第46話 明るい未来を描きたい輝君

 なんか、そこに至るまでのあれやこれを聞かされずに、別ルートから結果だけを知るのって、なんか微妙だよな。

 すっかり全国ニュースになってしまった、陽と優斗の彼女サラちゃんが通う高校の事件。

『お前が随分前に言ってた文化祭のこととか、変な文章を優斗に書かせたのって、全部この事件絡みなんだろ?』

 僕はぜったいに素直にうんと言わないだろう従兄弟の陽に、スマホからメッセージを送った。

『あたりまえじゃん』

 出たよ、えらっそうに。

 僕は陽から届いたメッセージにイラッとした。


 教頭があなたと会っているのを知っている。

 私も教頭とつきあっている。

 特別なのは、あなただけじゃない。

 残念ね。


 あの文章。

 優斗は『村上君すごいね、どんな話を書いてるんだろう……読んでみたいな!』って、瞳を輝かせながら書いてたんだ。

 優斗……お前、陽に騙されて利用されてたんだぜ。

 まあ、優斗は優斗で、彼女のサラちゃんが事件に巻き込まれなかったことや、サラちゃんの親が悩まなくて済むようになった、イコール、サラちゃんの悩みも解消されたことをめちゃくちゃ喜んでいた。

 優斗はそうと知らずに、事件解決の手助けをしたわけだから、まあいっか。

 しっかし、ほんとに優斗はいいやつだよな……

 もし再来年の春に東京の大学に行くことになったら、周りの変な奴に騙されたりしないだろうか?

 それこそ、陽とかに……優斗、大丈夫かな……

「ま、優斗には彼女がいるから大丈夫か……僕はそれより、自分のことだよ」

 僕は頭に松尾さんの可愛い笑顔を思い浮かべた。

 受験勉強に集中するためにも、玉砕してみるかな……いや、でもなぁ……

「あ、松尾さんがサッカー部の井上君と歩いてる……なんか、あの二人、距離が近いと思わない? ねぇ、輝?」

「うん……僕、受験勉強頑張るよ……」

 ちっくしょう、僕は!

 大学行ったら遊んでやるんだ!

 彼女作りまくって、遊んでやるんだ!

 僕は前を向き、イメージの中で、むかつく陽の顔に鉄拳を食らわせた。

 八つ当たりだってなんだって、構うもんか。

 あ、そうだ……陽の進路希望先の大学名、聞いておかなきゃ。

 優斗も僕も、明るい未来を描けるように。

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遠くのあなたを掴みたい 鹿嶋 雲丹 @uni888

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