エピローグ

ゆるふわ美少女と共に

 ピピピピ。ピピピピ。

 スマホが奏でるアラームの音で目が覚める。

 まだ寝ていたい。そんな気持ちのまま、重たい瞼を開く。枕元に置いていたスマホを手に取ってアラームを止める。


「ふあぁ……」


 俺は大きく欠伸をしながら体を起こした。春のポカポカ陽気のおかげで、すんなりと起きることが出来る。しかし隣で寝ている人は違うようだった。

 俺のすぐ隣では、結菜がうつ伏せになりながらまだ寝息を立て続けていた。


 周りを見回してみる。俺たちが寝ているベッドの他には、ソファーやテレビ、ローテーブルや本棚などが置いてある七畳ほどの部屋。ここが結菜と同棲を始めたマンションの部屋だ。


「おーい。結菜ー。起きろー。学校に遅刻するぞー」


 うつ伏せになって寝ている結菜の肩を掴み、ゆさゆさと体を揺する。


「んー……うぅ……あと五分」


 どうやら起きたようだが、まだ寝足りないらしい。

 今日は珍しく結菜がお寝坊さんなようだ。それもそのはず。昨日は二人で楽しいことをしていて夜更かしをしていたからな。

 まあ楽しいことと言っても、明日の夕飯の奢りを賭けてポーカーを楽しんでいただけだが。もちろん勝負は俺の負け。頭のいい結菜には勝てなかった。


「もう五分経ったぞー」


「嘘だ〜。まだ経ってないよぅ」


「時間感覚は分かるんだな」


「……そりゃあ起きてるもん」


 結菜は目を覚ましているらしい。ということは、イタズラをしても許されるということ。


「ゆーいーなー」


 俺は腕を広げてうつ伏せになっている結菜に思い切り抱きつく。結菜の寝起きのいい匂いを感じながら、抱き着き続ける。


「うえぇ……重いぃ……」


 結菜の上から覆い被さるようにして抱き着いているので、俺の重みを感じているようだ。


「起きないとこのままだからな」


「じゃあずっと寝てる。このままがいいもん」


「なんだと……これは罰にならないのか……」


「これはご褒美だよ〜」


 なんてふざけ合いながらも体重を掛けるのはさすがに可哀想だと思い、俺は結菜から離れてベッドの上に座り直した。

 すると結菜も寝ぼけ眼のまま、ちょこんと俺の隣に座る。


「おはよう」


「おはよ〜。琉貴に起こされた〜」


「普段は逆なのにな」


「やっぱり夜更かしすると次の日に響くねぇ」


 まだ完全に目が開ききっていない結菜とそんな会話を交わす。

 俺は前まで朝が嫌いだったが、結菜と同棲をするようになってからこの時間が好きで好きでたまらなくなった。このゆったりと流れる朝の時間が最高だ。


「琉貴」


「はい」


「ちゅーして」


 寝ぼけている結菜からのご命令だ。

 俺は結菜の肩に手を回して、そっと唇を重ねて口付けを交わす。

 結菜はこうやって、目覚めのキスを所望することが多々ある。


「もう一回」


「はい」


 ちゅっ。


「もう一回」


「はい」


 ちゅっ。

 結菜に命令されるがまま、俺は何度も彼女とキスをする。

 でも朝のキスは小鳥がつつきあうような軽いキスだ。


「んふー、我は満足じゃ〜」


 何度かキスをすると、結菜の目が完全に開いた。どうやらキスをして目が覚めたようだ。


「朝ごはん作るか?」


「うん。作る〜」


「じゃあキッチン行こうか」


 俺は立ち上がり、結菜に手を差し伸べる。すると結菜は俺の手を取って立ち上がった。何度も握った彼女の手は、もう感触を覚えてしまったほどだ。


「琉貴〜、ぎゅってして〜」


 結菜が抱っこをせがむ子供のように腕を広げる。


「しょうがないな〜、このお嬢様は」


 しょうがないなと言いつつも、俺は喜んで彼女を抱きしめる。そのままポンポンと頭を撫でてやると、結菜が俺の顔を見上げてへにゃりと笑顔を作った。


「えへへ〜。起きた〜」


 抱きしめられただけなのに、結菜は嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる。

 結菜と同棲を初めて二ヶ月。その間も何度も抱き合っているのに、まだそんな可愛い反応をしてくれるなんて……なんだ……ただの天使か……。


「今日も一日頑張ろうな」


「うん! 頑張ろう〜」


 二人で笑顔を向け合ってから、俺と結菜はもう一度ぎゅっと抱きしめ合った。


 ☆


 桜が舞う春の季節。穏やかな空気が流れる中で、俺と結菜だけが慌てていた。

 スマホで時刻を確認してみると、もうすぐで九時になるところ。昨日までは春休みだったのでこの時間でも寝こけていたが、今日からは学校が始まる。俺たちは二年生になるのだ。


「やばいやばい。このままじゃ始業式に遅れるって」


「うわーん。イチャイチャしすぎたよ〜」


 しかし俺と結菜は遅刻間近だった。あと十分ほどで始業式が始まってしまう。

 朝起きてイチャイチャ。朝ご飯を食べながらイチャイチャ。家を出るまで時間があるからイチャイチャ。

 そんなことをしている内に時間を忘れてしまい、気が付けば遅刻ギリギリの時間になってしまった。


「去年も入学式に遅刻したのに二年生になっても始業式に遅刻するって……ワケわかんないだろ……」


「普段は遅刻しないのに〜。こういう時だけ遅刻するんだから〜」


 俺と結菜はそんなことを口にしながら、高校前の桜並木を走って行く。


 去年。俺と結菜は入学式に遅刻をした。その遅刻がきっかけで仲良くなれたので後悔はなかったが、もちろん反省はした。

 もう遅刻はしないようにしよう。そう思っていたのに、また今年もこの有り様。


「まあ……俺たちらしいんじゃないか? こうやって大事な日に遅刻するのも」


「あはは。私たちらしいかもね〜」


「なんだったら来年の始業式も遅刻しちまうか? それで三年間遅刻皆勤賞だ」


「ふふふ。逆皆勤賞だね〜」


 二人で「はぁ……はぁ……」と息を切らしながら走る。

 もうどうせ遅刻するのだから、走るのをやめてゆっくりと歩きたい。だから俺は走るスピードを落とそうとしたのだが、結菜が不意に俺の手を握った。


「琉貴! 諦めちゃダメだよ! まだ間に合うかもしれないって!」


「でもな……」


「今年こそは諦めちゃダメだよ。二人で頑張れば絶対に大丈夫だって〜」


 ね、と結菜がウィンクをする。

 まったく……このゆるふわ系美少女は俺をやる気にさせるのが上手いんだから……。


「あーもう。しょうがねえな。結菜。もっと走るスピード上げるぞ」


「よし! ここからは全力ダッシュだ〜」


 繋がる手に力を込める。絶対に離さないようにと、お互いに強く握る。

 俺と結菜は手を繋いだまま、これ以上には出せないくらいのスピードで桜並木を駆けて行く。


「あはは! すっごく楽しい〜」


「はぁ……はぁ……高校二年の帰宅部がこんなに走ることはもうないぞ……」


 この状況をめちゃくちゃ楽しんでいる結菜と、久しぶりの運動に体がこたえている俺。

 結菜がはしゃぐ隣で俺は息を切らしながらも、なんとか学校の体育館に到着することが出来た。

 始業式は体育館で行われるのだ。


「はぁ……はぁ……着くことには着いたけど……」


「うえぇ……汗かいちゃったよぉ……」


 俺と結菜はスクールバッグを背負ったまま、体育館のドアの前に立つ。

 互いに肩で息をしながら、俺と結菜は顔を合わせた。


「じゃあ、開けるぞ」


「うん。開けてみよう」


「始業式が始まってたら帰るか」


「あはは。それもいいかも。帰ってシャワー浴びてからイチャイチャの続きしようね」


 始業式が始まっていたら帰ろう。そんな約束を笑顔で交わしてから、俺は体育館のドアノブに手を掛けた。そのまま恐る恐ると音を立てないように、ゆっくりとドアを開く。


「それでは今から始業式を始めます──」


 ドアを開けた瞬間、マイクを通した生徒会長の声が聞こえて来た。

 俺と結菜は慌てて顔を合わせる。

 間に合った。今年は始業式に間に合うことが出来た。それだけのことなのにすごく嬉しくて、俺と結菜は満面の笑顔でハイタッチを交わした。


 ──完──


あとがき


琉貴と結菜の一年間をお楽しみ頂けたでしょうか?


読者のみなさまのおかげで筆を折ることなく琉貴と結菜の一年を描き終えることが出来ました。読者のみなさまには感謝しかないです。


主な登場人物が琉貴と結菜の二人だけなので飽きられてしまうかもと、毎日ビクビクしながら書いておりました。

今思えばもう少し妹の澄香を登場させるのもアリだったかもしれないです。


また少し時間を置いてから新しいラブコメを投稿する予定なので、こちらの作品を気に入って頂けたら次回作も覗きに来てくれると嬉しいです!みなさまとまた会えるのを楽しみにしております!


本当にここまで琉貴と結菜の一年を見届けてくれてありがとうございました!

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入学初日に友達作りに出遅れたら、同じ境遇だったゆるふわ系の美少女が声を掛けてくれました〜この美少女と高校生活を共にすることになったので結果オーライです〜 桐山一茶 @rere11rere

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