僕は君じゃないけれど、来世はたぶん君
喪中 ごん蔵
忘れるわけない
「ねえ、町田。昨日の怪談番組の特集見た?」
信号が点滅して、彼女が俺の隣に足を止めた。
「え……、そんな…。中学生、が見るような番組見てるの?」
彼女の名前は朝比奈。近くの高校に通っている俺と
俺はとにかく衝撃が隠せなかった。
「え、なんでそんなにショック受けてるの!
こっちがショックだよ!」
さも被害者ですと言わんばかりに目をカッ!と見開き、こちらを向いたかと思うと、横断歩道へ目線を戻し話を続ける。
「まあ、見てないんだったら説明するけど、番組の中で地獄の刑について特集が組まれてたんだよ。針山に登る刑とか大きな釜でグツグツされる刑とか、たくさん刑はあるんだけど刑期どのくらいか知ってる?」
「そんなの分かr」
「想像で!」
「……300年くらいとか?」
「はい!ブッブー!正解は短くても500年!あ、ちなみにこれ地獄時間ね?人間世界の時間に換算すると約1兆年くらいになるんだって。」
「1兆年…宇宙できたの約300億年前なのに…」
「そうw小学生が考えたのかって感じでww
んふッwww」
ツボにハマったようで、手で口を抑えて笑いを堪えていた。それでも隙間からふっふっと声が漏れ、それも彼女の笑いを誘う原因となっていた。
*
ようやく笑い終わったと思うと、まだ話を続けるようだった。
「はぁ…wまあ、それでね?私気づいちゃったんですよ。幽霊がなんで成仏しないで現世にとどまり続けちゃうのか!」
話がよく飛ぶというのが女性の会話の特徴らしいが、これ程までに話が飛躍すると共に、現実離れした想像力は実に朝比奈らしい。
確かに朝比奈は自他ともに認める馬鹿だが、時々、真相に近しいことを発言することがあった。僕はその朝比奈と意見を交わすことが好きだった。
「それはね、地獄の刑期が長すぎて、地獄は人手不足だから現世で順番が来るまで待ってるっていう仮説なんだけど、結構自信あるんだよね。」
俺も続けて意見を言う。
「確かに地獄の刑期は古い書物とかで残っているのかもしれないけど、人手不足って言うのはどこから?」
朝比奈は待ってましたと言わんばかりに、ふふんと腰に手を当てて自信ありげに発表しだした。
「よくぞ聞いてくれました!霊感がある人でも『ここに石器時代の弥生人が!』なんて言わないいでしょ?せいぜい
これは朝比奈も想定していた質問のようで、突っ込むことが出来ない。昔ならもっと簡単に仮説を覆すことが出来たのに、
それなら。
「なるほど…朝比奈は死生観についてそう考えるんだね。」
「うん、結構な大発見だって思わない?」
「まあ、死後の世界というのが存在するというのならそうなのかもしれないけど、俺はそうは思わない。そもそも俺は天国や地獄なんてものは存在しないと思っている。」
「ほう、それはまたどうして?」
いつもなら仮説に突っ込むだけの俺だが、朝比奈も少し驚いているようだった。
「あれは生きた人間が書いたものだから、実際に見たものでは無いし。」
「え〜、夢ないね〜。なら、霊能者の見る霊って言われるものたちはなんだと思ってる?」
「それは人々の集団意識が作り出した偶像だよ。例として都市伝説の口裂け女を例にあげるけど、都市伝説は世界各地に存在する。でも、口裂け女ほど子供から大人、メディアまでも巻き込んだ例は類を見ない。まず、口裂け女の噂の出どころすら怪しい。それなのに全国へと広まり集団下校をする学校もあった。人々は口裂け女は存在すると本気で信じた結果、具現化してしまったと俺は考える。つまり、人々に幽霊は存在するという意識がある限り幽霊は存在し続ける……まあ、仮説だけど。」
「へえ、面白いね。
……じゃあ、死んだら、どうなると思う?」
俺はドキッとした、心臓なんてとっくの昔に止まっているのに。
「……死んだら、勝手に目が覚めて、新しい人生に進めるって思ってたよ。」
「…さすがにこの現実から目はそむけられないよね〜。確かに私たち死んだんだもん。」
朝比奈の言う通り、俺たちは確かに死んだ。
俺は4年前の夏。
朝比奈は今日。
俺の目の前で、車に跳ねられた。
気がついたら隣に立って俺に話しかけてきた。てっきり自身が死んだことに気づいていないのかと思っていたが、分かって話しかけてきていたようだった。
「私たちって、言うなれば幽霊ってやつでしょ?なのに自分の存在を否定するの?」
「自分の存在を否定してる訳では無いよ。ただ、人に忘れられたときが本当の死なんじゃないかって思うだけだよ。」
「あ〜、よく聞くヤツだそれ、その思想なのね。なら私の思想の方がお得じゃない?地獄と天国は存在することになるけど、自分を忘れられて消えることは無いし、お迎えはまだまだ先だよ。それに、全ての不思議なことが集団意識によるものだとしたら天国と地獄は存在するんじゃない?」
「…確かに、そうだね。」
朝比奈に完全敗北。
そういえば、中学の頃、勝った方が相手に何か一つお願いをできる。という謎ルールがあった。考案はもちろん朝比奈。彼女はそんなこと覚えているのだろうか。
「そうだ、これから先も仲良くしてね、町田。」
俺は朝比奈の顔を見た。
けたたましくサイレンの音だけがただ響いていた。
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