第20話 今夜だけ両想い
先程のことなど、なにもなかったかのように「踊ろう」とギルバートに誘われ、アリシアはその手を取った。
周りにいる魔術師たちからの視線を感じる。
羨望、嫉妬、様々な感情にあてられ人に酔ってしまいそう。
アリシアは、弱気になるそんな自分にカツを入れ、堂々とギルバートのパートナーらしく振舞い踊り続けた……つもりだったのだが。
「フフッ」
「な、なんで笑っているの?」
「いや、可愛いなと思って」
「なにが?」
「君の緊張した面持ちが」
「っ!」
緊張しているのを悟られたうえに、表情まで指摘され羞恥心で顔が熱くなる。
「なんで怒るんだよ。可愛いって言ってるのに」
「褒め言葉じゃないって分かるから」
眉間に皺を寄せたアリシアを見て、ギルバートは益々おかしそうだ。
その間もダンスは続く。
動揺でアリシアの足が縺れそうになっても、ギルバートが軽々支えてくれるおかげで、なんとか転ばず踊り続けることができていた。
「ねえ、その顔も可愛いけど。もっと笑ってよ」
「なんのために?」
「俺たちの魔力の強さは、決して対等とは言えない。でも、そんなの関係なく愛し合えるって、見せつけるために」
「え……」
「そのほうが後々都合がいい」
愛し合っているだなんて……自分たちは復讐で結ばれた偽りの夫婦のはずなのに。そう思ったが、付け加えるように彼が言った「そのほうが後々都合がいい」の言葉でアリシアは納得する。
「そう……それなら努力するわ。わたしたちが、愛し合って見えるように」
アリシアが真剣な顔で頷くと、ギルバートがまた笑った。真面目だね、とからかうように。
「がんばらなくても、俺たちって結構お似合いに見えると思うんだけど……君はそう思わない?」
「え?」
突然そんなこと言われても反応に困ってしまう。
「俺たちって、最近結構いい感じじゃない?」
「な、なにが?」
からかわれているのか、踊りながらグイグイと顔を近付けられ、その距離の近さに思わずアリシアは仰け反る。
魔力が対等じゃない二人が愛し合える世界というのも、ギルバートの描く未来の一つなのだろうか。
確かに、愛し合えることは既にルイスたちで証明されているけれど、不釣り合いだと言われたり物珍しく見られ障害も多いようだ。
魔力の強さが全てではない世界になれば、ミリーたちのようなカップルも、肩身の狭い思いをしなくてよくなるのかもしれない。
ミリーの幸せそうな笑顔を知っているアリシアは、そんな世界になればいいなと思った。
「あ、いいね。その顔」
「え?」
「今、なに考えてたの? 君、すごく優しい目をして笑ってた」
「……あなたがこの先実現してくれる未来に、想いを馳せていたの」
こんなことを言ったら、また笑われるかと思ったが、ギルバートは少し驚いた顔をした後、こちらが蕩けてしまうような極上の笑みを浮かべた。
「やっぱり、君って最高だよ」
「っ!」
「こんなにいい女が目の前にいるのに、契約のせいで手を出せないなんて生殺しだな」
どこまで本気なのかは分からない。
これも全部、周りに自分たちの関係を見せつけるための演技なのかもしれない。
自分は彼にとって野心を叶えるための道具であり、利用され手の中で踊らされているだけなのかもしれない……
疑い出せばきりがない、様々な思いがアリシアの中で渦巻いてゆくけれど。
「わたしにとっても……あなたは魅力的な男性で、最高のパートナーよ」
「それじゃあ俺たちは両想いってわけだ」
「今夜だけね」
「フッ、釣れないな〜」
自分の口を突いて出た言葉さえ、自分でも演技なのか本音なのか分からぬまま、アリシアはその場の雰囲気に身を任せ、そっとギルバートに寄り添いダンスを続けた。
この先、彼といる限り波乱の予感がするけれど……今はこの時間を楽しもう。
彼の腕の中は、悔しいけれど居心地がいいから、いつの間にか囚われてしまったのかもしれない。
大嫌いだった魔術師の妻になったことを、後悔していないぐらいに……
END
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
中編コンテスト参加作品のため、ここで完結とさせていただきます。
少しでも楽しんでいただけましたら、嬉しいです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
魔術師の花嫁 桜月ことは @s_motiko21
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