第7話 激闘! ディアボロス・デュエルマッチ②

 さて、「ディアボロス・デュエルマッチ」と題して、ボクの家で悪魔の兄弟がトランプゲームのブラックジャックを始めて、三十分。


 アモンは幸先が良かったのは最初だけで、ジワジワと負けが多くなってきていた。しかも、負けを取りもどそうと賭けるチップが増えていき、みるみるうちに減っていってしまって、いまは二百チップくらいしかない。


 そして、ボクはというと、実はこのゲームのあることに気がついてしまって、アモンにそれを教えた方がいいのか迷っていた。アモンが勝っても家出続行することになるし、どう考えても家に帰った方が良さそうにも思う。


 今のアモンの配られたカードは、ダイヤのジャックとダイヤの五で合計は十五。反対に、ベルゼブブさんの表になっているカードは、スペードの八。アモンは頭をかかえて、なやんでいた。


 ブラックジャックは、数字札の十に加えて、ジャック・クイーン・キングの絵札三種もすべて十として数える。カードの種類は十三種類。つまり、十三分の四の確率で、十が出ることになる。今、十五なので、あと一枚引いた時に、二十五となり失格バストとなる可能性が非常に高いのだ。


 しかも、相手の手札の片方は、八。もう一枚が十である可能性は、同じく高いので、合計十八である予測が立つ。つまり、ヒットしてもスタンドしても勝てる見こみが薄いということだ。


「なぁ。ユーマ、どうしたら、いいと思う?」


 ボクがアゴに手をあてて、テーブルを見入っていると、アモンが声をかけてきた。

素人のボクに聞いてくるなんて、ネコの手も借りたいくらい追いつめられてるみたいだ。少しアモンに同情したボクは、ゲームで気がついたあることを元に、カレにこう言ってみる。


「ボクなら、ダブルダウンする」


 ダブルダウンは、先ほどからゲームを見ていて覚えたプレイヤーのアクションの一つで、最初の手札二枚を見てから賭け金を倍にできる。その代わり、引けるカードは一枚だけ。逆にカードを引かずに「スタンド」はできない。


「はぁ? マジで言ってんのか?」


 アモンはおどろきの声を上げた。でも、ボクは大マジだ。


 高確率で十が出る可能性が高いこのゲームで、現状の手札合計十五なのに、なぜダブルダウンにして、もう一枚引けと言ってるかというと、実はさっきからずっとボクは使い終わったをカウントしていた。


 それに、このカードの並びに覚えがある。最初に、ベルゼブブさんが空中でカードをシャッフルしていた時に見た並びだ。ならば、次来るカードは……――――。


「信じる信じないは、アモンに任せるよ」


 ボクがカレの目を見て、少しつき放したようにそう言うと、アモンはムムっとした顔をした。


「ユーマ、言い方良くない! そんなんだから、友達できないんだぞ! でも、オレ様は優しいから、お前を信じてやる!」


 また、ひどい暴言をはかれて、アドバイスしたことを早々に後悔する。友達できないとか、余計なお世話だよ! アモンは、そんなワナワナしてるボクのことは無視して、最初に賭けていた五十チップに追加して、もう五十チップをテーブルに出した。


「ベー兄、ダブルダウンだ」


 これで負けたら、カレのチップは残り百チップになってしまう。勝利条件の千チップまで、そこから盛り返すのはかなり絶望的だ。それでもカレは賭けに出るらしい。


 ベルゼブブさんは、ダブルダウンを受けて、「ほう?」と感心したような声を出してから、もう一枚カードケースから取り出した。そして、表に返して横にして置く。


――カードは、ボクの予想通りダイヤの六だった。


「え? え? ユーマ、すげぇ!」


 これで、アモンの合計は二十一。ベルゼブブさんが自分の手札のもう片方をひっくり返す。クラブの十。合計十八で、十七以上なので、ベルゼブブさんはヒットできずに負けが確定した。


「わー! マジでユーマ、すごい! 予言者!」


 終始ニコニコとしていたベルゼブブさんの眉が少しだけ、ピクリと動く。でも、なにも言わずに、ベルゼブブさんはアモンに配当の百チップをわたした。配当と賭けていたチップがもどってきて、アモンの手持ちチップは合計三百だ。


 その後も、事あるごとにアモンは、ボクに助言を求めてきた。さっき言われた暴言は忘れてなかったけど、あまりにアモンが「すごい! すごい!」とほめてくれるので、ボクもだんだんまんざらでもなくなってくる。


 さっきも少し言ったけど、ボクは使い終わったカードを全部カウントしてて、カードケースの中に残っているカードについて、ある程度の予想がついていた。一部については、シャッフル中に見たから、並びも覚えてる。


 アモンの手持ちチップはどんどん盛り返して、いまは四百ちょっとだ。ボクは、アモンに大勝負の耳打ちをした。


「アモン、もし勝ちたいなら、次のゲーム全額、賭けなよ」


 次にアモンに配られるカードについて、ボクの通りなら勝てる。


「プレイス・ユア・ベット」


 ベルゼブブさんのゲーム開始のかけ声。アモンはかなりなやんでいるようだ。当たり前か、全額だもんね。まぁ百でも、二百でも賭けたら、千チップに近づくとは思うし、ボクはカレの動向を見守る。


「アモン、時間切れになるぞ。ゲームを降りるのか?」


 そうベルゼブブさんに確認されて、アモンはギュッと目を閉じると、持っていたチップを全部テーブルへ押し出した。これには、ベルゼブブさんもビックリした顔をする。


「本当にいいのか?」

「お……おうよ!」


 親指をグイッと立てて、アモンはやせ我まんをした顔で不敵に笑う。ベルゼブブさんはため息をついて、「ノーモアベット」と賭ける時間の終了を宣言した。


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デーモンとボクの夏休み 笹 慎 @sasa_makoto_2022

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