廃墟ツアーに参りましょう

羽入 満月

廃墟ツアーに参りましょう

 放課後。

 いつものように机を並べて持ち寄ったお菓子を食べている時だった。


「ふぁぁぁぁ」


 隣であゆみが特大の饅頭もひとのみできるのではないかというくらいの大あくびをする。


「なに?寝不足?よく見れば隈があるじゃん」


 マキがあゆみの顔をまじまじと見る。

 それを横目にマキが持ってきたマシュマロを口に放り込む。


 高校生ってこういうところが緩くていいよね。

 あ、イチゴが入ってるやつだ。


「それがさぁ、深夜に『ドキドキ!イマドキの噂、都市伝説!!』って番組がやっててさぁ」

「あー、はいはい。いつものね」


 あゆみは怖い話が大好きで、夏冬問わず、どこからともなく話を聞いてきては、私らに聞かせるのが好きなのだ。

 そのためなら夜ふかしだってするのである。


「いや、番組自体は普通ってか、ぼちぼちだったんだけど、その後に始まった通販番組が面白くてさ」

「ふーん?」

「よく切れる包丁って言いながら、カメラが切り替わったらさっきまで切ってた野菜とは違う野菜になってんの」

「それ、詐欺じゃない?」

「でもさ、すぐに『あと残り何本!』みたいな表示がでるんだよ、おもろくない?」


 うんうん、と聞きながら今日は怖い話はないのかと残念な気持ちになっている自分がいた。

 そこで、ちょっとだけかるい気持ちで聞いてしまったのだ。


「都市伝説のやつは、あゆみのお気にめさなかったんだね」

「ん?あぁ!番組のやつじゃないけど、一個面白いのあるよ」


 目をキラキラさせるあゆみをみて、しまった!と思った時にはもう遅かった。

 マキにジトっと睨まれたのに、苦笑いを返すしかなかった。


「これはね、友達の友達から聞いた話なんだけどね」



 ーーーーーーーーーーーー



 その子、仮にAくんとするね。

 Aくんは廃墟にいくのが好きで、よくカメラをもっていくんだって。


 その日もいつものようにカメラを持って自転車で目的の廃墟まで行ったんだけど、あまりにもボロボロになってきたようで、立ち入り禁止の黄色いテープが貼られてしまっていた。

 残念に思いながらもAくんは、ルールを破ってズカズカと入っていくような真似はしなかった。

 Aくんは、昔は使われていた場所が使われなくなって腐ちていく様が好きだから、廃墟にスリルや恐怖を求めてるわけではないのだ。


 近くに他の廃墟はなかったかなぁ、とスマホで調べていると10分ほど行った先に廃墟になった小さい教会があることに気がついた。


 教会なんて行ったことがない。それの廃墟なんてワクワクする。


 そう思いながら、ペダルを漕いだ。


 10分後。地図アプリが到着を告げるが、ついたところは雑木林だった。


 なんだ、もう取り壊されたのか。


 そう思って、でもせっかく来たならちょっと散策しようと周りを見渡すと、雑木林の奥にうっすら建物が見える。


 不思議に思い、雑木林の中に入ると奥には教会があった。

 外見は蔦が張ったり、雑草に囲まれボロボロだったりしたが、しっかりと残っていた。


 Aくんは、興奮して何枚も写真を撮った。

 流石になかに入るのは躊躇われたため、外周をぐるりと見て回っていた時だった。


 建物の上の方にステンドグラスがきらりと光っているのが見えた。

 見上げて見たが、黒、青、紫と教会にしては暗い色だなぁなんて思いながら、カメラを構える。


 レンズ越しに見たステンドグラスには天使の柄だった。

 薄汚れていてもガラスが当たるとキラキラとしていてキレイなのだが、配色的になんだか不安になる。


 とりあえずカメラに収めようとシャッターを切ったその時だった。


 カァァァァァァー、と烏の鳴き声がして一気に沢山の鳥が飛び立つ羽音が雑木林に響き渡る。


 驚いてカメラから視線を外し、空を見上げる。

 夕暮れに染まる空を見て、もう一度ステンドグラスを視線を戻すと天使の目から真っ赤な液体がつぅーと垂れていくのが見えた。

 暗い色合いの天使には、赤色がとても目立って見えて、驚いたAくんは尻もちを付きながら雑木林を走り抜けたのだった。


 あとから聞いた話では、あそこで殺人事件があったらしい。殺されたのは、教会のシスターで惨殺され、現場は血の海だった。その時、血がステンドグラスにまで飛び散り、天使が血の涙を流しているように見えたらしい。

 それからというもの、またにあの天使は血の涙を流すと噂になり教会は廃墟となった、との噂である。



 ーーーーーーーーーー


「怖っ」

「でも、なんか悲しい話だね」

「でね?外からならんだよ」

「は?みれるって?」

「だからね。この教会、実在してるの」

「実在ってまさか!」

「そう、そのまさか。私たちもその教会、行ってみようよ」


 そう言って、あゆみが青い隈と一緒に真っ赤な唇をにたり、と歪めた。


 窓から差し込む光が綺麗なオレンジ色になり、私達にキラキラと降り注いでいた。

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