冒険者殺しの再現者

@lucky_nana

冒険者達の行方

一度踏み入れると、二度と出ることは叶わないと言われている森がある。


最初は噂程度の話だったが、森へいったまま帰ってこないという報告は年々増えていき、今となってはその信憑性を疑うものはいないだろう。


事態を重くとらえた国王は、国民に森への侵入禁止令は発令し、謎を解明するため、王国内の名の通った冒険者達に森の調査を依頼した。


私も依頼を受けた中の1人であり、今まさに王国が用意してくれた馬車に乗り森へ向かう途中だ。


馬車の窓から外を覗く。時刻は正午で天気は晴れており、目の前に広がる草原は太陽の光に照らされて元気いっぱいに輝いている。


その草原の先に、例の森が見えてきた。


依頼を受けた際に森のことを調べてみたのだが、帰ってきた人がいないため、当然なのだが全く情報は得られなかった。


考えられる可能性としては、凶悪なモンスターが生息しているか、それとも森の構造が迷路のようになっているのか、魔法が絡んでいる線も…


そんなことを考えていると、ガシャンという音と共に体が揺れる

馬車が止まったようだ。


「エリン様、ご到着しました。」


王国から派遣された運転手から声がかかる。


私は荷物を背中に背負い、馬車の中にある鏡を見る。


鏡に映るのは焦茶色の旅装束を纏い、腰には剣を下げ、金色の髪の毛を肩の上で切りそろえた女冒険者。いつも通りの私だ。


鏡を見ながら、服装や忘れ物などがないか確認をする。


────準備完了


準備が終わった私は荷台から降りて、運転手に挨拶をする。


「ここまで乗せていただいて、ありがとうございました。」

「いえいえ、仕事ですから」


最後に一礼して森へ向かおうとしたが、運転手が何か言いたそうな顔をしている。


「どうかしましたか?」

「その…失礼だとは思うのですが、本当にエリン様1人で行かれるのですか?」


私の身を案じてか、そのような言葉をかけてくれた。私が女というのもあるのだろう。


「はい、こう見えても王国では名の通った冒険者なんですよ?」

「そ、そうですよね、失礼しました。帰りをお待ちしております」


今度こそ最後にお礼を伝えると、運転手は一礼して馬車を走らせた。

馬車が走っていくのを見送り、その場で後ろに振り返ると、そこには例の森が目の前にある。


目の前に広がる森は左右を見渡しても終わりが見えず、まるで街を囲む城壁のように聳え立っている。


そして私の体のちょうど正面には森の中へと続く道がある。

道は真っ直ぐに伸びており、これもまた終わりが見えない。


「すうぅ…………はぁぁー……」


深呼吸をする。

先ほどは胸を張ったが、不安がないと言えば嘘になる。だが、王国から直接依頼を頼まれたのも、私の力が認められた証拠だ。


森の中を探索して帰還することができれば報酬はたくさん貰えるし、もとより冒険者とは死と隣り合わせなのだ、今までも危ない経験はしてきた。


もう一度深呼吸をして、心を落ち着かせる。


「────よしっ!」


一言気合を入れると、私は勢いのままに森の中へと踏み出した。



森の中はに入り一番最初に感じたことは、他の森と比べて違和感が全くないことだ。


鳥の鳴き声や、小動物たちが森を走る音、天気は晴れており、空気は澄み渡っている。


凶悪なモンスターが生息しているのであれば、小動物達が生き生きと生活するのは難しいだろうし、先に調査に向かった冒険者との戦闘の後などがあってもいい。


森の構造は道は真っ直ぐに伸びており、他に道は見えないので迷うこともないだろう。


様々な可能性を考えていたが、今のところは至って普通の森であった。


不安と共に森へ入ったが、ここまで何もないと拍子抜けである。


後ろを振り返ると、そこには歩いてきた自分の足跡とその先に入り口があり、今森を出ようとすればなんの問題もなく外に出られるだろう。


流石になんの成果もないまま戻るわけにはいかないので、そのまま道を進み続ける。


さらに道を進み続けると道の脇に木造の小屋が見えてきた。


おそらくこの道を通る商人や冒険者などが休憩するように作られた物だろう。


全て木で作られており簡易的な小屋ではあったが、丁寧に使われているのか見た目は綺麗である。


特に休憩は必要なかったが、調査のため中へ入ってみる。


室内は仕切りなどはなく、真ん中に大きめの机と椅子が4つ用意されてあるだけで、それ以外は特に何もない。


中も使用感はあまりなく綺麗に使われている。


その後、室内の隅々を調べてみたが、特に森の秘密に関わるようなものは無さそうだ。


「……なにも無いか」


空振りに終わってしまったことは残念だったが、肩を落としている暇はない。


私は再び森の調査に戻るために、小屋を後にする。



ただ、外に広がっていたのは私の知っている世界ではなかった。



森は暗闇に包まれており、空を見上げると太陽があった場所には満月がこちらを覗いている。


月明かりによってかろうじて森と道が見える様子は、まさしく夜だった。


「うそ…でしょ」


私が森へ入る時は確かに太陽がちょうど真上にくる正午だった。調査を始めてから1時間も経っていない。


突然の出来事に動揺を隠せない私だったが、現実はまるで私を無視をするかのように「夜の森」という事実だけが目の前にあった。


────だ、だいじょうぶ………大丈夫


私は胸に手を当て、無理矢理に自分を落ち着かせる。

一度目を閉じ、外の世界を遮断して思考に集中する。


恐らく夜に包まれたのは森の中だろう。今回の目的でもある森の秘密も絡んでいるに違いない。


そして、こんな常識はずれの現象を起こせる可能性は一つしかない。


「魔法だ」


魔法が発動したタイミングは小屋の中にいる時だろう。ただ術者がどこにいるのかは不明だ。


目を開き、あたりを見渡してみるが近くに人影らしき気配はない……いや、耳を澄ますと遠くの方から人が走る音が聞こえてくる。


足音が徐々に大きくなっている、場所は左前方の森の中、人数は2人。

私は腰に掛けている剣の柄に手を置き、膝を少し曲げて、その瞬間を待つ。


足音がすぐそこまで迫った時、剣が交わる音が聞こえた。そしてその音と同時に男の冒険者が体勢を崩して転がりながら道の前方に姿を現した。


そのすぐ後に女の冒険者が森から姿を表し、勢いよく地面を蹴り上げて宙に舞いながら男の冒険者に斬りかかる。男の冒険者はギリギリのタイミングで体勢を立て直し、剣で攻撃を受け止める。


そのまま剣と剣が交わった状態で両者硬直する。


ただジャンプした勢いで女の冒険者の方が力では勝っており、男の冒険者は徐々に後退している。


その中、男の冒険者が私の存在に気づいた。


「手を貸してくれ!頼む!!!」


大声でこちらに助けを呼んでいる。


普段なら他人の揉め事に関与はしない、ただ恐らく前にいるのは調査で先に入った冒険者達だろう。


なぜ戦闘状態に入っているのかは分からないが、森の事情を少しでも知っている可能性があるため、ひとまず男の冒険者の方に加勢することにした。


私は鞘に収めたまま剣の柄を握り、全力で走る。


2人の冒険者は以前として剣と剣が交わった状態で硬直しているが、男の冒険者の方がジリジリと道の端まで追いやられている。


私は女の冒険者を目掛けて走り、剣の射程範囲に入った刹那、剣を抜き斬りかかる。が、女の冒険者も私の存在に気づいており、タイミングよく後ろにジャンプして私の攻撃を回避した。


長い赤髪を後ろで一つ縛りにしている女の冒険者は、こちらに向かって剣を構えつつ様子を伺っている。


私も女の冒険者に剣を向けつつ、横目で男の冒険者の様子を伺う。


短髪で黒髪の冒険者は女の冒険者の攻撃から解放され膝をつく。

男の冒険者は肩で息をしており、相当疲弊しているようだ。


それでも、男の冒険者はすぐに体勢を立て直し、女の冒険者に向かって剣を構える。


「すまない、ありがとう」


男の冒険者は女の冒険者を警戒しながらそう言った。

夜ということもあり、遠くからでは容姿が見えなかったが、2人とも知っている顔ではなかった。


ただ装備品などを見たところ、冒険者であることは間違いなさそうだ


「私はエリン、王国から調査の依頼を受けてここに来た。あなたは?」

「俺も同じだ、名前はベルト」


お互い女の冒険者に警戒しつつ、最低限の情報を交換する。

他にも聞きたいことはあったが、そんな悠長なことは言ってられないようだ。


女の冒険者は2対1にも関わらず自ら攻撃を仕掛けてきた。


「後で色々聞かせて貰うから!」

「ああ!」


こちらも同時に地面を蹴り、勢いよく女の冒険者に向かって走り出す。


まず最初に斬りかかったのはベルトだ。女の冒険者はベルトの攻撃を剣で受け止めて先程の体勢と同じような状況になる。


私はベルトの後から体勢を低くして滑るような形で現れ、女冒険者を足を狙い剣を振るった。だが、女冒険者は間一髪のところで後ろにジャンプして回避した。


これも先ほどと同じような交わし方だ。私は咄嗟に剣を逆手持ちに変えて、女が着地するであろうポイントに向かって投剣する。


投げられた剣は真っ直ぐに飛んでいき、女が着地したタイミングで太ももに剣が刺さる。


「────っ!」


女は痛みで体勢がよろけて、太ももに手を当てる。


ベルトはすかさず女に向かって走り出し、両手で持った剣を大きく横に振り抜いた。女は体勢が崩れた状態でなんとか剣で受け止めようとするが、ベルトが放った全力の一閃は女の剣を弾き、クルクルと回転しながら森の中へ消えていく。


ベルトは無防備になったところで腹に蹴りを喰らわす。

女は鈍い声を上げながら、大きく後方に吹き飛ばされて仰向けに倒れた。


ベルトは剣を女冒険者に向けたままゆっくりと近づいていく。


女は足の痛みで苦しそうな顔をしながら、両手で上半身を起こし、剣が刺さったままの脚を引きづりながら後ろに下がっている。


ベルトは歩みを止めず、剣を向けたまま徐々に女に近づいていく

その後ろ姿は、今にも殺してしまいそうな勢いだった。


私は急いで後を追いベルトの肩に手を置いて、まってと声をかける。

女冒険者の太ももに刺さった自分の剣を抜き、倒れている女に向けた。


「殺しはしないわ、何個か聞きたいことがあるだけ」


森で起きている現象を知っているかもしれないため、殺すわけにはいかない。話を聞きつつ拘束して、王国に連行する必要がある。


「まずは拘束させてもらう。ベルト手伝っ」


ベルトは私の言葉を遮るように動き出し、仰向けに倒れている女冒険者の上に馬乗りした。



そして、そのまま心臓を貫いた。



「な、なにして……」


私はベルトを止めようとするが、ベルトは何度も、何度も、何度も心臓付近に剣を刺している。


女冒険者の体は刺された瞬間、手足をビクンとさせていたが、今はもう力を失っていた。


ベルトは腕を止めて立ち上がり、両腕をダランとさせた状態で私を覗いた。


月明かりが照らす彼の顔は殺意で満ちており、まるで別人のようになっていた。


「……どうして」


私の言葉にベルトは反応せず、無言のまま私の方に剣を向け、なんの躊躇いもなく私に襲いかかる。


私は剣を両手で持ちベルトの剣を受け止めながら、流れるように左から右へ攻撃を逃す。攻撃を流されて少し体勢を崩しているベルトの足を目掛けて剣を振ろうとするが、ベルトはすぐに体勢を立て直し、剣で私の攻撃を弾く。

そして間髪入れずに攻撃を仕掛けてくる。私も攻撃を受け止めたが、ベルトはまたもや間髪入れずに攻撃を行う。


────はやいっ


顔つきだけではなく動きもまた別人のようなっており、ベルトが繰り出す連撃に私は防戦一方となっていた。


────このままでは本当に殺される


私はなんとかこの状況を脱出すべく、ベルトの攻撃を受けると同時に後ろへ地面を蹴る。ベルトの攻撃の勢いも相待って、かなり距離をとることに成功した。


そのままの勢いで後ろに振り返り、森の出口へ全力で走り始める。


森の秘密を解明できた訳ではないが、森で体験した「突然の夜」「冒険者殺し」を報告することができれば、調査として十分な成果だ。


なによりここで死んでしまっては全てが水の泡である。


私は全速力で出口へ向かいつつ、後方にいるベルトを確認する…がベルトの姿が見えない。私は急いで辺りを確認する。


右、左、そして上を確認すると、ベルトが今まさに私に斬りかかろうとしていた。


私は急いで横にジャンプをしてなんとか攻撃を回避する。


────危なかった


ベルトは空中からの攻撃が失敗したことで、勢いを殺すことができずに体勢を崩している。


走って逃げるのが不可能だと思った私はベルトが体勢を崩している内に道から森の中へと進路を変えた。


森の中へ入り、迫り来る木々を避けながら走る。すぐに大きめの木を発見すると、走ってきた方向とは逆の方向に回り込んで木の幹に背中を預けた。


森の中は月明かりが全く入って来ないので、道よりもさらに暗くなっている。


単純に走って逃げるのは無理だろう。一旦物陰に隠れて隙を伺って逃げるしかない。


耳を立てると走っている足音が聞こえる。間違いなくベルトだろう。

また、私が荒い呼吸をしていることにも気づく。


慌てて自分の口を手で塞ぐ。


改めて自分の体に意識を傾けると、荒い呼吸に、激しく動く心臓の音が聞こえる


緊張状態が続いていたため気づかなかったが、体は相当に疲弊していたらしい。


木の幹に背中を預けた状態のまま、そのばに座りこむ。

休憩とまではいかないが、体を休められる時に休めた方がいいだろう。


私は座った状態のままベルトの足音を確認しつつ、ベルトの豹変した原因を考えた。


恐らくベルトは何者かによって操作されてるか、精神を侵されているかだろう。どちらにせよ魔法が関わっているに違いない。


もしかしたら、初めからベルトが女冒険者を殺そうとしていたのかもしれないが、それならなぜ女冒険者は、私がベルトに加勢した時に何も言わなかったのか……


どちらにせよ、突然夜になった現象と冒険者殺しは森の秘密に関わりあるはずだ。


必ず王国に帰還して、報告する必要がある。


私はもう一度、ベルトの足音に意識をやる。


ベルトは私の足音が無くなったことに気づいたのか、歩きながら捜索しているようだ。


ベルトの足音は徐々に近づいてくる。


静寂に包まれる森の中に、枝が折れる音や、草が踏みしめる音が鮮明に聞こえる


────近い


音の位置から察するに、私が背中を預けている木の後方にいるだろう


私は物音がしないように慎重に動きながら、ほんの少しだけ木の幹から顔を出す。


確かにベルトは私の隠れている木の後方にいた。あたり見渡しながら、地面に目をやっている。恐らく私の足跡を探しているのだろう。


だが、夜という状況で草木生い茂る森の中で足跡を探すのは困難だろう。

実際ベルトも私の足跡を見つけられずにいる。


それでも足跡は絶対にある。見つかるのは時間の問題だ。

どうするべきか、私は思考に意識をやりながら元の体勢に戻ろうとする。


その時、枝が折れる音がした。

ベルトではない、私の足元から。


咄嗟にベルトの反応を確認したその瞬間、ベルトと目が合う。

暗闇の中、ベルトは音がした方向にいる私を見つけた。


私は思考を介さず、道のある方向に向かって走り始める。


────しまったしまったしまったしまったしまったっ


目の前に迫る森の木々を避けながら、私は本能のままに体を動かした。


木々のその先に月明かりによって薄らと明るくなっている道が見えてきた。



道が目に入った私は、死の恐怖から一瞬解放される。

何故かは分からない、でも森を抜けた先に助けがいると思ったから。



一瞬の安堵と背後から死が迫ってくる恐怖に、私は木々を避ける動作すら疎かになった。


肩が木の幹に勢いよくぶつかり、体勢を崩した私はベルトが視界に入る。


本能のままに走っていた私は、ベルトの足音すら耳に入っていなかった。

ベルトは攻撃可能な間合いにいる私を今まさに斬りつけようとしている。


私は崩れた体勢のまま剣を構えた。

咄嗟に構えたその剣はベルトの剣撃を防ぐことには成功したが、力は無く、ベルトの勢いに負けて吹き飛ばされる。


勢いのまま転がった私は、そのまま道に飛び出した。


転がった先で体勢を立て直し顔を上げると、森の中から姿を表したベルトが地面を思いっきり蹴り上げた。


高く宙に舞ったベルトは、剣を振りかぶり私の方へ落下してくる。


完全に体勢を立て直した私は、剣を構えて前に体重を乗せて、空から落ちてくるベルトの剣撃を受け止める。


先程と違い、万全の状態で剣撃を受けた私は吹き飛ばされることはない。

ただ、ジャンプで勢いをつけているベルトの攻撃に若干力負けし、剣を受けている状態のままジリジリと後退している。


────大丈夫。道には助けがいるはずだから。


私はベルトの攻撃を受けた状態のまま、森の出口のある方向に目をやる。

道の先には1人の女冒険者がいた。


私は冒険者に向かって声を張り上げた。


「お願い!助けて!!」


女の冒険者は一瞬考えるそぶりを見せた後、剣の柄に手を置き勢いよく走り始めた。


女冒険者がこちらに向かっている間も、私は徐々に道のはじに追いやられている。


万全の体勢で受け止めたとはいえ、疲労している体はすでに限界が近い。

剣を持っている腕は震えており、勢いを止めている脚は今にもバランスを崩してしまいそうだ。


それでも、私の体が限界を越えるよりも先に、女冒険者の攻撃がベルトに襲いかかる。ベルトは低くジャンプをして、その攻撃を避ける。


ベルトの攻撃から解放された私は前にやっていた体重のまま倒れ、四つん這いの体勢になる。


倒れた体勢のまま顔を上げると、女の冒険者が目に入る。


青髪を腰の辺りまで伸ばしている女の冒険者は、ベルトに剣を向けつつ横目で私の様子を伺っている。


私はすぐに体勢を立て直し、ベルトに対して剣を構えて青髪の冒険者に感謝を伝える。


「ありがとう、助かったわ」

「いいえ、私はレインと申します。この森へは調査で来ました。貴方も同じ目的だとお見受けしますが」


私の身なりや状況を見て依頼を受けた冒険者だと判断したのだろう。実際その通りだ。


「その通りよ、名前はエリン。私は目の前の彼が森の秘密に関わっていると考えている」


森で体験したことを共有したいところだが、そんな悠長は言ってられなそうだ。ベルトは私達に対して先手を仕掛けてきた。


私達は足に力を入れて


「私は貴方も怪しいと考えているのですが、ひとまずは共闘と行きましょう!」

「ええ!後で私が体験したことを教えてあげる!!」


こちらに向かってくるベルトに対して、それぞれ地面を蹴る。


先に接触したのは私だ。ベルトの攻撃を剣で受け流し、その流れを利用してベルトに斬りかかる。ベルトは流された剣をすぐに戻し、私の剣を受け止める。2人の剣が交わり、そして弾かれるようにそれぞれ後方に跳ねた。


今度はレインがベルトに休ませる隙を与えずに攻撃を仕掛ける。レインとベルトはそれぞれ剣で攻撃と防御を繰り返している。


私はタイミングを見計らって、レインの背後からジャンプをして、今度は私が空中からベルトを襲う。


レインと交戦していたベルトは回避行動が遅れ、自分の頭上に剣を上げて私の攻撃を受け止める。だが、その選択は愚策と言わざるを得ない。レインはガラ空きの脚を目掛けて剣を突き刺す。


ベルトは痛みで鈍い声を上げながら、剣が刺された太ももを手で押さえながらその場にしゃがみ込む


空中で私を受け止めていたものがなくなり、地面に着地する。

レインはベルトの太ももから剣を抜き、私と共に蹲っているベルトを見下ろす。


────終わった


終わったのだ、ここまで森の不可解な現象や殺人に巻き込まれ散々な目にあったが、ベルトを王国に連行し、調査結果を報告して…


「まずは拘束させていただきます。エリン手伝ってください」


調査結果を報告して終わり…いや、終わったのなら始めないと


私は蹲っているベルトの肩を蹴り飛ばし、仰向けになったベルトに馬乗りする。



そして、ベルトの心臓を目掛けて剣を突き刺す。



剣を抜きもう一度心臓を刺す。


何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、なんども…さす?


────わ、わたしは……なにして…るの


私が気づいた時には力を失ったベルトと、血まみれになった胸元や剣、そして私の手が目の前に広がっていた。


そして視界が変わる。私はベルトを刺し終えると脱力して立ち上がり、困惑した顔をしているレインを覗き込んでいる。


その時、もう一つの異変に気づいた。


────体が…動かせない


今、私の体はレインに攻撃を仕掛けようとしている。だが、私はそんなことを体に命令した記憶はない。


私の体は、私の支配下ではなくなっていた。


私の体は道中でレインを追っている。

それは、身に覚えのある状況だった。


────ああ、そうだったんだ


私はこの後起こることが手に取るように分かった。


それだけじゃない。突然の夜、ベルトの変貌、そして森の秘密、その全てが繋がった。


────今、私の体は森の中でレインを探している。


恐らくこの森には、森全体を囲む巨大な魔法がかけられている。

「森の中で起きた現象を再現する」という魔法が。


魔法がかけられた時、最初に起きた現象が殺人だった。そして殺人が起きた時刻は夜。


森へ入った人は強制的に殺人の再現に参加させられる。


初めは世界が夜になり、次に殺人を目撃して犯人から逃走、魔法の効果は徐々に人の体にも侵食していく。


私が逃走中に、なぜ道に助けがいると思ったのか。思えばあの時から魔法は私の体を蝕んでいたんだ。魔法が体の中にある状態だったから、無意識に助けがいると分かったのだろう。


完全に乗っ取られた体は殺人の犯人を殺し、自分が犯人に変わる。

そして、また繰り返すのだ。今度は自分が殺人の目撃者を追い……


────今、私の体はレインと男の冒険者と対峙している。


ここは、一度踏み入れると、二度と出ることは叶わない森


────今、私の体は仰向けに倒れている。


そして、殺意に満ちた顔をしたレインが、私の体に馬乗りして剣を振り上げた。

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