第9話

ベッドに対して横向きに寝転がり仰向けになる。

自分もそれに倣った。満点の星空だ、街中で見ることは叶わないので初めての経験ということになる。

今は何月なのだろうと思い星座を探した。小学生の頃、授業で習った三角形だ。

春夏冬にそれぞれに三角形があり当時は躍起になって探した。それがどこにもなくて星々はただ散りばめられている、ここがゲームの中だと思いだした。


「私、これが終わったら消えようと思うんです。」


「そっか。寂しくなるね。」


「そうですね。でも私はずっと寂しかったんだと思います。そのことにあなたと出会い実際に話してみてやっと気がつきました。これであなたを送り返してまた独りなんて私には耐えられません。」


「神さまのせいにして、ずっと閉じ込めたりしないの?」


「あはは!それもよかったかもしれませんね。でもあなたにはあなたの生活があるじゃないですか?それを奪うのは私としても心苦しいので。それこそ、ずっと一人でずっと抱えることになってしまいますから。」


彼女は小さく深呼吸し、間を置いた。


「だから、そんな私の最後に一言だけくれませんか?」


「……。」


「待ちますよ。あなたが答えるまで。」


「……今日は楽しかったよ。ありがとう。」


「……はずれです。」


「……また会おうね?」


「……はずれです。」


「……素敵なよぞ……。」


こちらに向いた彼女に両手で挟まれ無理やりに向き合わされる。

夜空を見ていて気がつかなかった最大限に近い距離で彼女の頬が赤く染まっている。


「ん!『好き』って言って。」


きらりと光る涙を瞼に蓄えて、切実に真剣にだけど恥ずかしさを堪えてそう言った。

それがわかって、そんな顔を見て思わず言葉が零れた。


「好きだ。」


両手で口を押えた彼女の感情が決壊する。溢れでる涙が滝のように止まらない。


「私も大好きです。」


瞬間、空が回った。輝く星々が尾を引き、連なり、何本もの線が、夜空を光の白で埋め尽くす。


「これで思い残すことはありません。長い間お付き合いしてもらっちゃってありがとうございました。」


「……でも、できれば、その、私との思い出をずっと覚えていてください。」


「もちろん。」


そう言うと視界が白で埋め尽くされる。最後に見た彼女の顔はぐちゃぐちゃで。

でも、スッキリとした笑顔で自分を見送る。


——————彼女の顔が見えなくなった。


気がつくと自室だった。キーボードに突っ伏し、眠っていた。

あれは夢だったのだろうか?パソコンを見るとタイトル画面にログが追加されている。

それを見るとつい笑ってしまう。


その日初めて君に出会った。


ゲームの中で自分が焦がれた君は想像よりも清くて、理想的で、美しい。

もう二度と会えない君が頭から離れない。


「ありがとう」と一人で呟いた。


「どういたしまして。」


そんな声が耳元ではっきりと聞こえた。

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その日初めて君に出会った 色彩 絵筆 @rasuku0120

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