SS5 書籍発売記念

【某月某日 白の曜日のアルフレッド】


「絶対にこれは団長の所為ですよね」


 ちっ! 私語を慎め!


「私の所為だけではないでしょう」


 お前もだジークフリート!


「そもそも何故、冒険者ギルドの手を借りるのですか?」


 そもそも今回のことにしても、俺が行く必要なんてなかったはずだ。あんなよく分からないダンジョンなんて。そもそもアレがダンジョンなのかも疑わしい。


「もう、俺は副団長を休みにさせていいと思います。いつにも増して機嫌が悪い」

「そう言われましてもね。赤竜騎士団の副団長としての仕事はして欲しいです」


 仕事? これのどこが俺の仕事だ!

 冒険者ギルドとの交渉だけなら、俺が居なくてもいいはずだ。

 そんなことよりも、シアとデートしている方が有意義な時間を過ごせる。


「団長。息苦しいほど機嫌が悪い、副団長の顔を見て言ってください」

「……アルフレッド。少し殺気を抑えようか」

「あ?」


 何故、そんなことをジークフリートに言われなければならない。


「これは交渉どころではないと思いますよ。団長」

「はぁ。この機嫌の悪いアルフレッドに私達は慣れていますが……」

「こればかりは慣れませんよ」

「慣れていますよね? しかし冒険者たちは違います。この機嫌の悪いアルフレッドと数日過ごしてもらわないといけないのです。この状況ぐらい耐えてもらいませんと駄目ですよ」

「最低条件が厳しい」

「団長。何年経っても慣れません」

「誰に頼むのか知らないが、可哀想だ」


 口々にいいたいことを言っているが、人が近づいて来ている。


「黙れ」


 俺は怒気を込めて部下たちを威圧する。

 今は、ダンジョン探索に慣れた者を紹介してもらうために、冒険者ギルドに来ているのだ。

 私語は慎め!


 すると、誰も彼もが貝のように口を閉じた。初めから閉じておけば、何も言わなかったが?


 いや、そもそも俺がこの場にくる意味がない。だったら、休みをくれてもよかったのではないのか?

 白の曜日は予定を入れるなと何度も言っているのだから。


 誰もが口を開かなくなったところで、扉をノックする音が室内に響き渡る。


「どうぞ」


 それに対してレイモンドが答えた。俺のことを皆が副団長と呼ぶが、レイモンドも副団長だということを皆が忘れているのではないのだろうか。

 そんなレイモンドはヴァンアスール公爵家の力で副団長の地位になったのだろうという噂が流れている。本人も否定すればいいのに、放置しているから、悪いのだ。


「お待たせしてしまって、申し訳ありません」


 体格の良いスキンヘッドの男が入ってきた。この男が冒険者ギルドのマスターだ。

 俺から見ればまぁまぁ腕は立つと言う程度だな。


 その後ろから、目立つ金色の鎧が入ってきた。確か、『黄金の暁』とかいう者たちだったか? こんな程度の者たちがあのダンジョンを攻略できると思っているのか?

 ダンジョンは管轄外だから、本職に頼んだほうがいいと決まっている。

 恐らく腕が立つよりも他のノウハウが必要なのだろう。


「『黄金の暁』のリーダーのデュークです。デューク、こちらがこの度の依頼者の赤竜騎士団の皆様だ」

「お初にお目にかかります。『黄金の暁』のリーダーを勤めておりますデュークと申します。以後お見知りおきを」


 冒険者というには所作が綺麗だ。元は貴族の出の者か。


「実はもう一人頼んでいるので、その者が到着次第、始めさせていただきます」


 このギルドマスターはふざけたことを言いだした。ここまで俺達を待たせておいて、さらに待たせるつもりか!


「それは困りますね。約束の時間は過ぎてしまいましたよ」


 ジークフリートの言う通り、約束の時間は八時半だった。しかし今は四十分になろうとしている。既に十分近く待たされているのだ。


「それがですなぁ。普通にいけば本人に断られる可能性が大きいので、本日来た時に……噂をすればきましたな。少々機嫌が悪いですが、私が対応しますので……あっ!」


 俺は席を立って、出入り口の扉に向っていく。

 俺達を待たせておいて、その態度はなんなのだ? 殺気を振りまきながら来るというのであれば、殺されても文句はないよな。


「アルフレッド。戻ってきなさい」


 うるさいぞ。ジークフリート。俺を止めるのか? そもそも俺をここに連れてきたのが悪いのだ。

 白の曜日は予定を入れるなと言っていただろうが!


 そして、廊下側から勢いよく扉が開かれた。

 俺はそいつの首を切る勢いで腰に佩いている剣を抜いて突きつけ……


「悪いんだけどさぁ。無理だから、他を当たってもらえ……ます……か?」


 黒い髪の女性の冒険者。見覚えはないが、俺の手は寸止めで剣を止める。


 シアだ! 黒髪の黒い目のシアだ!


 俺が会いたいと思っていたから幻覚でも見ているのか? 幻覚でもいい。なんて可愛いのだろう。

 黒いシア! とてもいい!


 俺に驚いて、瞳孔が縦に伸びている。


 些細な変化を見せているのもいいなぁ。

 最近はこういう姿を見せなくなってしまって淋しいと思っていた。竜人の姿をしたシア。可愛い。これどうすればいいのだろう? 


 黒のシアに見惚れていると、シアの姿が消えた。そして背後から声が聞こえる。


「報酬がいいからって、人を騙すようなやり方は好きじゃない、このハゲ。私はこの依頼は断るから、このハゲ」

「アリシア、何度も言うがハゲではなくスキンヘッドだ」


 そう言ってシアは部屋の窓側に近寄ろうとしている。もしかしてこのまま逃げる気か?窓から逃げようとしているシアの手を取る。

 が、俺の手が弾かれ距離を取られてしまった。


「ネフリティス副団長。席につけ」


 捕獲すればいいのだろうか?

 逃げるシア。追う俺。なんだか、懐かしい。今は追いかけっこなんて、しなくなってしまったな。


 シアが大きく跳躍した。これは開けっ放しの扉から逃げるつもりか?

 俺は先回りして出入り口の方に向かう。

 すると腕の中に黒色をまとったシアが落ちてきた。


 捕まえた。俺の可愛い天使。




《あとがき》


本日、書籍の発売日となりました。


SS5でした。宣伝ついでにカラーイラストの二枚目のシーンを出してみました。よく見ると、アリシアの黒目の瞳孔が縦に伸びているのです。イラストレーター様にお願いして描いてもらいました!

アリシア可愛い!


そして書籍をお手にとってもらった方はお気づきかもしれませんが、あとがきがありません。


これは白雲が書きすぎてしまったからだと思います。はい、大幅にオーバーして書いてしまいました。


ですので、ここで代わりにあとがきを。


「私の秘密を婚約者に見られたときの対処法を誰か教えてください」を読んでいただきましてありがとうございます。

そして、書籍を購入してくださいました読者様ありがとうございます。


ここまでこれましたのも、皆様に読んでいただき、応援していただきましたお陰です。ありがとうございます。


イラストレーターのEma3様に素敵なイラストを描いていただきました。可愛いフェリシアにカッコいいアリシア。とても素敵です。


そして担当者様。校正様。デザイナー様と沢山の方のお力添えがあって、出来上がった書籍となっております。


応援していただきました読者様に書籍という形でお届けできたことを嬉しく思います。


まだ、お手にされていないけど興味があると思われている方がいらっしゃれば、ぜひお手にとってもらいたいです。


紙本の方は印刷部数が元から少ないので、紙本を好まれるのでしたら、お早めのご注文をお勧めします。

予約段階で残りわずかのサイトもありますので……。よっぽどのことがない限り、重版されないと思いますから。

もちろん電子書籍もあります。そちらは掌編つきです。


そして良かったよっと感想を頂けるのであれば、書籍作品を推してくださると嬉しく思います。


ここまで読んでいただきまして、ありがとうございました。


続きの暗黒竜編は……8月か9月ぐらいから開始できれば……。

今書いている別の作品が終わらないのです(ノД`)・゜・。


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私の秘密を婚約者に見られたときの対処法を誰か教えてください 白雲八鈴 @hakumo-hatirin

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