人生の近道クーポン券

西しまこ

第1話

「はいっ。これ、キミにあげる!」

 茶色い長い髪を少しふんわりさせた、小柄でかわいい女の子がぼくに封筒を手渡してきた。

 なんの変哲もない、白い封筒。

「これ、何? 要らないんだけど」

「ううん、ぜったいにもらって欲しいの!」

「いや、要らない。じゃ」

「あ、あ、あ! 待って! お願い、もらって? ね?」

 女の子が訴える目で見あげるので、思わず突き返した封筒を受け取ってしまう。

「だから、これ、何?」

「……あのね、人生の近道クーポン券が入っているの! だから、もらって欲しいの」

「人生の近道クーポン券?」なんだ、そりゃ。

「キミのね、人生が幸せになるための近道クーポンなんだよ。だからぜったいにもらって? ね?」

「ふうん」


 ぼくが封筒を開けようとすると、女の子は「あ、あたしの前で開けないで! 家に帰ってから開けて‼」と、顔を真っ赤にして言った。

「え?」

「家で一人で見ないと、効果がないの! だから、お願い、一人で見て? ね?」

 また上目遣いで頼まれ、ぼくはなんとなく封筒をポケットに入れ「分かった」と言ってしまった。女の子はほっとした顔をして、花のような笑顔となって「ありがと!」と言って、走って行ってしまった。

 えーと、あなたは誰かな?


 *


「てさ、あたしのこと、覚えてなかったよね?」

「仕方ないだろ、変わり過ぎだろ」

「だって! せいいっぱい、かわいくなって告白したかったんだもん!」

「告白? あれが?」

「告白だよう」

「人生の近道クーポン券ってなんだよ」

「あ、それは、あたしとつきあって結婚して……という幸せに早く辿り着けるクーポン券ってこと!」

「……ま、いいけどね。あの白い封筒も演出?」

「演出なんかしてないもん! 受け取ってもらえなくて、焦ったんだもん! 緊張して何言っているか分かってなかったし! 封筒はね、いっぱい失敗しちゃって、もうあれしかなかったの」

 ぼくは真っ赤になった愛美を心底かわいいと思い、抱き寄せてキスをした。

 愛美のお腹をそっと撫でる。


 もうすぐぼくたちは三人家族になる。




   了



一話完結です。

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☆これまでのショートショート☆

◎ショートショート(1)

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000

◎ショートショート(2)

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330655210643549

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