バーカウンター1(バーボン)

Danzig

第1話

バーカウンタシリーズ1(バーボン)



客のいない寂れた場末のバーに一人の客が入ってくる


バーテンダー:いらっしゃいませ

バーテンダー:こちらの席へどうぞ


客:あぁ、ありがとう


席に着く客


バーテンダー:何になさいますか?


客:バーボン、ロックで


バーテンダー:かしこまりました。

バーテンダー:ご指定は?


客:バーボンなら何でもいい


バーテンダー:かしこまりました


テーブルに氷の入ったグラスを用意し、バーボンを注ぐ


バーテンダー:お待たせしました。

バーテンダー:ブラントンです


客:あぁ、ありがとう


グラスに口をつける

思いつめたように酒を見つめる客


軽い溜息をつく客(客は自分のため息に気づいていない)


バーテンダー:いかがしましたか?


客:ん?


バーテンダー:少し、思いつめられたような表情でしたので


客:そうか、俺はそんな顔をしていたのか


バーテンダー:ええ、なんとなくですが


客:そうか


バーテンダー:どことなく、お元気もないご様子ですし


客:そうか・・・

客:そいつは悪かったな

客:しみったれた顔で飲んでちゃ酒に悪いよな


バーテンダー:いえ、そんな・・・

バーテンダー:失礼しました


客:いや、いいんだ・・・


客:マスター


バーテンダー:はい


客:一つ聞いてもいいなか?


バーテンダー:なんでしょう?

バーテンダー:私に答えられる事でしたら


客:『死ぬこととみつけたり』って言葉を知っているかな?


バーテンダー:そうですね、

バーテンダー:東洋の古い言葉だと記憶しております


客:生きて何をするか、

客:死して何をのこすのか・・・か


バーテンダー:難しいですね


客:あぁ

客:自分は何の為に生きて、何の為に死ぬのか・・・・


バーテンダー:なかなか哲学的ですね

バーテンダー:私には難しくてよく分かりません


バーテンダー:ただ・・・


客:ただ?


バーテンダー:いえ・・ただ

バーテンダー:そんな事が分かる人なんているのでしょうか?


少し酒を見つめる客


客:そうだな、

客:わからなねぇわな


酒を飲み干す客


客:ありがとう

客:うまかったよ


バーテンダー:恐れ入ります


席を立ち、テーブルに金を置く客


客:代金はこれでたりるかい?

客:余ったら、つりはいらねぇから取っといてくれ


バーテンダー:いや、こんなには・・・・


客:つりはいらねぇ、その代わり・・・


客:いや、やめとこう

客:柄じゃなかったな


客:ありがとう、もう行くよ


バーテンダー:お客様・・・


客:また、俺がここに来ることがあったら、その時は一杯奢ってくれよ


バーテンダー:・・・・

バーテンダー:かしこまりました


客:じゃぁな


バーテンダー:あ、お客様


客:ん?


バーテンダー:今度、珍しいお酒が手に入るんです

バーテンダー:まだ少し先ですが

バーテンダー:1919年のブッカーズ 禁酒法の前のものです


客:ほう

客:それは珍しいな


バーテンダー:常連の皆さんにお分けいたしますので、お一人一杯きりとなりますが

バーテンダー:それを残しておきます


客:そいつは嬉しいな


バーテンダー:それはよかった・・・

バーテンダー:ですから、『必ず』おまたのご来店を


客:気を使わせちまったな・・・

客:あぁ、わかったよ


少し安堵の表情をするバーテンダー


バーテンダー:はい、かしこm・・


客:もし・・・


客:暫くしても俺が来なかったら


客:そうだな・・・

客:そのときは この店の前にでも撒いてくれよ

客:ブッカーズの匂いに誘われて、ふらりと立ち寄れるかもしれないから


バーテンダー:・・・・・・

バーテンダー:かしこまりました


客:じゃぁな


バーテンダー:お気をつけて

バーテンダー:またのおこしを


店を出る客


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バーカウンター1(バーボン) Danzig @Danzig999

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ