ごっどばーど!~自称小説家の俺、異世界で最強の吟遊詩人になる~

美作美琴

プロローグ 最後の大勝負


 「チッキショーーー!! また落選かーーー!!」


 web小説サイト『カケヨメ』の小説コンテストの結果発表画面を見て机に乗っていた小説や辞典、ネタの掛かれたノートを一斉にちゃぶ台返しでぶちまける俺、四十万吟しじまぎん


 八年前、アラフィフの俺に突如舞い込んだ不幸……高齢の両親が揃って認知症を発症その後寝たきりになり、独身の俺は一人で両親の面倒を見る事になった。

 役所を頼り介護ヘルパーと契約をするも仕事から家に帰れば両親の食事や下の世話、洗濯などの家事に追われ心の休まる事は無かった。

 当然遠くには出掛けられず泊りがけの旅行などもっての外、次第に俺の心はどんどん疲弊していった。

 生活と仕事以外の趣味などをやる気は起こらずただ淡々と同じ苦行の日々を繰り返すのみ。

 だがそもそもアニメや漫画、ラノベなどが好きな所謂オタク趣味の俺に光明が差す。


 web小説投稿サイトとの出会い……。


 ネット上に自作或いは二次創作の小説をアップロードし発表する場。

 不特定多数の顔も知らない赤の他人に作品を読んでもらい評価を受けられる。

 これなら家から離れなくて良いし、親の介護のちょっとした空き時間に少しづつ文章を書いていけば良い気分転換になるのではないか。

 伊達に大量のアニメ鑑賞や漫画の購読を続けて来た訳では無い、それらが講じて例に漏れず小さい頃は漫画家になりたいと思っていた時もあった。

 絵が描けず断念した漫画家でも文章を掛ければ小説は書けるはず、軽い気持ちでカケヨメというweb小説サイトに登録、執筆を開始したのであったが……。


 甘かった、それまで作文すらまともに書けた事の無かった俺が魅力的な文章や物語を描ける筈も無く、無謀にも挑戦した小説コンテストでは一次審査通過どころか箸にも棒にも掛からないという結果に終わる。

 小説舐めてました、小説家の皆さま申し訳ございません。

 執筆開始五年目に初めて一次審査を通るという自分的快挙が起こったが後には続かず、それ以降は鳴かず飛ばずであった。

 

 それから両親の介護度が上がり介護施設に預ける事が出来る様になった。

 これにより自由に使える時間が大幅に増える、そう思った時期もあった、しかしそうはならなかった。

 何と俺は長きに亘った介護から解放されたにも拘らず何もする気が起きなくなってしまっていたのだ。

 両親の介護をしながらでも毎年の様に新作小説を掛けていた俺であったが時間のある今は逆に執筆が全くと言っていい程捗らない。

 それ所か家事も満足にやらなくなり部屋も荒れ果てゴミ屋敷一歩手前まで家内が荒れ果てるようになってしまった。

 これではいけない、何とかしなければ。

 待て、本当にこのままで良いのか?

 軽い気持ちで始めたとは言え小説の執筆を八年も続けてきたのだぞ? このまま何の成果も上げずに終わっていいのか?

 せめて最終選考に残るくらいの作品を書いてみようとは思わないのか? 俺よ?

 これまでの自堕落な生活に終止符を打つためにもここで一発、最後の大勝負に出てみないか?

 そう一大決心した俺は勤め先の会社に辞表を提出、敢えて背水の陣を敷いた。

 幸い貯金は百万ほどある、節制すれば一年は働かずとも生活出来るだろう。

 期限は一年、次のコンテストで結果が出なければキッパリweb小説から手を引く。

 覚悟を決めた俺はこの日から死に物狂いで小説の執筆を開始したのだった。


 俺の得意ジャンルは今流行りの異世界小説、異世界転生小説だ。

 しかし流行るだけありこのジャンルは執筆者も多くそれだけコンテストの競争率も上がる。

 これまでの経験から奇を衒ったインパクト狙いの独創的な作品より多少オーソドックスな作風の方が受ける気がする。

 実際他の作者も色々とトライし過ぎてアイデアが枯渇し似たり寄ったりの作品が氾濫しているのも事実。

 どちらかというと俺も今まで目を引く斬新なアイデアを絞り出そうと躍起になっていた気がする。

 だから今執筆している作品はどっしりと地に足の付いたハイファンタジーを目指していた。

 ただラノベという作品形態においてあまり重いのは受けないであろう、エンターテインメント性も必要だ。

 やはり創作は奥が深い、もしかしたら俺なんかの浅知恵で考察したところで全く正解には程遠いのかもしれない。

 だが今更引けない、退路を断った今必ず結果を出さねばならない。

 とやかく考えるのは止めだ、今俺が書ける最高の作品を目指すしかない。

 そう、例えこの命が尽きるとしても。


 次のコンテスト締め切り迄あと三日、しかし応募既定の十万文字まであと一万文字足りない。

 そう言えばここの所徹夜続きだったな、頭が重い、ぼんやりする、飯も食べてなかった。

 少し休もうか、こんな状態じゃ良い作品なんか書けやしない。

 少し寝て起きたら腹ごしらえをして一気に最後まで書き上げ、そして誤字脱字を治校正しなきゃ……あと三日しかないから頑張るぞ……。

 俺は仮眠を取ろうとベッドのある部屋に向かおうとするが中々足が前に進まない。

 あれ? どうしてこんなに足が重い? 瞼も重い、まだベッドに辿り着いていないんだぞ。

 しかし俺の意思に反して全身の力が抜け前倒しに倒れ込む。

 まあいいか、ここで寝ても……起きたら続きを書かなきゃ……。


 そして俺の意識は深い闇の中へと落ちていったのだった。

 この後に起こる事はど全く予想など出来ずに……。

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