見闇夜
鮎川伸元
第1話スーツの濡れた男
黒洞洞とした夜が月の光を呑み込んでいる。
男はたった一人で、暗くてじめじめした夏の夜道を歩いていた。
男は雨具を羽織り、彼の手にはスコップがしっかりと握られている。
「うおぁ!?」
男はぬかるみに足を滑らせ転んでしまった。
男は自分の汚れた部分を見ながら、
「あぁ、スーツのズボンが汚れちまった。クソ、それもこれもあの女のせいだ」
「まぁでもスーツを捨てることになるのは、さっきから分かっていたことだ」
と男は何か落ち着きのない乾いた口調でつぶやく。
ふと、男が道の横の森を見た。男には何も見えていない、でも、相手が男を見ていないとは限らない。
男は急に自分に何か得体のしれない怖くておぞましいものが降りかかってきそうで怖くなり、無我夢中で走り出した。
彼は何を恐れたのか、
彼が殺し、たった今埋めたばかりの女の怨念か、
彼が過去に犯した罪と罰か、
彼のスーツが泥で汚れたとしても、彼が浴びた血は決して落ちはしない。
彼はやっとの思いで、自身の車へ乗り込むと、強引に狭い山道を走り抜け、暗い闇の中へ消えてしまった。
そこから逃げても、まるで影のように、決して彼の闇は彼を逃がしたりしないだろう。
あれから数カ月も経っているが、未だに彼が死亡したというニュースを見ていない。
きっと死体すらもうこの世にはないのだろう。死んだことにすら誰にも気づいてもらえないなんて、自業自得だが少し同情する。
見闇夜 鮎川伸元 @ayukawanobutika
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