『水の乙女』という祭事の重要人物に選ばれた辺境の村出身の主人公が、その任務をまっとうすべく王都へ向かう道中に空賊に攫われてしまうというセンセーショナルな立ち上がりからはじまるストーリーに、思いもよらない展開を期待せずにはいられません。主人公ニコラを待ち受ける運命を丁寧に、かつ堅実な筆致で描く本編は王道さも相まって安心して読み進められます。やや古風な印象もありますが、ファンタジー全盛のweb小説界においても良質な出来栄えなのは一読するだけで明らかになるでしょう。読んで損はありません。ぜひオススメします!
「乙女」と呼ばれる少女を象徴として掲げる、七つの国が存在する世界。
水の国に住む少女二コラは、乙女としての素質を探る選別の儀によって選ばれ、乙女候補として都へと送られることになる。だが、その途中で馬車は空賊に襲われ、さらわれた二コラは彼らの船ノアラークに乗り込むこととなった。
空賊と共に旅するうちに、ニコラは自分の類まれな魔力の使い方を知り、世界の各地で災害に苦しむ人々を救うという使命に目覚めていく。
ゲームチックでも、過度にダークでもない、古き良きという形容がふさわしいタイプのファンタジー小説だ。善人しかいないというほどでもないが、作中の人間は基本的に優しく、ことに主人公二コラが強い力を持っていても驕らず、人を助けたいと考えるいい子なので穏やかな気持ちで読める作風である。
火の国や土の国など、様々な国をめぐるロードムービーの趣もあり、そこで出会う人々と触れ合って成長していく二コラの姿も見所である。見守る周囲の大人たちも、彼女を教え諭すだけの良識を備えた存在として描かれているので安心できる。
やや児童向け文学の趣のある作品であり、殺すとか奪うとか痴情のもつれとかにうんざりしている方、昔のファンタジー文学やレトロスタイルRPGが好きな方におすすめしたい一作だ。