第11話 私の息子
嫁入りして初めての冬、百鬼夜行が行われた。
夏に行われた百鬼夜行とはまた違った面々が歩いている。
あれは多分、雪女ね。
お腹の子の様子を見てもらうのに少し遅れて参加したけど、先にお菊さんとお岩さんが私の代わりに売り子をしてくれている。
流石に半年じゃまだまだ売り物になるような作品は作れなかったから、二人は来年の夏の百鬼夜行までには完成させるんだと意気込んでいた。
「あ、奥様!! 買いましたよ!! 新刊!! 帰ったらじっくり読ませてもらいますね!」
「うふふ……ありがとう」
他の妖怪たちのブースを見て回りながら歩いていると、新刊を買ったことを嬉しそうに言ってくれる妖怪たち。
中にはサインを書いて欲しいって、筆を渡してきた妖怪もいたわ。
「それにしても、ものすごい長蛇の列ね……」
最後尾と書かれた看板を、ポンさんが持って立っている。
「ポンさん、これ、何の列?」
「何って、奥様のお描きになった新刊に決まっているじゃないですか!! こんなに並ぶなら、それぞれ100冊ずつと言わず、200冊いや、300冊は刷っておくべきでした」
「えっ? そんなに!?」
「旧作の方も手に入らなかったから、売って欲しいってさっき雪女に言われました。冬の妖怪たちは夏の百鬼夜行には参加しませんからね。逆に、冬に弱い妖怪は冬の百鬼夜行には参加しません。来年の夏は、今日の新刊ももう一度販売した方がいいかもです!」
どうやら私が夏の百鬼夜行で売ったぬらりひょん総受けBLの人気が凄まじいと妖怪たちの間でブームが巻き起こっているみたい。
私の真似をして、水墨画でBLの絵を描いて売ってみたり、男同士だけじゃなくて、女同士も——……って思ったのか、化け兎たちが百合の絵を描いたりもしてる。
そっちも大盛況。
「みんな奥様の創作に感銘を受けて、始めたようですよ。お菊さんとお岩さんと一緒です。おかげで、我らタヌキ印刷への注文も増えましてね。がっぽり儲けさせていただいております」
「そうなんだ……すごい」
まさか私がきっかけで百鬼夜行がコミケ化するとは……
売るのはお菊さんたちに任せて、もう少し見て回ろうかしら?
ああ、でもこの量のお客さんを相手にするのは大変よね。
「————お菊さん、お岩さん」
「あ、先生!!」
私は列の横を通って、なんとか自分のブースにたどり着いた。
「先生、見てください!! もう残りこれだけしかありませんよ!?」
300冊あった新刊は、本当に残りわずかになっている。
「とくに、『魑魅魍魎、跳梁跋扈♡跋扈♡』が人気よ! やっぱり、百の妖怪に襲われるという衝撃的なあらすじに惹かれるみたい」
「自分が出てるんじゃないかって、期待して買って行く男の妖怪も多いのよ」
へぇ、妖怪にもいるのね。
腐男子が……
「それとこの『女装男子が好きですが何か?』も、この褌の見え隠れするところがたまらなくいいと、好評!! やっぱり、河童と天狗の二人の男……どちらも選べず、結局どちらにも体を許してしまうところ! この心情の描き方も本当に素晴らしくて」
「涙なしには読めないわ!!」
うん、うん、二人とも嬉しそうで何よりだわ。
ふふふ……
「あ、すみません私たちったら、ついつい興奮してしまって……お子さんは大丈夫?」
「大丈夫よ。産神様の話じゃ、そろそろ胎動があるかもって」
「きゃーっ、それは良かったわ! 元気な証拠!」
「きっと、総大将のような将来はイケメン間違いなしの男の子が生まれてくるのね」
お菊さんとお岩さんは、代わる代わる私のお腹を撫でる。
まだ胎動を感じたことはないけど、きっと感じ始めたら、私の中に命がちゃんと生きているんだって実感がさらに湧くんだろうなぁ……
そう思っている間に、新刊は完売した。
来年は新刊だけじゃなくて、ラミカとかなにかグッツも増やそうかしらね。
ああ、でもその頃にはちょうど出産予定日かも……
「————茜!」
完売の普段を置いたちょうどその時、旦那様が顔がやって来た。
その手には、誰かから借りたのか、自分で買ったのか……新刊三作のうちの一つが握られている。
そんなに力入れて持ったら、せっかくの作品が折れ曲がっちゃうじゃない。
本は丁寧に扱わないと……
「これは一体どういうことだ!? 新刊は二つだって言ってなかったか? どうして三つ目がある!? いつの間に描いたんだ!?」
「え、ああ、旦那様が泥人形作りを頑張っているようでしたから、私も負けてはいられないと思いまして……面白くなかったですか?」
「面白いわけないだろう!! どうして…………どうして俺が、あのクソ陰陽師に抱かれなきゃならないんだ!? しかも、なんで俺の体に乳がついてるんだ!!」
「違いますよ、旦那様。おっぱいだけじゃなくて、ちゃんと下も生えてます!! ちゃんと見てください」
「はあああああっ!?」
私は旦那様の手から取り上げて、今回一番力を入れて描いたページを見せる。
「ほら、ちゃんと両方ついてるでしょう!? よく見てくださいよ、ほら、ほら!! 立派な息子がついてるでしょう」
「指をさすな!! 見せるなぁあ!!」
「それと、このページのここ!! 管狐を穴という穴から何度も出入りさせているんです。どうです? 我ながら天才だと思うんですが」
旦那様以外のその場にいた妖怪たちから、「最高だ!」「天才だ!」「よっ! さすが先生!」「発想が素晴らしい!」っと、大絶賛を受けている私。
旦那様は、何も言い返せず、顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた。
「あ……」
その瞬間だった。
私のお腹を、息子が元気いっぱいに蹴ったのは。
「う……うごいた……?」
まさか、この子も褒めてくれているのかしら?
「ほら、ちょっと旦那様、今動きました!! お腹、触ってみてください!! ボコボコって!! ボコボコってなりました!!」
「なに!? 本当か!?」
旦那様は私のお腹に耳を当てる。
「……何も聞こえないぞ?」
「うーん……あ、そうだ」
私は我が子に問いかける。
「ママの描いた作品、好き?」
「……何を聞いて————……ん?」
ボコボコ……と、激しく動くお腹。
うん、私の息子ね。
間違いない。
早く会いたいなぁ
(第一章 人生三周目 了)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
こちらは 「嫁入りからのセカンドライフ」中編コンテスト に応募中です。
これ以上書いたら普通に2万文字〜6万字以下という応募条件を超えてしまうので、一旦、ここで終わりとさせて頂きます。
本当はなぜ茜がタイムリープしているのか、一周目で起きた出来事とか、茜が嫁に選ばれた理由とか、まだまだ書きたいことがたくさんあるんですけど……ちょっと、6万文字以下では収まりきらない^^;
結果が出次第、続きを書く予定ですので、作品のフォローをしたまま、お待ちいただければと思います。(なので、連載中のまま、完結ボタンは押さないで置いておきます)
中編コンテストなので読者選考はありませんが、この作品が面白い、続きが気になる!っと思ったら星レビューや応援のハート、感想コメントなどいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします。
ぬらりひょんの嫁作家〜旦那様が帰って来ないので、百鬼夜行で薄い本を売る事にしました〜 星来 香文子 @eru_melon
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