第45話 お母さんの秘密を知るサラちゃん

 七月になった。

 うちの高校は一躍世間の晒しものになった。

 そう、いいことで有名になったわけじゃないから、晒しもの、という言葉がふさわしい。

 校長と教頭が同時に逮捕されちゃったもんだから、もうすぐ夏休みだというのに、先生たちは忙ししそうだった。

 まあ、だからといって私たち生徒の期末テストがなくなるわけじゃないんだけど。

「サラ、話がある」

 そうお父さんから声をかけられたのは、ちょうど期末テストが終わった日の夜だった。

 ダイニングテーブルを挟んで、私の正面にお父さんとお母さんが並んで座った。

 二人とも、どこか緊張しているように見える。

「あの……期末テストは、できる限りの努力をしました」

 私は、どうだった? とお父さんに聞かれる前に、自分なりに頑張ったアピールをした。

「ん? ああ、まあ、テストっていうのはいつだってそういうもんだろ?」

 あ、一ミリも誉められなかった。ちぇっ。

「別に勉強のことをあれこれ言うつもりはないよ。サラに話したいのは、そのことじゃなくて……お前の本当の……お前を生んだ、お母さんのことなんだ」

「えっ?」

 今の、このタイミングでその話? なんで? いや、興味がないわけじゃないけど……

「えっと……亡くなったんだよね、私を生んでくれたお母さんて?」

 私は今まで、ずっとそう言い聞かされて育ってきた。

 でも、それをわざわざ言い出すってことは……

「もしかして、生きてるの?」

 そんでもってまさか、私に会いたいと言ってるとか?

 私の心臓が、途端にバクバクいい始める。

「今、お前の目の前にいるんだ」

「は?」

 目の前?

 私は思わずお母さんを見た。

 お母さんはかなり緊張したような表情かおで、首元のスカーフに指を掛けた。

「あ……」

 スカーフの下から現れた肌色の膨らみは、林先生と同じものだった。

 喉仏。

「サラ……お母さん、本当は男性なの」

 言うお母さんの目が、悲しそうに潤んだ。

「じゃあ……もしかして、私を生んだお母さんって……」

 私は目の前のお父さんを凝視した。

「だって! そんなに毛深いのに!」

「うん……その……今は、色々できてだな……」

「ええーっ!! お母さんが実は男ってのより、私がお父さんから生まれたっていう方がショックだあ!!」

 私は思わずテーブルに突っ伏した。

「そうなのか……」

「サラ……私のことはいいの?」

 お母さんの細い声が、聞こえてくる。

「うん、いい!」

 私はガバッと顔をあげてお母さんを見た。

 喉仏があっても、お母さんはいつものかっこいいお母さんだ。

「お母さんはよくて、私はダメなのか」

 お父さんが渋い表情かおで言った。

「うん……なんかヤダ」

「そうか……じゃあ、今の話はすべて忘れろ。私はお前の父さんだ」

 そう、そうだよ! ……ん? ちょっと待って……

「ねぇ、じゃあ、私の生みのお父さんは、お母さんってこと?」

「そうだ」

「マジか!」

 私は即答したお父さんの言葉が嬉しくて、がたんと椅子から立ち上がった。

「お母さん大好き!」

「私も、大好きよ」

 ぎゅっとしてくれるお母さんの声が、涙声に聞こえた。

「いいよなあ……そこにお父さんが入る隙なんて、一ミリもないもんなあ……」

 お父さんのぶつぶつ言う声は、聞こえないフリをする。

 わかってる。お父さんが私をどれだけ想ってくれてるのかは。

 私だって……お父さんのこと、嫌いじゃないんだよ。ほんとは。多分ね。

 ただちょっと……なんか……やっぱ、抱きつくのは抵抗があるんだよな。

 ちょっとショックだったけど、お父さんとお母さんが本当のことを私に打ち明けてくれたのは、もしかして林先生が関係してるのかな?

 私は、うっすらと林先生の姿を頭に思い浮かべた。

 お母さんみたいにかっこよくてスマートで……素敵な林先生の笑顔を。

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