどだったが双子が居候してきてからは朝食を食べる事は当たり前となっている。




「ん~~?」

台所から香ばしい匂い、フライパンで焼く音によって下田は夢の世界から現実世界へと帰還し目覚める。寝ぼけ眼で台所の方を覗き見すれば明がウィンナーをフライパンで焼いている。子供ながら中々の料理の腕だ。

涼は皿の用意をしてテーブルに並べたりしていた。

「(うちの事務所にもこういう可愛いの居てほしいもんだなぁ)」

下田の事務所には無い正の事務所に居る双子の存在が下田は羨ましく思えてくる。




とりあえず下田は眠気覚ましついでに正を起こしに行った。予想通り自分の寝室で夢の世界真っ只中であり、その正に対して下田は乱暴に正の身体を揺らす。

「子供働かせて呑気に寝んな、さっさと起きろーー」

「ぐ…?」

強引に目覚めさせられ、正は下田の姿を最初に見ると何でこいつがうちの事務所にと思ったが昨日の事を思い出してそうだったと納得。そして下田が酒に潰れて寝落ちしたという記憶も蘇ってきた。

「下田…あんた意外と早起きだな」

「料理人のお坊ちゃんの作る美味そうな飯の匂いで起きれただけだ。それより、今日は西荻窪に行くぞ」

「西荻窪?急にどうした」

意識が覚醒してきた正は更なる眠気覚まし代わりとして元々自分の受けていた依頼を思い返す。


依頼人は主婦の柳本秀子、依頼内容は失踪した息子である明人の捜索。彼について調べて行っている途中でこの下田と出会って行動を共にしている、彼と情報収集していくと明人はラッシュ&スターという半グレの組織の一員である小間口六郎と揉めている姿が見られていた。

小間口は西荻窪で複数犯からの殴打による暴行で死亡、明人はどう関わっているのかと彼の行方を捜索していた昨日だ。



「知り合いの情報屋が西荻窪に居てな、そいつに調べさせていたら…明人らしき奴を見たんだとよ」

「何…!?」

この依頼が始まってからずっと探し続けていた明人、その男が西荻窪に居る。それが本当なら有力な情報でありすぐにでも此処から西荻窪へ向かわなければならない。

「だったら今すぐにでも西荻窪に行くべきだろ」

「まあ待て、その前に…朝飯食ってからにしようぜ?美味そうな飯お預けでそのまま直行はキツいしよ、見つけたらそのまま尾行を奴はしてるはずだし。焦るなって」

「………」

下田の言う事も分からなくはなかった、正の方が一刻も早く明人を見つけようと急ぎの行動を取ろうとしているが焦っても良い結果は出ない。落ち着いて飯を食ってそれから西荻窪に行こうと下田の案に此処は乗る事にして正は下田と共にリビングへ向かう。



テーブルにはトーストとベーコンエッグが並べられており、正が欠かさず飲むココアの入ったコップも置いてある。

明の作る朝食は美味しく普段朝食を食べる方ではない正もぺろりと平らげる事が出来た。下田の方は正よりも早く朝食を完食しており身支度は既に整えている。

正もココアを飲み終えると外へと出る準備を済ませ、正と下田は事務所を出て秋葉原の駅へと入りそこから電車で西荻窪を目指す。





昔ながらの下町レトロな雰囲気の店や多くの商店街がある西荻窪、狭い通路には沢山の飲み屋が並び店外の席に座って酒を飲む事も出来る。

このような所で殺人事件があるとは信じられないが、規制線が張られているのを見れば実際起こったのだという事を思い知らされる。

その事件に明人がどう関わっているのか、この西荻窪で彼を下田の知り合いの情報屋が見かけたという話だが正は当然その情報屋の事を知らないのでどういう人物なのかは分からない。此処は下田頼りだ。


下田は正を連れて歩き、駅からはどんどんと離れて人とすれ違う事があまり無い住宅街を歩く。この辺りまで来るとほぼ店は無い。

「こっちだ」

下田は途中の路地裏へと入り、正も続いて路地裏に入って行った。暗く狭い道、こういう所は身を隠すにはもってこいだろう。

少し歩いて行くと、暗闇に身を潜めていた一人の男と出会う。


「よお、新平」

「おうご苦労さん」

身なりはあまり綺麗ではない茶色のハンチング帽を被った中年の男性、その風貌はホームレスを思わせるがやり取りを聞く限りでは下田がこの男を知っており男が下田を名前で呼ぶ。知り合いと見て間違い無い、そして尾行していたという情報屋は彼なのだろう。

「大変だったぜぇ、若いあんちゃん見かけた時は離れず尾行するとかそいつはもう骨が折れた折れた」

「わーったわーった、代金は弾んでおいてやるから」

そう言うと下田は自分の財布を取り出し数枚の万札を情報屋の男へと押し付けた、そこに情報代やその他の手間賃も含まれているのかもしれない。

「お探しの兄ちゃんはこの先のボロ家に居る。そこで秘密基地みたいにして身を潜めてるかもな、そんじゃ俺は此処までって事で飲んでくるわぁ。ひと仕事の後の酒はうめぇからなー」

「ほどほどにしとけよ」

これから飲みに行くのであろう情報屋を見送って下田は改めて前を見据えた。此処から先は正と下田の仕事だ。

この先のボロ家に探し求めていた明人が居る、依頼を受けてからそう日は経っていないが長くかかったような感覚だった。暗闇の細道を気をつけながら二人の探偵は歩き進み、目当ての建物はすぐに見えた。



そして偶然にも探していた相手にはそこですぐに会う事が出来た。


「!」

「……明人…!?」

これから何処かへ移動しようとしていたのか、ボロ家の入口から出て来る人影が見えた。それが誰なのか注目して見れば秀子に写真で見せてもらった短髪黒髪の若い男、間違い無い。柳本明人その人だ。

「ら、ラッシュの連中か!?」

かなり動揺した様子で正達の事をラッシュ&スター、半グレ組織の一味だと思っているらしい。下田の半グレ寄りの格好を見ればそう思うのは無理も無い事ではあるが。

「落ち着いてください、貴方を探していたんです。お母さんである秀子さんの依頼で」

「え…母さんの依頼?」

「ええ、柳本明人さん…ですね?」

此処は正が話をしてとにかく明人本人なのかどうか確認する必要があるのでそれから始め、問いかけに頷き明人本人だと彼は認めた。

「あんたらは一体…何者だ?依頼とか」

「こういう者です」

誰なのかと明人に聞かれると正は名刺を取り出して明人へと手渡す。

「…神王探偵事務所……探偵?」

「俺は違う所だがな」

横から下田は自分はその事務所の所属探偵ではない事だけを明人へと伝える、とりあえずこれで明人が正達の事を探偵だと分かっただろう。



「明人さん、さっきラッシュの連中と言ってましたけど…追われてるんですか?」

「ああ……俺は…見たんだよ」

その身を若干震わせながら明人は話す、何やら相当大事な所を見ていたようで正と下田は彼の言葉に耳を傾ける。


「あいつらは……とんでもねぇ組織だ、ガラの悪いただの不良集団…ならまだマシだったかもしれない。けどあいつらは薬の売買にまで手を染めてたんだ」

「薬…間違いなくやべぇ系で大金になりそうな事だなそれは」

薬の売買、それだけで下田、そして正はラッシュ&スターが何をしているのか伝わった。おそらく麻薬などの売買によって一気に大金を得てそれで組織を大きくしていっているのだろう。その売買している所を明人は見てしまったのだという。

「その組織に俺の友達が関わっていて、俺はそいつに止めるようなんとか説得しようとしたんだ」

「友達……まさか、小間口六郎という人ですか?」

「ああ、そうだ」

明人と小間口は友人、正はハンバーガー店で聞いた目撃情報について思い出していた。確か明人と小間口が言い争いになるようなシーンを目撃したという事だったが、これを聞くとあれは明人が小間口を組織から抜けさせようと説得してそれを小間口が反対して言い返していた。外から見れば言い争いの喧嘩に見えてもその中にはこういう事情が含まれているとはあの時は思いもしなかったかもしれない。

「あいつを追いかけようと西荻窪まで来た、そこがラッシュ達の活動場所だっていうのは調べた。それで小間口を探そうと歩いていたら……複数が一人を殴る蹴るの暴行をその目で見ちまった。よりにもよって殴られてるのが六郎で、殴ってるのは同じ組織の奴らだった。俺は…必死に逃げた、追えって声がして多分俺も気づかれた。捕まったら俺も同じ目に遭う。…人生で一番走ったよ」

「…………」

明人の生々しい目撃証言、それに正も下田も言葉が出なかった。友人を追い求めていたら暴行の瞬間を見てそれによって自身も目をつけられ追われる身になる。

「悔やまれるのは俺があいつを助けられなかった事だ、あいつ…何で急に同じ組織からあんなリンチみたいな目に遭っちまったんだよ…!」

悔しさ滲みつつ明人は何故急に小間口があのような暴行をされる事になったのか分からずにいた、組織の中でも幹部クラスであるなら上の地位のはず。それが何故急にああなったのか。



「…小間口は、組織を抜けるか裏切ろうとしていたんじゃないですか?」

「!?」

「それがラッシュ達からすれば勿論裏切り行為となって幹部という身でも小間口は裏切り者として始末された…」

小間口は組織を裏切ろうとしていたか、組織にとって余程都合の悪い事をしようとしていた。それはあくまで正の推理ではあるがそうでなければ幹部にまで上り詰めた男が急に同じ仲間から暴行されるような目に遭う事は早々には無いはずだ。

「殺人ってのはリスクが滅茶苦茶高すぎる、連中はそれを承知の上で小間口を殺しやがったのか行き過ぎて誤って殺しちまったのか…どっちにしろそこまでの事をしたってのはよっぽど小間口が組織にとって不味い不都合な事をしようとしていたんじゃないか?」

下田の言うようにただ組織から脱退するだけで殺害、そんなリスクある事をラッシュ&スターが組織脱退の理由だけで小間口を亡き者にしたのだろうか。

「明人さん、小間口から何か聞いたりとかそういう素振りを見たとかありませんでしたか?」

「そう言われても……あ」

正から何か知らないかと問われ考えていた明人は何か心当たりがあるような感じで声を上げた。


「このボロ家に何かあるかもしれない」

「此処?貴方の隠れ家では…」

「俺じゃない、此処は六郎が自分のアジトとして使ってたんだよ。俺も度々遊びに行かせてもらって場所は知ってた、この西荻窪で奴らに追われてる中でその存在を思い出してこの場所に逃げ込んだんだ」

そう言うと明人はボロ家の中へと入っていき、狭い入口を窮屈そうに下田が通り小柄な正はすんなりと通る事が出来た。



外見のボロボロな家に反して意外にも生活感のある家の中、つい最近まで活用していたのだろう。此処で生前の小間口、そして明人の二人で。

「あいつが何かこの家に残しているのかもしれない」

「おし、俺らも探すか」

明人はその辺りに小間口が何か残した可能性のある物を探し、下田の言葉を受けて正も頷き二人も捜索を開始する。

居間のタンス、机、台所の冷蔵庫等ありそうな所は隅々まで探してみているが特にこれといったものは見つからない。

「(テレビの下の棚は…レトロゲーム物のソフトかこれ)

秋葉原の中古ゲーム販売店で見る古き時代のゲームソフト、ゲームは今はスマホ一つで気軽に出来る時代だがこういったレトロゲームを好む者も少なくはない。


ゲームで正は思い出す、秀子から明人が新作ゲームが楽しみだというのを言っていた事。これに明人はゲーム好きでその関係先に居るのかと思っていたが、ひょっとしたら明人だけでなく友人の小間口もゲーム好きという可能性はある。

友人同士が家に集まってゲームをする、正にもそういう覚えはある。



ひょっとしたら手がかりは此処ではと正はゲームソフトの棚を捜索する。

「明人さん、小間口も貴方も…相当ゲーム好きなんでしょうか」

「ん?ああ。暇さえあればやってたな、今度の新作ゲームはあいつが好きだった作品がリメイクする。それを一緒にプレーするのが楽しみだったんだけどな」

新作ゲームが楽しみだ、明人のその言葉は友人である小間口と再びそのゲームをするのが楽しみだという意味だった。

その小間口はもうこの世にいない、それだけが悔やまれる。


「……小間口さんが好きだったゲーム、それはなんですか?」

「あいつが好きだったゲーム?何だ急に。ゴールドブラザーズっていうアクションゲームだ」

正は明人からそのタイトルを聞くと棚の中を探す、ゴールドブラザーズ。そのタイトルのソフトはすぐに探し当てる事が出来た。

ゲームソフトを手に取るとパッケージには二人のカウボーイ風な男二人のキャラが写っている。この二人が主役で敵を倒していくアクションゲームなのだろう。

「神王、ひょっとしてそれは……」

下田はそのゲームを見て気づく。それが小間口お気に入りのゲーム、証拠を残すとしたら自分の大好きなゲームに残す。本人にとってもそれが一番分かり易い事だろう。正もその可能性を信じてパッケージの箱を慎重に開ける。


中身はゲームソフトと説明書、更にUSBメモリーがある。

「これは…」

「こんなの元々無かったぞ……まさかこれがあいつの…」

明人にも覚えの無い物、ひょっとしたらこれが小間口が残した唯一の証拠か、詳しく調べるなら白石の居る警察署が一番良い。正はメモリを手に取る。

「おし、早いうちにさっさと行くか。明人、お前も来い。俺らと一緒の方がお前の身は安全だ」

「ああ…俺もその方がありがたいよ」

このまま明人を一人にしておけば間違いなくラッシュ&スターの連中に狙われる、正と下田が警察に向かってる間に最悪のケースが起こるかもしれない。相手は殺人を犯す程の凶悪組織だ、それだけはなんとしても避けなければならない。明人はこのまま正、下田と行動を共にする事を判断した。




隠れ家を出て暗い路地裏を通り抜け、やっと明るい光の下へと出られる。これで明人と共に後は警察へメモリを届け調べてもらう。

そんな時に厄介な客達は待ち構えてたかのように居た。


「!?お、お前らは…」

明人は思わず一歩後ずさりする、何故ならその顔に覚えがあるからだ。いずれもガラの悪い男達、立派に不良と言ってもいい人種。

そんな連中がわざわざ正達を待ち構えていた。不良でもこういう事をする連中は限られてくる。

「ラッシュ&スターの奴らか…」

正が呟くとガラの悪い男達はいずれもニヤニヤと笑みを浮かべている。

「やっぱ此処にいやがった、此処が小間口の野郎が使ってた秘密基地だったからな。そんで…ご丁寧にも証拠はそこにあったか。泳がせとけばあいつの残した証拠を取ってきてくれると思ったぜ」

ボスらしき体格の大きな男、筋肉質でかなり強そうで他の不良より威圧感がある。

「フン、他人任せかい。そりゃまた効率的なこった」

「この方が無駄に走り回るよりも良いからな、単に追いかけ回すより効果的だったのは証明されたよなこれで」

ラッシュ達は明人を追いかけ回していたが彼らは一旦追うのを止めた、これにより明人にもう追ってきてないと安心させておく。それで彼を監視して小間口の残した証拠を探させるという手口、下手に自分達があてもなく探すよりも小間口を知る明人に探させた方がより確実に証拠を見つけてくれるだろうと。

どうりで明人が組織に追い掛け回されて未だに無事でいられた訳だ、その気になれば本気で捕まえて明人を葬り去る事も出来ていたかもしれない。それをせず証拠を探させて明人が無事だった事は不幸中の幸いと言える。

「お前ら…小間口殺しといてよく笑ってられるな!」

「あんな裏切り者死んでよかっただろ、おかげでこっちは厄介払い出来てせいせいしてるぜ!」

笑う連中に明人は怒りの表情を浮かべる、友人をその手にかけておいてへらへら笑ってられる態度に対して当然の反応だ。



「それは…あんたらが小間口をやったと自白と受け取っていいのかな?」

正は冷静に男達へと問いかける。小間口を殺害したのはお前らかと。

「そうだ、まあ知った所でお前らもあいつと同じ場所に行ってもらうけどな。そいつと行動してなきゃ死なずに済んだのによ」

ラッシュ達は正達を生かして帰す気は無く、3人も小間口と同じようにするつもりだ。そして証拠も纏めて消し去るという寸法なのだろう。不良達大勢が正達の前に立ち塞がる。




「そうか………………お前らが最期に吐く言葉はそれで終わりでいいのか?」

「ああ?」

言葉は冷静、しかし確実に正は連中に対して怒っている。

「このガキ、俺らとやるつもりかよ?こんなチビが、笑わせるぜぇー!」

一人の男が正へと笑いながら殴りかかる、完全に見た目で舐めてかかっている。



ガッ


ドゴッ


「がぁっ!」

「!?」


殴りかかってきた男に対して正は男の腹に膝蹴り、さらに顔面へと飛び蹴り。いずれも男の腹や顔にクリーンヒットし、男はあっさりと仰向けに倒れてダウン。ラッシュ側にどよめきが生じて来ていた。


「ひゅう、やるねぇー。流石合気道の名門家の坊ちゃんって所か」

「知ってたのかよ。…まあ別に構わない、それよりあんたは明人連れて離れた方が…」

「いーや、俺も最近ちょっと運動不足なもんでね。軽く暴れさせてもらおうかな」

下田は何処で調べたのか正の身元を知っていた。その彼は手をポキポキと鳴らしており、彼も戦うつもりのようだ。


「この野郎!容赦すんな!殺せ!!」

ボスが声を荒げ、その声と共にラッシュ&スターの半グレ達は襲いかかる。



「おおらぁ!」


バキッ


「がは…!」


向かってきた不良の一人に下田は顔面へとパンチを撃ち、不良は崩れ落ちるように倒れる。ボクシングで言う右のフック、少なくとも下田は格闘経験がある事は確かのようだ。そうでなければあんな良いパンチで一発で相手を倒す事は出来ないだろう。



「ぐお!?」

「でぇっ!」

二人がかりの挟み撃ちで不良達は正を倒そうと同時に攻撃しに行ったが正は寸前の所で小柄な身体を活かして躱し、二人が放ったパンチがそれぞれ互いの顔に当たる。



ドボッ  バガッ


「げほぉ!」

「がっ…!」

それぞれの同士討ちに怯んだ所に正はそれぞれ腹に膝蹴り、顔面に肘打ち。容赦無い打撃を繰り出し、不良達を倒していく。



ボカッ バキッ


「ギャッ!」

「ぐはっ!」

下田の方も相手の顔面へとストレート、更にボディブローと主にボクシング主体の格闘技で向かって来る相手を殴り倒している。




「それだけデカい図体してお前は来ないのか?腰抜けのヘタレ野郎」

「な……んだとぉ!このクソガキ野郎が!ブッ殺す!!」

ボスの前まで来て正は挑発の言葉を放つ、これに相手は怒りが頂点にまで達して正へと真っ直ぐ向かっていく。体格を生かして力任せの体当たり、迫り来る大柄な男。普通ならこれは逃げるが、正を相手にこの攻撃は完全に逆効果だった。



それに気付いた時にはもう遅いが。





ズダァァァンッ



「ごあ…………あ……」

突進して来た相手の力を利用して地面へと投げて叩きつける、正の合気道が炸裂。思いっきり地面に叩きつけられた男はもう戦う力は残ってないだろう。


他に残ってる奴はいないかと正は周囲を見回してみる、気づけば正、下田、明人だけが立っておりラッシュ&スターの連中は全員地面に倒れていた。



「ふー、良い運動になったなぁ」

「あんたも中々やるじゃないか」

不良達を全員倒して下田は一息ついていた、彼は喧嘩も強いというのがこれで分かり中々タフな探偵だと正は彼の認識を改めたのだった。



「……探偵って強ぇんだな」

正や下田がラッシュ&スターを喧嘩で倒した所を目撃した明人は呆然としながら呟く。





その後に正は下田、明人と共に隠れ家で見つけたUSBメモリを秋葉原警察署へと届けて白石に調べてもらう。

結果はラッシュ&スターの犯罪の証拠がこれでもかというぐらい出て来た。やはり薬の取引をしていた事は間違い無いようでこの半グレ組織に対して警察はすぐ動き正や下田に痛めつけられて満足に動けない所に警察が来ては彼らも逃げられず、更に正達を襲撃しに行った時に自白ともとれる言葉を下田の方でボイスレコーダーで撮っておりそれも証拠となって彼らは逮捕された。


これでラッシュ&スターは終わりを告げる事は間違い無い。




そして明人は秀子の所へと連れて行き、親子は再び無事に会う事が出来た。

「明人…!」

久々に見る息子の姿に秀子は目に涙を浮かべる。これに明人は申し訳なさそうな表情をしていた。

「あー……心配かけて、悪かった母さん」

「本当に!この子はもう…!無事で本当によかったよ……!」




親子の再会を水を差さないように遠くから秋と下田は見守っていた。

「しかし…あんたも母親の秀子さんから依頼を受けていたなんてな」

「それはこっちの台詞だ、まさか俺達同じ依頼人から同じ内容の依頼を受けていたとはね」

正に依頼をしただけでなく秀子はそれだけでは不安に思ったのだろう。下田の事務所にも頼って探偵二人に動いてもらっていた。互いに依頼人は誰なのかは守秘義務があったので明かせなかったが蓋を開けてみれば同じ依頼人だったという。

その結果として正と下田は依頼の途中でああいう形に出会ったのだった。



「まあ、中々レアケースな依頼だった。縁があったらまた会おうや」

依頼は終えたので二人が共に行動する理由はもう無い、下田は振り向かず軽く右手を上げながら歩き去っていった。


別れはあっさりと済ませる、多分それが彼なのだろう。正もそれ以上は言葉は言わず彼の姿を黙って見送る。



「…(ちょっと、寄ってくか)」

このまま事務所へ戻ろうかと思ったがふと思いついて正は帰る途中で寄り道をしてそれから事務所へと帰還する。








「明ー、そっちの敵倒してよー」

「ちょ…操作がまだイマイチ慣れなくて…あーやられる!」

神王探偵事務所内は二人の子供のゲームをする声が目立つ、明と涼の二人がコントローラーを握ってテレビ画面に向かってゲームをしている。

そのゲームはゴールドブラザーズ。

小間口が好きだったゲームで明人と二人でよくプレイしたアクションのレトロゲーム。正は秋葉原のゲームショップを覗いて行くと運良くゴールドブラザーズは発見出来た。それをゲーム機共々買って二人へプレゼントしたのだ。



小間口と明人がやっていたゲームを今こうして明と涼がゲームをしている。この光景を小間口が見たらどう思うのか、彼は喜んでくれるのか。

などとらしくないと我ながら思って正はココアを飲む。





探偵神王正の物語 File6 二人の探偵 終

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