散歩
ふと、目が覚めた。
時刻はAM1:00
こんな時間に目が覚めることは滅多にない。まさか、『歩こう』なんて、まさに。
気づけばベッドから立ち上がり、電気も着いていない玄関の前で靴を履いていた。
無意識って怖いな。
なんて思って、引き返すこともできたのに
しっかり鍵をかけて家を後にした。
知っている道と言えども、今は深夜。
全く違ったように見える。
こんな時間に出歩くなんて、この新居に移ってから初めてのことだった。
以前住んでいたアパートでは隣人関係などでどうもギクシャクしてしまい、
その前も、またその前も、1年も経たずに引越しをしていた。
だが、この物件に住んでからはどうだろう。
騒音はないし、隣人関係も良好だ。
そうそう、隣人と言えば、隣に住んでいる女子大生。
彼女は出勤前の私によく声をかけてくれる。
当たり障りのない挨拶しか交わさないが、私の一種の癒しとなっていた。
そんな彼女が今朝私に話しかけてきた。
「あの、余計なお世話かもしれないんですけど、これ、良かったら。」
そう言うと、防犯ブザーを渡してきた。
まるで、今日私が深夜に起きて散歩をすることを知っていたようなチョイスである。
今朝はなんの事か分からず、なんとなく受け取ったが、今度彼女にあったら感謝しないといけないな。
そう思って、住宅街を右に曲がって大通に…
出れない。
住宅街を右に曲がるとそこは、さっき通り過ぎた公園。
おかしい。
元々、街灯の少ない通りだし、道を間違えたのかもしれないと、来た道を戻ることにした。
それでも、結局公園の前に戻ってきてしまう
目印として、そこら辺に転がっていた空のペットボトルを曲がり角に置いてみることにした。
そしてまた歩き出す。公園を左に曲がって、30m先の街灯で曲がり、道なりに歩く、そして右に曲がれば大通りに…
…公園があった。
ペットボトルも一緒に。
さすがの私も不安になった。いつもの道のはずだ。それに、ペットボトルはどうしてここに?
…もしかして、ループしてる?
たまたま深夜に起きたのも、女子大生が防犯ブザーを渡してきたのも、全て偶然ではなく、必然だったのだ。
そうだ、きっとそうだ。
なら、どうすればこのループから抜け出せる?
電柱の下で考え込んだ。今何時かも分からなければ、時間が動いているのかも分からない。
私はひたすら棒立ちで考えた。
すると、遠くの方から
「おーい、おじいさん。こんな時間に何やってるの?」
「え?」
「おじいさん。今、深夜2時だから、お家に、帰りましょうか。」
私の耳元で聞き取りやすいように文字を区切ってゆっくりと話し、腕を引かれるがままにパトカーへ乗り、
そのまま家に送り届けられた。
パトカーで待機していた警察官が戻ってきた同僚に、
「またか、あのおじいさん。昨日も捜索届け出てたんじゃない?親族とかいないの?」
「いないみたい。でも、自分でしっかり家賃払えてるし、問題は深夜の徘徊だけなんだけどね。」
「…あれほんとにおじいさんか?」
「どういうことだよ?」
「格好が妙に若々しい気がしてさ、まあ、気のせいだと思うけど。」
*
警察官に家まで送られてしまった。
それにしても、おじいさんというとはどういうことだろう。
私は今年で29になる。間違えるわけが無い。
そうだ、今何時なんだろう。
時計に手を伸ばした。
僕は君じゃないけれど、来世はたぶん君 喪中 ごん蔵 @monakagonzou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。僕は君じゃないけれど、来世はたぶん君の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます