第4話
今回のことは、警察にも児島さんにも言わずにおこう。りっちゃんは、継父を逮捕してほしかったのではなく、助けたかったのだから。
児島さんから電話があったら、「もう少し時間がかかりそう」そう言って誤魔化すつもりだ。
そうじゃなくても継父は病気だ。罪と病を背負って杖をつく老人をこれ以上苦しめる必要などない。
継父を助けてほしくて、りっちゃんの魂が私を頼ってくれたとしたら、役に立ててよかった。りっちゃんと直接話ができたらどんなにいいだろう……。
「りっちゃん、お父さんは病院に通ってますよ。安心してね」と、私は天国のりっちゃんに伝えた。
秋色に染まった頃、久しぶりに【この先行き止まり】まで行ってみた。
ところが、その光景を目の当たりにした途端、愕然とした。そこは、人家一つない竹藪だったのだ。私は目を丸くしながら、場所を間違えたかと辺りを見回した。
河原から坂を上ると橋があって……。間違いない。
アッ! そうだっ!
私は急いでケータイを取り出すと、メアドに登録している児島さんの電話番号を探した。
ところが、どこにもなかった。……通話履歴にすら。
……そんなバカな。
私は慌てて、通りすがりの老婆を引き留めた。
「すみません。ここに家があったはずですが」
「家? いや、ここは何十年も前から竹藪ですよ」
「エーッ!」
(私が見た光景も児島さんも幻覚だったと言うのか?)
「こ、児島さんの家があったはずです」
「ああ……。確かに児島という人の家はありましたが、あの事件があった後、この辺に住んでた人たちは皆、引っ越して行きましたよ」
「あの事件て?」
「……40年ほど前に少女が殺されてね――」
(……事件は嘘じゃなかった)
「気味が悪かったんでしょうね」
「で、犯人は捕まったんですか?」
「いいえ、それが捕まってないんですよ。皆が引っ越してったのはそんな理由もあったんでしょうね。近所の人が犯人かもしれないと思ったら怖いですもんね。それじゃ」
老婆は事件に関わりたくない素振りで、そこまで話すと慌てて背を向けた。
「どうも、ありがとうございました」
私が見た幻は、りっちゃんの継父に繋げるための足掛かりだったのだろうか……。
アッ!
私は急いでケータイを開くと、りっちゃんが映っている例の画像を見た。
確かに、りっちゃんは映っていた。私がホッとしていると、突然、りっちゃんの長い髪が風にそよぐように動いた。
エッ!
私が目を丸くしていると、りっちゃんがこっちを向いてニコッとした。
その顔は、少女漫画から抜け出たような美少女だった。
驚きながらも、私が凝視していると、「ありがとう」と言うように、深々とお辞儀をした。
途端、元の横向きに戻ると、動きが止まった。
その画像を改めてよく見ると、長い髪と白いワンピースに見えていたのは、
黒々とした木陰と、白い木漏れ日だった。――
完
この先行き止まり 紫 李鳥 @shiritori
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