必殺仕事人風台本6『善兵衛』

Danzig

第1話


町娘と善兵衛が屋敷の中


町娘:いや、やめてください


善兵衛:ここまで来たら、もう観念(かんねん)するんだな


町娘:もう、もう、帰してください

町娘:ここで一度だけお酌をすれば、帰してくれるって


善兵衛:何を言ってる

善兵衛:お前は借金の形(かた)でここに来たんだ

善兵衛:帰れる訳がないだろう


町娘:そんな、だってあのお金は・・・


善兵衛:ははは、どこの世界にタダで金をくれる奴がいる

善兵衛:あれは、お前を買う為の金なんだよ


町娘:そんな・・・


善兵衛:お前は、俺がたっぷり楽しんだ後、清国(しんこく)に奴隷として売られるのさ

善兵衛:さぁ、分かったら、こっちへ来い

善兵衛:ぜいぜい楽しませておくれ


町娘:いやぁ~


善兵衛:ははは


町娘:やめてぇ


お菊の得物が飛んできて行灯(あんどん)の蝋燭(ろうそく)を消す


善兵衛:何だ・・・

善兵衛:誰か、明かりを


町娘:う・・


左之助に腹を打たれて気絶する町娘


善兵衛:どうした、おい

善兵衛:はっ

善兵衛:誰だお前は・・・


バキッ

左之助に殴られる善兵衛


善兵衛:うっ・・


暗がりの中で左之助の得物を見せられる


善兵衛:な、なんだお前は・・・ひぃ


戸棚まではっていき引き出しを開ける


善兵衛:助けてくれ、な、助けてくれよ


善兵衛:か、金か?

善兵衛:金なら幾らでもやる、いくら欲しい、百両か、二百両か

善兵衛:好きなだけやる

善兵衛:だから、命だけは、


バキッ

左之助に殴られる善兵衛


善兵衛:ううっ・・


左之助:そいつは、おめぇの大事な金なんだろ?

左之助:なら、三途の川の渡し賃として、向こうに行くまで大事に持っとけよ


ひぃぃ


襖を開けて廊下に逃げる善兵衛

善兵衛:だれか、だれか助けてくれ、だれか!


お菊:ふんっ(得物を投げる)


お菊の得物が飛んできて善兵衛を捕らえる

善兵衛:う・・・ぅぅ(死に方は任せます)


絶命する善兵衛

お菊:ふぅ(呼吸を整える)


姿を消す仕事人二人


帰り道

お菊:ちょっと、あんた


左之助:なんだ、おめぇか


お菊:何やってくれたのさ


左之助:何がだよ


お菊:どぼけんじゃないよ

お菊:どうして、善兵衛を廊下まで逃がしたりしたのさ


左之助:別に・・・

左之助:最初からそうするつもりだったのさ


お菊:どうだか・・・

お菊:外には私がいる事を知ってただろ


左之助:あぁ、何となくな


お菊:ったく、何が「何となく」だよ・・・

お菊:だったら、部屋の中で善兵衛を殺(や)ればよかっただろ


左之助:部屋には娘がいたからな

左之助:仕掛けは外でやるつもりだったのよ


お菊:誰がいたって、あんた程の腕なら何とでもやれただろ


左之助:さぁな、俺は俺のやり方で仕事をするだけだ


お菊:何だい、私に勝ちを譲ったつもりかい


左之助:まえにも言ったが、譲る気はなかったよ

左之助:俺は仕事をした、そして善兵衛が死んだ

左之助:それだけの話だ


お菊:ったく、

お菊:どうでもいいけどさ

お菊:こんな勝ち方したって、私は面白くもなんともないんだよ


左之助:あぁ、そうかい

左之助:でも、おめぇがどう思おうと、俺には関係ねぇ話だ


お菊:そりゃそうだけどさ


左之助:それに、勝ちも負けも、はなから俺にはどうでもいい話だからなぁ


お菊:そうならそうと、最初に言っておくれよ

お菊:食えない男だねぇ


左之助:腕も分からねぇ奴に相手を譲って、しくじられたくなかったからな


お菊:あぁ、そういう事かい

お菊:まぁ、始めてあった仕事人の腕を信用しろってのも、どだい無理な話だね

お菊:それにしても、不器用っていうか堅物(かたぶつ)っていうか・・・


左之助:そういう性分なんでな


お菊:あきれるね


左之助:それにしても、おめぇさん、いい腕だったな


お菊:そいつは、どうも。

お菊:あんたに褒められると悪い気はしないねぇ


左之助:でもまぁ、それも、仕事人から足を洗うなら関係ないか


お菊:あぁ、そうだね

お菊:いろいろあったけど、この得物ともお別れさ


左之助:俺たちの稼業は、どこまでも続く地獄道

左之助:途中でおさらば出来るなら、それに越したこたぁねぇなぁ


左之助:まぁ、せいぜい達者でな


お菊:あぁ、そうさせてもらうよ

お菊:あんたのほうこそ、その辺で野垂(のたれ)れ死なないようにね


左之助:あぁ、せいぜい気を付けるさ


お菊:ふふ、じゃぁね


左之助:あばよ


別れる二人

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