Bルートエンド 「新しい世界へ」
モモンガがNPCにリアルの世界のことも含めて打ち明けてから一年が経過した。
あれから地上ではいろいろなことがあった。それこそ想定外のことも多く、バランスを取るため東へ西へあらゆることに手を出さざる得なくなったのはもう笑うしかない。
そんな忙しい日々を送っていたモモンガと守護者たちはナザリック地下大墳墓上空二〇〇〇メートルに固定された、空中庭園に来ていた。
モモンガにとってはユグドラシル時代何度来ていた……というよりも、ナザリックを入手するまで、アインズ・ウール・ゴウンのギルメンと美由だけが侵入許可された屋敷の一角を共有倉庫代わりにしていたので、定期的に利用していた思い出の場所だ。
「こっちの世界に来てからはじめてきましたが、あのころと雰囲気は変わってませんね」
地上二〇〇〇メートルに浮かぶ小島。外周を囲む円周状に配置されたローマンアーチはところどころ朽ちた石材のような外見で、アクセントとしてツタ系の植物がより長い年月を風雨にさらされたようにも見せる。しかしアーチの向こうには雲海が広がり、ここが地上ではないことをより印象付けさせる。
「ナザリックとは違う趣があるわね。これは美由様と音改が中心となって作ったと以前いわれておりましたが」
「そうよアルベド。音改との私の二人でいろいろ調べて作り上げたわね」
「なんて素敵なのかしら。私もモモンガ様と一緒に……」
「全体となると大変だからモモンガさんと暮らす部屋をデザインしてみたら?」
「まあ!」
モモンガを愛してる騒動以降。アルベドと美由の仲は良い。なぜか逃げようとしたモモンガも結局はアルベドに捕食……もとい捕獲されて諸問題を棚に上げて婚約。いろいろメドがついたら結婚という事となった。
なお、アルベド同様にモモンガをねらっていたシャルティアだが、現在はペロロンチーノがこちらに移住できるのではと期待し、一生懸命に淑女のたしなみなどを学び誠心誠意努力中である。
さて外周のアーチを抜けると小島の真ん中に配置された広場と一本の大樹。それを中心に、生垣や花壇を配置した洋風の庭園。そしてリアルの古い建築様式に照らし合わせればイギリス様式の洋館。建物の外観は音改が前世の記憶からアイディアとして引っ張りだし、国に残されていたデータベースから復刻した旧古川庭園の洋館である。もちろん内部デザインは残しつつも異世界にいっても住みやすいようにという思いで一級建築士にデザインさせたキメラ的建物だったりする。
「美しいが防衛力という点では。この高度という点で一定の存在は近づくことすらできないのだが護衛を配置すべきでしょうか」
「その辺は不要だよデミウルゴス。あそこに設置されているワールドアイテム。あれのおかげで非戦闘空域になっている。物理的な攻撃はおろか魔法でされ発動できない。テストで毒と食べてみたけど、それすら無縁だったよ」
「音改さま。できれば危険な実験おやめいただきたいのですが」
「なかなか錬金術という技術はおもしろいね」
さて、口々に感想が飛び交うが一行が立ち止まったのは、先ほど話題に上ったワールドアイテム世界転移門の前であった。
「まずみんなには事前に説明したけど、再度確認をするよ。今回の来訪は限定的なもの。人数を絞ったテストであり安全確認の意味を兼ねている。人員もすくなく本日の夕方には帰還される」
「「「はい」」」
「では始めるよ」
音改は合図をすると美由がワールドアイテム世界転移門に振れ、接続先を指定、ゲートを開く。そして音改はワールドアイテム オーディンの左目を起動し、リアル側に連絡をいれる。
しばらくすると、一人、また一人とゲートを抜けくる
「ほら大丈夫だったじゃない」
「いやねーちゃん。いきなり飛び込むなんて男前すぎだろ。安全とか少し考えろよ」
その姿を見た時、アウラとマーレは走り出し抱き着いた
「ぶくぶく茶釜様。お会いしとうございました」
「ぼくも会いたかったです」
「なになに。うちの子可愛すぎない? 私も今日会えてよかったわ」
ぶくぶく茶釜はアウラとマーレに抱き着かれたとき驚いたが、事前にNPCが自我をもって動くと聞いていたため二人と認識したときあまりのかわいい行動に二人を強く抱き寄せるのだった。
対してペロロンチーノはというと。
「おいで。シャルティア」
「はい」
一人もじもじと視線を向けてきていたシャルティアに気が付き、両手を広げ迎え入れるのだった。見た目はイケメンの行動だが、内心では
「(俺の嫁かわいすぎない? 好みをつめこんだ外見と設定。それが自我をもって動き出したって、二次元って実体化できるの?!)」
と一人内心ヘブン状態だったりする。
その後たっち・みーとウルベルトが姿を現し、今回の予定者が転移完了したのだった。
「皆さん来ていただけて本当にうれしいです」
「久しぶりですモモンガさん。とはいってもリアルのモモンガさんとは別件で先日お会いしてきたんですが元気そうでしたよ。こちらのモモンガさんの事情は聞いていますが、いろいろ大変とのことで」
「まさか国王になるとは思いませんでしたよ」
「デミウルゴス。いろいろモモンガさんから聞いている。よく補佐をしてくれていたと。創造主としてうれしく思う」
「勿体ないお言葉にございます」
モモンガの歓待にたっち・みーが答え、ウルベルトがモモンガの補佐をするデミウルゴスに言葉をかける。一年の準備期間をもって四名のギルドメンバーがこちらの世界に来訪することができたのだった。
その道筋は平たんではなかった。
大まかに音改の知識があるとはいえ、あくまで断片的である。結局調査と影響力工作など同時に平行するしかなかったのだ。しかも原作にあるような人間や周辺の種族をただ殺して恐怖で支配するということができないのだ。
そこで表向きモモンガとナーベラル。そしてルプスレギナが冒険者となって名声を稼ぎ、ナザリックの手勢がバックアップをする形でアダマンタイト級冒険者にして人類の守護者への道をすすむこととした。
また、早い段階で帝国皇帝ジルクニフとフールーダ、王国のラナーという人類トップともいえる知恵者に接触し、交渉をかさねていた。なにより真意を知ることができないという理由で真なる竜王を警戒しつつ穏便に進める形で推移していた。
なにより大きな違いはナザリックとしても原作であったようなデミウルゴス扮するヤルダバオトによる王都襲撃による物資強奪を必要としなかったことだろう。なぜなら、この時点で音改のワールドアイテム オーディンの左目と、美由のワールドアイテム 世界転移門があるのだ。サービス終了したユグドラシルサーバからほぼ無制限にデータクリスタルなりユグドラシル金貨なりを補給できたからだ。
しかし、平穏はバカの連鎖によって崩壊した。
帝国とは力を魅せることで、協力関係を構築までこぎつけたのだが……。帝国と王国の戦争に、王国の第一王子が帝国との戦争に物資と戦力がたりないとエ・ランテルの接収を宣言。同時に乱暴狼藉をはじめたのだった。
そこで住民を守るためモモンガをはじめとした冒険者達が立ち上がることとなる。ナザリックの支援でなんとか追い返すことができたのだが、今度は近隣貴族が八本指と結託してエ・ランテルに街道封鎖と略奪による商業破壊をはじめたのだった。結果、帝国およびナザリックからの支援でエ・ランテルの住民を食べさせ、最終的に魔導国の足掛かりとなったのだ。
ほんとうに何があった。
帝国のジルクニフは王国のラナーが何かやったのではないか? といっていたが、実際にラナーに聞くと、第一王子の側近に帝国とたたかう際に物資に不足はないのか? と例年の状況をすこしだけささやいたという。どう考えても、それだけであんな結果にはならない。
ちなみに現在は、魔導国にラナーが人質として王国から送られてくるという話になっているらしい。
本当にどうしてこうなった。
***
さて
中庭の庭園に設置された野外パーティー用のセットに軽食と飲みもの。それらを給仕するセバスとプレアデスたち。守護者も歓待側であるため、それぞれがギルドメンバーの近くで会話するという形となっている。
分かりやすく言えばアウラとマーレはぶくぶく茶釜の両脇を。シャルティアはペロロンチーノの右隣に座り甲斐甲斐しくお世話をしている。
逆にたっち・みーとウルベルトはこの世界の在りように興味があるようで、守護者たちだけでなくモモンガや音改と意見交換しているのだった。
「やはりこの世界は異形種に亜人種が幅を利かせて生存競争に後れをとる人間は苦労していると」
「そうですね。それで結束しているのならまだしも、法国の人類守護が中途半端にうまくいってしまって保護されていた王国は腐敗の嵐で……」
「ちっ。人間はどこにいっても人間ということか」
「結局、魔導国を立ち上げることとなったと。お疲れ様です。モモンガさん」
人間の在りように悪態つくウルベルトに、半ば同情のような労いの言葉をかけるたっち・みー。そして何気ない会話を楽しむモモンガと音改が机を囲んでいる。
「ほんとどうしてこうなったとしか言いようがありません。でも、リアル世界との解析次第では皆さんのように人の移動が」
「転移できるという点は今回の件も含めて確認できたのですが、この転移を支える竜帝の始原魔法……。いわゆる燃料がどうなっているのかがね」
「そうなんですよね。始原魔法を調べようにも真なる竜王の個体がすくなく、会話できるのが一人というか一匹だけ」
順調そうではあるがなかなかうまくいかない現状にモモンガは困ったという雰囲気を醸し出す。
「でも悪い話だけではないですよ。交渉が可能な竜王のツアーから入手した、始原魔法のマジックアイテムで空間を整える機能があるものがあって、レンラクの研究機関に送ったのですが、大気と土壌の浄化が可能だったと」
「それは……」
「それでもこの世界の自然はすばらしいですね。もしいろいろなものを解き明かし、転移が自在となればそれこそ人類の避難先の候補となる。なにより嫁さんや娘を一度こちらに連れてきてあげたい」
「ええ、こちらに逃げるだけでなく、リアル側の改善さえめざせるかもしれない。そんな可能性がこの世界にあります」
モモンガ、音改、ウルベルト、たっち・みーがこの世界の事、転移のこと、未知の世界のことなどの会話を楽しんでいる。
対して女性陣となぜか拉致られたペロロンチーノはというと、
「この紅茶も軽食のサンドイッチも、お菓子もどれもおいしいわ。リアルだと食べられないレベルじゃない」
「自然環境で収穫された小麦や飼育された牛、自然光を十分に吸収して育ち収穫された茶葉。リアルの世界では、たとえメガコーポの取締役レベルでもたべられないものね」
「茶釜様。このローストビーフは私が育てて、野菜の一部はマーレが世話してるんですよ」
「そだてました!」
「それはすごいことね」
ぶくぶく茶釜は、まるで子供が成果を誇る姿を喜びほめるようにアウラとマーレの頭に手をのばし撫でている。二人も嬉しそうに撫でられている。
「アウラってテイマーの能力で動物と意思疎通できなかったかしら」
「そりゃーできますけど、ただ殺して捨てるわけではなく、ちゃんとご飯にしているわけですし」
「うちの子。思いのほかワイルドだったのね」
ふと気が付いたことを美由が質問すると、アウラはあっけらかんと回答する。しかし思いのほかワイルドな回答にぶくぶく茶釜は新しい発見をとばかりに驚くのだった。
対してペロロンチーノとシャルティアというと。
「ペロロンチーノ様。どうぞ」
「あーん。おいしいよ。シャルティア」
他のことなど視界にないといわんばかりに、カットした果物をペロロンチーノに、いわゆるあーんというアレをやるなど、イチャイチャしているのだった。それを見ているプレアデスはなぜか、砂糖を吐きそうになりながら、表情を繕うのに精いっぱいだった。
しかししばらくイチャイチャしていたが、急に我にかえったのかモモンガに声をかけるのだった。
「モモンガさん。そういえばこっちに移住って話。帰還リスクありでもいいって条件の場合、いつごろになりそう?」
「ぺロロンチーノ様!」
「え?」
「だって俺の嫁が実体化したら迎えにいかないといけないじゃん。シャルティアをリアルにこさせるなんてありえないし、なら俺がこっちに来るしかないかなーと」
先ほどまでイチャイチャしてたのに、急に漢気あふれたセリフを言い放つペロロンチーノ。その姿にほほを染めながら感動するシャルティア。逆に冷静になるモモンガだが、彼の言葉通り現在人がたりない。
「音改さんに相談しないとですけど、人手は全然たりません。リスクありでもいいなら歓迎されると思いますよ」
「エロゲー処分して記憶領域抹消したらできるだけ早く合流するよ」
「あんたは……」
モモンガの回答に満足したのかペロロンチーノは参加を表明する。なお余計なことを言っているので、後ほどぶくぶく茶釜に折檻されるのだが。
そういえばとたっち・みーがモモンガに思い出したとばかりに話題をふるのだった。
「ああ、先日タブラさんに会いましたよ」
「え? タブラさんと?!」
「タブラ・スマラグディナ様と?!」
予想外の人物の名前にモモンガとアルベドが驚くのだった。
「タブラさんは……なにか言ってました?」
「うん。近況とあわせてアルベドの事も伝えたんだがな……」
「アルベドの事を」
「新しい価値観……! といって言っていたが、あれは喜んでいたのだろうか?」
「それは……」
たっち・みーはモモンガにタブラの言葉をそのまま伝えたのだが、あまりにもあんまりな言葉に素直に祝福しているのか喜んでいるのか判断しかねていた。しかしアルベドはそんなことないと両手を合わせて嬉しそうに宣言するのだった。
「タブラ・スマラグディナ様もモモンガ様とのことをそんなに喜んでいただけたのですね!」
「えっ」
「本当に喜んでいる……のかな」
娘ともいえるアルベドが言うならそうかもしれないと、モモンガとたっち・みー半ば強引に納得し笑っている。
そんなやり取りを見ていた音改と美由も静かに笑っている。
「ああ、少なくともこの道のりに間違いはなかったようで良かったよ」
──Bエンド「新しい世界へ」
オバロ転生ただし日本【オバロ二次】 taisa @taisa
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