【創作童話】天の川

Danzig

第1話

七夕のお話


昔昔の、とある国のお話です。


この国の人々は、ずっと前から、野山で兎(うさぎ)や鳥などの動物や、木の実や、きのこなどを獲って暮らしていました。

野山で獲れた動物や木の実を、神様にお供えし、星や月を眺(なが)めては沢山のお祭りを開いていました。


人々は、沢山のお祭りの中でも、特に七夕のお祭りが大好きでした。

七夕とは、離れ離れになってしまった、織姫様(おりひめさま)と、彦星様(ひこぼしさま)が、一年に一度だけ、会う事を許された日です。

この日は、彦星様が、船で天の川を渡り、織姫様の所まで会いに行くのです。


でも、七夕の日に雨が降ると、天の川の水かさが増してしまい、彦星様は船を出すことが出来なくなってしまいます。

ですから、人々はみんな、七夕の日は、空が晴れるようにと願い、空が晴れると、大そう喜びました。


この国の人々はずっと昔から、七夕の夜は、天の川を見上げながら、二人の幸せを祈っていたのです。


そんな暮らしを、長い間ずっと続いていました。

ですが、困った事に、ある時をから、少しずつ野山から動物がいなくなっていきました。

それは、この国に暮らす人が増えていって、沢山の動物や木の実を獲るようになったからです。、

豊だった山は、段々と動物たちの少ない、痩(や)せた山になってしまったのです。


人々の食べる物も段々と少なくなり、やがて、この国は、とても貧しい国になってしまいました。

そして悲しい事に、お祭りも段々と開けなくなって行きました。


それでも人々は、貧しいながらも、神様へのお供え物と、七夕のお祭りだけは、欠かす事がありませんでした。


でも、そんな貧しい暮らしが何年も続いたある時、遠い西の国から偉いお坊さんがやって来ました。

そして、この国にお米の作り方を教えてくれたのです。


田んぼを作り、お米を穫(と)るようになった事で、少しずつ、人々の暮らしが豊かになっていきました。


きっと神様が、偉いお坊さんを呼んでくれたに違いないと、人々は喜び、

神様に感謝をして、獲れたお米を神様にお供えするようになりました。


お米作りは、国のあちこちへ伝わり、田んぼの数はどんどん増えていき、この国は、動物を獲って暮らしていた頃よりも、ずっと豊かになっていきました。


人々の暮らしが豊かになった事で、お祭りの数も増えて行き、七夕のお祭りは、今まで以上に大きなものになりました。

人々は、ますます神様に感謝をし、七夕には国中で織姫様と彦星様の幸せを願いました。


ところがです。

この豊な国に大変な事が起きてしまいました。

ある年から、夜空を見上げても、天の川が見えなくなってしまったのです。

どうしたのでしょうか、あんなに綺麗な天の川だったのに、すっかり無くなってしまいました。


人々はとても驚きましたが、それよりも、織姫様と彦星様の事が心配でなりませんでした。


天の川がなければ、彦星様は船を出す事が出来ません。

無理に渡ろうとすると、彦星様は地上に堕ちてしまいます。


このままでは、二人はずっと会う事が出来ないままです。

もう、七夕の祭りどころではありません。


人々は、どうしてよいのか分かりませんでした。

困ったあげく、神様に聞いてみようと、みんなで、お社(やしろ)に向かいました。


お社に着くと、みんなが神様に向かって祈りを捧げます。


「神様、どうして天の川が無くなってしまったのでしょうか?

どうか天の川を元に戻りますように」


すると、みんなの願いた通じたのか、神様が初めて人の前に姿を現しました。


人々は自分たちの前に現れて下さった神様に感謝をし、そして神様に訪ねました。


「神様、天の川が無くなってしまいました。

どうして、天の川が無くなってしまったのでしょうか?」


その時、神様は困った顔をしました。


「どうか、天の川を元に戻してください」


人々は一生懸命に神様にお願いをしました。

すると、神様が答えました。


「天の川が無くなったのは、お前たちが田んぼを沢山作ったからなのだ」


「私達がですか?

どうして田んぼを沢山作ると、天の川が無くなってしまうのですか?」


人々は驚いて、神様に尋ねました。


「それはな、

お前たちの田んぼには水がいるだろ、だから、私は雨を降らせて田んぼに水をあげていたのだ」

しかし、田んぼが沢山になってしまったから、水が足らなくなってしまったのだよ。

それで、天の川の水を使って雨を降らせたのだよ」


神様は、そう答えました。


「そんなの酷すぎます。

このままでは、織姫様と彦星様が会えなくなってしまいます。

私達は田んぼの数を減らしますから、天の川に水を返してあげてください」


人々は必死に神様にお願いをしました。


しかし、神様は首を横に振ります。

「だがな、天の川の水を使ってくれと言ったのは、織姫と彦星なのだよ」


「なんですって、織姫様と彦星様が?」


人々は驚(おどろ)きました。


「あぁ、そうなのだよ、

織姫と彦星は、私達はもう会えなくなってもいいから、お前たちに、お腹いっぱいお米を食べて欲しいと言っておったよ。」


「織姫様と彦星様が、そんな事を・・・」


「あぁ

いつもいつも、地上から自分たちを見ていてくれた、お前たちには感謝をしているそうだ。」

だから、田んぼの数を減らして、天の川に水を返しても、織姫と彦星は喜ばないよ」


「そんな・・織姫様・・・彦星様・・・」


人々は神様の話を聞いて泣きました。

織姫様と彦星様の優しさに、

そして、田んぼを沢山作ってしまった事を後悔(こうかい)して泣きました。


どれだけ泣いた事でしょうか。

暫く泣いた後、一人の青年が涙を拭いて、神様に尋ねました。


「私達は、どうすればいいですか?

どうすれば、天の川に水を返す事が出来ますか?」


青年は必死に神様に問いかけました。

その必死さに神様が答えました。


「お前たちの田んぼは、雨水が無ければ枯れてしまうだろ?

だから、雨水がなくても田んぼが枯れないようにすればいいのだよ。」


「でも、どうやればいいか、私達には分かりません」


「そうか・・・では、私が教えてやろう」


そういうと、神様は田んぼが枯れずにすむ方法を教えました。


人々は、神様が教えてくれた通り、いくつも井戸を掘りました。


でも、それは、とてもとても辛(つら)く、大変な作業でした。

硬い地面を一生懸命に掘りました。

思い石を皆で運びました。

夏には日差しの暑さに耐えながら、冬には雪に凍えながら

毎日、毎日、人々は汗を流して働きました。


井戸だけではありません。

遠くの川から水を引いて、田んぼに水が流れるように、沢山の道を掘って川も作りました。


何年も何年も大変な作業は続きました。

それでも、人々は、織姫様と彦星様が再び会えるようにと、必死で頑張りました。


人々が頑張ったお陰で、天の川にも少しずつ水が返って行きました。

そして、何年かが過ぎた頃、天の川はすっかり元の姿に戻ったのでした。


人々はとても喜びました。

その年の七月には、これまで出来なかった七夕のお祭りを行いました。

みんなが大好きだった、あの七夕のお祭りが返って来たのです。


その年の七夕の空は、雲ひとつない、晴れ渡った空となりました。

夜空には、昔見ていた時と同じ、天の川が流れています。

満天の星空に、まるで絹を流したような、キラキラと輝く、とてもとても美しい天の川です。


「きっと今年は、彦星様は無事に川を渡り、織姫様に会えた事だろう」

人々は、夜空に流れる美しい天の川を見つめながら、二人の幸せを祈りました。


そして、空の上では、何年も会えなかった織姫と彦星が、互いに手を取り合いながら、

優しい眼差して、地上を眺めていました。


おしまい。


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