G. / Epilogue
G.
午前八時三〇分、真駒内駅。慶一と木下のほかに東島氏の三人は
それがいた。
それは、
慶一と木下は来た道を戻った。けっきょくウエソヨマではなかった。慶一は急に力が抜けた。ふたりは自販機でポカリスエットを買ってごくごく飲んだ。あのフェンスを
バス停にたどり着くと、真駒内行きのバスが既に停まっていたので、二人はよろめくように乗り込んだ。
ぼくはこれから【いしかりライナー】に乗るつもりだけど、と慶一が言うと木下は、ああおれ、昨夜はほとんど一睡もしてないんだわ、それにもう少し勉強しておかないとな、まず帰って寝るわ、と言った。慶一は、忘れるなよ、今日ぼくらは人類を救ったんだ、と言った。木下は疲労のいろ濃い顔で、ああ、そうらしいな、と答えた。
ふたりは真駒内駅前で別れた。慶一は取り敢えず地下鉄南北線に乗って札幌駅へ向かった。空腹だったのでラーメンでも食べようかと思ったところで慌てて気がついて財布の中身を確かめると、五〇〇円硬貨が二枚光っているきりだったので、不意に慶一は泣き出したくなった。【いしかりライナー】に乗ってどこまで行けというのだろう。札幌の次の停車駅は大麻だから、
Epilogue.
残った七七〇円から何をどう買うか。札幌駅の駅弁なら四〇〇円のすし弁がいちばん
慶一はかけそばを一杯食べて早めに十番線にあがり、列車の到着を待った。【いしかりライナー】は定刻の午後二時七分に入線した。ここで六分停車するのである。列車内は比較的空いていて、慶一はボックス・シートの通路側に席をとることができた。
電車(いや、正しく北海道人ふうに言うと、汽車)は定刻に札幌を発ち、よく晴れて気持ちのよい石狩平野を一路東へ向かった。白石駅を通過した頃に車掌が巡回して来た。
慶一は切符を岩見沢まで精算して貰おうと思い、車掌のやって来るタイミングで顔を上げ、すいませんと声を掛けて胸ポケットから乗車券を出した。
その時通路を挟んだ隣のボックス席の客と眼が合った。
「あっ」
瑞生だった。
「お兄さん、お兄さんの切符、いいですなァ。その切符なら、この道内どこまでだって行けますぜ」
誰かの言う声がぼんやり聞こえた。
Poisoned Youth ――毒されし青春―― ~或いは一九八九夏、北海道~ 深町桂介 @Allen_Lanier
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