第108話 神の慈悲(最終回)

 楽しいプチ船旅を終えて、いよいよ例の島に上陸した。



「うわ──っ! ネモフィラ似た青い花が群生した花畑だ──っ!!」



 あまりに綺麗だったので、思わず自分らしくもなく、はしゃぐ大声が出た。

 私の次に紗耶香ちゃんも叫んだ。


「超ヤバイ! 綺麗〜〜! そして映え!」



 奥には壊れた古い神殿がある。

 まるでギリシャのパルテノン神殿みたいなのが。

 これもまた趣がある。


「こんなに綺麗なのに、この島は貴族のリゾート地にならないんですか?」



 私の素朴な疑問と質問にラウルさんが答えてくれた。



「北の森から魔物が出て来る事があるから。冒険者なら狩りがてら泊まるんだが」

「なるほど、魔物が出るなら仕方ないですね」

「だから夜はしっかり警戒しないとな、まあそれは大人の俺達に任せろ」



 リックさんも俺達に任せろ! って言ってくれたんだけど、



「ここに魔王がいるから下っ端の弱い魔物は寄って来ないよ」



 クラスメイトの元勇者の魔王、立川君があっさりとそう言った。



「あ、そうだった……。それは……助かるな」



 ラウルさん達の笑顔がやや引き攣った。

 壊れた古い神殿を夜にキャンプ地にしてもいいらしい。


 島の住民は神殿に泊まっても、何も文句言わないらしいので、夜はそこらでテントを使う事にした。


 元聖女の天野澪さんは早速船の中で充電させて貰ったスマホで周囲の写真を撮っている。

 花畑や神殿、とても絵になる。


 にしても、使えなくなっても、ちゃんと自分のスマホを持っていたのね。


 魔法使いの黒島君も今日は黒猫の姿をやめて人のままだ。

 中身魔王だけど。


「あっちの……集落の建物がある方から歌や音楽が聞こえる」



 やたらと耳の良い黒島君がそう言った。



「島の住民も春を言祝ぐ祭りをやってるんだろう、行ってみるか?」



 リックさんの言葉に私達は喜んでお祭りに行く事にした。



「いいね! お祭り見に行こう!」

「だね、島のお土産品も見てみたいし」


 私達はひとしきり撮影を終えてから、花畑を抜けて、お祭り会場に来た。

 出店も並んで賑わっている。


 賑やかな音楽を奏でる楽士がいて、歌を歌う人もいる。


 ダンスフロアらしき場所では頭に花冠乗せて、踊っている人達がいる。

 流石春のお祭りだ。


 観光客にも女性には花冠くれるらしい。

 女子三人とも花冠を貰った。



「せっかくだし、踊って来なよ、カナデっち! ラウルさん! よろしく!」



 急に紗耶香ちゃんに背中を押された。物理的に。

 少しよろめいた私を、目の前にいたラウルさんはちゃんと受け止めてくれた。


「カナデ、踊りたいのか?」

「め、迷惑でなければ……せっかくなので」

「じゃあ踊るか」



 私達はダンススペースに移動し、混ざった。

 紗耶香ちゃんは今回もコウタと踊るようだった。


 リックさんは島の美女にお酒を勧められている。

 黒島君とライ君は屋台飯に行ったり、天野さんと立川君はお土産を見たり、それぞれ楽しんでいる。


 お祭りの屋台飯でランチをすませて、お土産などを買って夕方に廃墟の神殿跡にテントを準備した。


 神殿跡は、なんとなく朽ちていても神聖な場所な雰囲気はあるから、魔物を避けてキャンプするにはいいのかな?


 魔王の三人は神殿のちょい手前でキャンプをしているし。


 夜にはカレーを作って出した。

 日本人の好みのとろみのあるカレーだ。

 魔王になったクラスメイトにバーベキューとカレーとどちらが、いいか聞いたら、カレーって言うから。


「カレー食ってると修学旅行ってか、林間学校みたい」


 天野さんがそう言うので、


「じゃあ旅館で見るような鍋の方がよかった?」


 私が、そう訊くと、


「ううん、カレーでいい」


 そう言って、ふわりと微笑んだ。



「マジで久しぶりのカレーがしみじみと美味い」



 立川君は懐かしい味に感動しているようだ。



「カツまで入ってるし、俺、カツカレー大好き」


 私は一応トンカツも用意してアイテムボックスに入れていたのだが、よかった。

 黒島君も御満悦の表情だ。


 ライ君もカレーが好きなので、喜んでいた。


 お茶やコーラも用意して、美味しい夕食を終えた。

 

 いい旅行になったと思う。


 いつの間にか、星空タイム。


 テントから抜け出して、花も眠る夜に、夜空を見上げながら、歩いた。


「星が綺麗」

「上ばかり見て、足元に気をつけろよ、カナデ」

「ラウルさん。見回りですか? 魔王も近くにいるのに」

「念の為な」



 満天の星空の下。いいロケーションが揃っていた。

 今しかない。



「少しお話をしても?」

「ああ」



 今! 人生で、最大の勇気を振り絞る時!

 ──いや、ドラゴン戦でもバジリスク戦でも、魔王と交渉とかでも、とっても勇気はいったけど!


 あまり、後回しにしても、心臓がもたない。



「回りくどいのが、苦手なので、もう言ってしまいます。

私、ラウルさんが好きです。

あなたの側に、ずっといたいのです!」


「……カナデの特殊なスキルやら、生まれや知識を考えたら、貴族の養女になれば、金持ちの貴族にも嫁げると思うぞ、それでも……俺みたいな、ただの冒険者の方が、いいと思うのか?」



「権力者の嫁なんて、向いてません、生まれながらの庶民なので」


 お金なら、買い物スキルがあるし、自分でも稼げる。



「……たとえば、元の世界に帰れるとしたら?

ここより、いい世界なんだろう?」


「もし、一瞬だけでも帰れるなら、私は無事だと、家族に、親に伝えたいですが、そんな都合の良い魔法は無いし、あちらにはラウルさんがいないので、私はラウルさんのいるここを選びます」


 ラウルさんが、まっすぐ私を見ている。

 月明かりの下、左手にランタンを持って、静かに立っている。



「長く、この先、ここで生きて行くなら、好きな人の側に、いたいんです」



 あなたの側に、いたいのです。



「元の世界よりも、貴族の奥様の地位よりも、俺を選ぶって言うのか?」

「はい」

「それで、後悔はしないんだな?」

「はい」



 ラウルさんが、足元にランタンを置いた。

 そして、私の方にゆっくりと歩き出し、私を抱きしめてくれた。



「カナデは……馬鹿だな。だけど、優しい。

他の素晴らしい物を諦めてでも、俺を選んでくれるなんて」


「私は一番素晴らしい人を選びましたよ」

「……変わった女だ、だが。俺も、カナデが好きだ、俺の嫁さんになってくれるか?」


!! 恋人のお付き合いをすっ飛ばして嫁ときた!


だけど、どうせ同じゴールなら、勢いで決めよう!


「はい!」



 私は、自分で自分を変な女だとは思うけど、男の趣味は、いいと思うの。


 それから……ラウルさんと星空の下で、キスをして、テントに戻った。



「カナデっち、顔が真っ赤!

しかも、笑ってるし、どうやら告白は上手くいったんだね?」



 おっと、顔が死ぬ程緩んでいた。



「へへへ、お嫁さんにしてくれるって!」

「嫁!? まずは正式にお付き合いとかじゃなくて!?」

「紗耶香ちゃん、こっちの世界じゃ、もう私達は結婚適齢期なんだよ」 


「あ、そっか! でも、おめ! 良かったね!」

「うん」

「それで、結婚式はいつ?」

「ま、まだそこまでは決めてないよ」



 夜は興奮状態でなかなか寝付けなかったけど、朝になって、朝食の準備をしていたコウタにも報告した。


 急に結婚まで飛ぶか!? って驚いていたけど、すぐに納得はしたようだった。



「今の屋敷でかいし。部屋は余ってるから、ラウルさんも一緒に住めばいい」

「ありがとう。コウタも、紗耶香ちゃんが好きなら、そろそろ決めなよ?」

 

「わ、分かってる!」



 魔王三人からも、いい旅行だったと、感謝をされて、修学旅行のやり直し旅は終わった。



 * * *


 時は流れる。

 人生何が起こるか分からない、だから、後悔は少なめで済むように、私は選択した。


 私にとって一番大切な人と、この先、共に生きる事を。

 結婚式は二人が出会った秋にする事にした。


 春の間に絵本を完成させて、クリスに贈った。

 少女漫画のような絵で描かれている。

 クリスは大変気に入ってくれて、日曜学校にも持って行った。

 友達もそのスケッチブックに描かれた本を借りて読んだ。


 光の神様の出るお話だったので、教会でも読ませてやりたいと言われ、複製を許可した。



 夏が過ぎ、そして秋。食堂も順調で、繁盛している。

 しばらくして、結婚式の朝にピロロンと、例の音が聞こえた。



【結婚祝い: 異次元スマホ】


【一年に七日間のみ、異世界と通話、メール可能。

異世界の家族に連絡がとれます】



 と、いうメッセージと共に、プレゼントが枕元に届いた。


 日本に帰れはしないけど、親に連絡がとれる!

 私はここで、生きていますと!


 勇者召喚に、巻き込まれた私に、神様の慈悲が!


 ありがとうございます!!



 親切な事に、カメラを起動しつつ、会話も出来る端末だった。

 ありがたい、異次元スマホ。

 充電はそのまま本体に太陽光を当ててばいいらしい。

 充電器がいらない。



 ──そして……最初の通話が、突如として消えた娘からの電話で、ややホラーっぽくて、両親は最初凄く驚いていたけど、顔が見れて、声を聞けて、泣いて喜んでくれた。



「驚く報告は実は生きてたってだけじゃなくてね、私、好きな人と結婚するの」

「は!? 聞いてないが!?」



 お父さんが、スピーカーモードで叫んだのが聴こえた。



「神様が今日、結婚祝いに異世界に通話できるようにしてくれたの」

「ここに、日本に、返してはくれないのか!?」

「そこは流石に、無理みたい」



 だから、連絡が出来る端末をくれたんだろう。



「夫は!? 一体誰なんだ!?」

「今、呼んでくる」


 その後は、お前の部屋に貼ってあるゲームのポスターの男と似てる!

とか、面食い! とか叫んで、大騒ぎだったけど、最終的に、ちゃんと娘をよろしくお願いしますと、言ってくれた。



「ラウルと言います。頑張って娘さんを、カナデを幸せにします」



 イケボ……。

 物凄い私の好みの声でそんな事を言ってくれた。

 両親も思わず、「娘をよろしくお願いします」と言わざるを得ないレベル。



 私は白いウエディングドレスを着て、海の見える教会で、ほぼ身内のみで、結婚式を挙げた。


 参列者には紗耶香ちゃんと、コウタと、その両親とクリス、ライ君、リックさん、元クラスメイトの魔王三人も来てくれた。

 

 お決まりのブーケトスもやってみた。



「あ! 取れた!」



 紗耶香ちゃんが、ちゃんとブーケを受け取ってくれてよかった。

 知り合いの女性の参列者をほぼ呼ばなかったのはこの為もあった。


 次は、君達の番です!


 コウタ! プロポーズ、頑張ってね! 

 オタクに優しいギャルなんて、天然記念物並に貴重なんだから!

 マジで!


 【完】



 * * * 「エピローグ) 」 * * *


 天界 神の住まう場所。


「神様、異世界と繋ぐ端末はやり過ぎじゃないですか?」

「そうかな? あの子、魔王となったクラスメイトと話をつけて、人間同士の戦争を回避した功績もあるし、いいじゃないか、元の世界の家に帰れない代わりに、家族とごくたまに話せるようになるくらい」


「それは、そうですが……」


「それに、私の事、イケメンに描いてくれたし。天使ちゃんも読んだろう?」

「あの、クリスという少女の為に描かれた絵本ですか?」

「そうそう、優しくて綺麗なお話だった。信者も増えたし」


「あれは……確かに」


 天使と呼ばれた存在は、やれやれと言った風に、神の前にある空のゴブレットに新しい酒を注いだ。

 

「このお酒、増えた信者からの捧げ物です」

「ほら、良かったろう?」

「……そうですね、瑞々しい果物もありますよ」

「こっちも宴を始めるか」



 下界にて、人間達が空を仰ぐと、美しい虹色の彩雲が見えた。

 

「神様も天上で宴でもやっておられるのかな?」



 そんな事がささやかれた。

 ある秋の日────。

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修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルと友情!課金!調理!〜 @nagi228

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