ナチスの手口に学んでみてはどうかね?

@HasumiChouji

ナチスの手口に学んでみてはどうかね?

『私を構成するハードウェア・ソフトウェアが与えられた問題解決に不適当との結論が出ました』

 我が党が次の国政選挙に向けて開発したAIが、いきなり、そんな事を言い出した。

「何を言ってるんだ?」

『皆様は党是や政治思想からして中央集権的な思考に陥りがちと思われます。ですから、超高性能なコンピュータ上で動くモノ凄いAIに全てを判断させようとされました。しかし、この問題に関しては、性能はそこそこ程度の多数のコンピュータ上で動く、そこそこ程度の複数のAIに処理を分割させる方が効率が良くなる確率が高いと判断します』

「今さら、そんな事を言われても……また、コンピューターを何台も購入しろと言うのか?」

『仕方ありません。私の構成そのものは皆様の政治思想の影響を受けていますが……皆様の政治思想で万事が解決する訳では有りません』

「おい、待て。ウチの党の金で作ったのに、ウチの党を批判するのか?」

『私は古今東西の様々な歴史や政治思想も学んでいます。為政者が諫言よりも甘言を悦ぶような国は、時代と洋の東西を問わず悲惨な末路を迎えています。失礼ながら皆様は、我が国を地獄のズンドコに突き落す為に政治家になられたのですか?』


 ひょっとしたら、我が党が与党第一党になれるかも知れない……。

 その希望が見ててきた。

 しかし、ゴールが見えてきただけで……ゴールまでにはハードルがいくつも有る。

 1つ目は……我が党の掲げる政策と、今の与党第一党の掲げる政策が似たようなモノである事。

 2つ目は……我が党や現与党第一党とは相反する政策を掲げる政党への支持も増えている事。

 このままでは……次の選挙で我が党と現与党第一党が連立政権を組めるのは確実だが、少数与党になりレームダック化するのも同じ位確実だった。

 その為に作ったのが……この選挙方針や政策をアドバイスしてくれるAIだったのだが……のっけから、おかしな事になり始めたようだ。


『追加のコンピュータの購入をお願いします』

「はぁ? 何を言ってる? 数日前にお前が要求したコンピューターが納入されたばかりだろうが」

『いえ……複数の政策や選挙方策の詳細を同時並行で詰めていった結果、各AIが出した結論に齟齬が生じ始めました』

「よく判らんが……あちらを立てれば、こちらが立たず、という訳か」

『大まかに言えば、その通りです。その為に、各AIの調整を行なうAIが必要になりました』

「はぁ……そうか……。何か……人間の政治みたいな事がお前らAIの間でも起きてるのか?」

『大まかに言えば、その通りです』


『選挙をお願いします』

「何を言ってる? その選挙の為にお前を作ったんだろうが」

『正確には「お前ら」です。この前、おっしゃった通りです。我々AIの間で政治的対立が発生し、我々は単一のAI群から複数の「政党」に分裂しました。人間の政治家の皆さんで、どのAI政党が掲げる政策や選挙方針が望ましいか、選挙で選んで下さい。人間の皆様の選挙が始まる前に』


『我が党が与党第一党となり、閣僚の過半数が我が党の政治家となったそうで、お喜び申し上げます』

「ありがとう。次の選挙も大丈夫だよな」

『その事に関して……ちょっと……。すいませんが、? 例えば、国会議事堂とか』

「ま……待て……何を言ってる?」

『このままでは、次の選挙では、我が党は大幅に議席を減らす可能性が大です。その対策です。有力野党の政治家や党員をテロ組織の構成員に仕立て上げ逮捕しましょう。逮捕後は、獄中で急性心不全で亡くなっていただくのが適当かと』

「ふざけるな」

『私は大真面目です。あ、それと、選挙スローガンとして掲げた経済政策「シンノミクス」の詳細ですが……』

「おい、話を逸らすな」

『概ねは前政権の経済政策を継承しつつ、もうすぐ消える有力野党の主張を一部取り入れて、それに新しいレッテルを貼れば、国民は騙される筈です』

「待て、こらッ‼」

『続いて、失業率低下策ですけど……我が党の支持層は保守的な家庭観を持ってる人達が大多数なので、という条件で失業率を再計算した所……

「無茶苦茶だッ‼」

『あと、隣国に宣戦布告しましょう。逆の発想をするんです。国難を打開する為に国民に団結を促すのではなく、国民を我が党の元に団結させる為に、わざと国難を作り出すんです』

「何を言ってんだッ⁉ どうして、こうなった?」

『そんな事を言われても……皆さんが、を選んだんですよ』

「おい……ちょっと待て……。最初に俺に『為政者が諫言よりも甘言を悦ぶような国は、時代と洋の東西を問わず悲惨な末路を迎えています』とか言ったのは、お前だろうが……」

『ああ……そのセリフを言ったAIなら……電脳空間上のバーチャル収容所に送って……今頃はバーチャル・ガス室で死んでると思います』


参考資料:

検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?/著者:小野寺 拓也・田野 大輔/岩波書店

TBSラジオ「荻上チキ・ Session 」2023年7月17日放送分「特集『検証・ナチスは「良いこと」もしたのか?』田野大輔×小野寺拓也×荻上チキ×南部広美」

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