悪魔「お前、スゲェ奴だな!」 ボク「……それほどでもないけど」

第6話 激闘! ディアボロス・デュエルマッチ①

「それでは、ディアボロス・デュエルマッチを開始しましょう!」


 パチンッ!


 決闘の宣言をしたベルゼブブさんは指を鳴らす。ボクは爆発とか起こるんじゃないかと思って、反射的に目を閉じた。ところで、カッコよく指を鳴らせる人、尊敬する。ボクの指はしめってるのか、全然鳴らない。なんか皮フをこする音しか出ない。


 そんなこと考えながら数秒身構えてたけど、結局なにも起こらず、ボクはコワゴワしながら目を開いた。でも、目を開けて見た光景に絶句する。


「え? これどこから出したの?」


 さっきまで何の変てつもない木でできた食卓だったテーブルは、緑色のマットがしかれて、まるで映画とかで見るカジノのテーブルみたいに変わっていた。


「ああ、あとでテーブルは元にもどしますので、ご心配なく」


 ベルゼブブさんは、アモンとボクの正面向かいの席に座ると、ボクの心を読んだように、先んじてそう言った。いや、確かに元にもどしてもらわないと、母に怒られるから困るけど、そうじゃないでしょ。


 ビックリしてテーブルを見つめているボクをよそに、ベルゼブブさんはスーツの内ポケットに手を入れる。まさかと思ったけど、取り出したのは新品の封がしてあるトランプカードの箱だった。しかも、次々と四箱も取り出す。ベルゼブブさんの内ポケットは異次元空間にでもつながっているのだろうか。


「もしかして、決闘ってトランプゲームですか?」


 思わず、ひょうしぬけした声で、質問してしまった。


「はい。人間界での暴力的な決闘行為を大魔王サタンは禁止しております。まぁ、そんなことしたら天使にすぐに見つかってしまいますからね」


 問いかけに、ベルゼブブさんはニコニコしながら、そう答えてくれた。確かに、悪魔が暴れてたら、天使だけじゃなくて警察とか自衛隊も飛んできそう。怪獣映画みたいに。


「アモン。ブラックジャックで構わないか?」

「おうよ」


 また、パチンと、ベルゼブブさんは指を鳴らす。今度は、緑色のマットの上に、「BLACK JACK PAYS 3 TO 2」「Dealer must draw on 16 & stand on 17」「INSURANCE PAYS 2 TO 1」という文字と長方形をした模様が浮かび上がり刻まれる。そして、アモンの前に、コインの形をしたチップの山が置かれた。


「ねぇ、アモン。ブラックジャックって、どんなゲームなの?」


 ボクは、となりに座るアモンに小声で質問する。


「トランプカードの数字の合計を二十一にするんだ。ただし、絵札はどれも十。エースは、一か十一か、好きな方で数えていい。合計が二十一に近い方が勝ち。でも、二十一を超えたら負け」


 四箱のトランプカードの封を切り取り出すと、ベルゼブブさんはカードをシャッフルし始める。そのシャッフル方法が独特で、カードは空中にまい上がり、まるでお手玉でもするように混ぜていた。空からベランダに降りてくるし、テーブルは指パッチンで変えちゃうし手品みたい。


 何かタネがあるのかもしれないけど、だんだん疑うのがメンドウになってきたボクは、いっそこの二人が悪魔だということを信じてしまおうかなと思い始めた。


 ボクは、ベルゼブブさんの手の中で、空中をまうトランプカードを眺める。時々、数字や絵札が目に飛びこんできた。ハートの三、ダイヤのジャック、スペードの八、ダイヤの五、クラブの十、ダイヤの六……スペードのエース、クラブの二、ダイヤのキング……。


 そして、シャッフルが終わったトランプカードは、ベルゼブブさん側にある不思議な形のカードケースの中にキレイに収まった。そのカードケースはナナメに角度がついていて、手前のカードから一枚ずつ上手く配れるようになっている。


「最低賭け金は、十チップから。最高賭け金は、上限なし。手元にある五百チップが全部無くなったら、アモンお前の負けだ。逆に倍の千チップ以上に増やしたら、お前の勝ちだ。いいな?」


 アモンはうなずく。


「それでは、プレイス・ユア・ベット」


 ベルゼブブさんのその言葉で、十チップコインを一枚、アモンは長方形の模様の中に置く。


「ノーモアベット」


 そう言うと、ベルゼブブさんはカードケースからトランプカードを一枚取り出し、アモンの前にすべらせて表に返す。また、自分の手元にも一枚取り出したが、今度は裏返したままだった。次に、同じように二枚目をアモンと自分の手元それぞれに置いた。


 アモンに配られた手札は、クラブの三とハートのクイーン。合計十三。ベルゼブブさんは、自分のカードの一枚目を表にした。ダイヤの八。もう一枚は裏になっていてわからない。


 ベルゼブブさんがアモンのカードを指差すと、アモンは「ヒット」と言ってテーブルを指でたたいた。すると、もう一枚カードが配られる。今度は、スペードの五だ。アモンの手札の合計は十八。アモンは今度は、カードの上で手をふって「スタンド」と言う。


 なるほど。「ヒット」はもう一枚引くってことで、「スタンド」はこのままって合図なんだ。合計十八だと、一から三のどれかじゃないと、合計二十一を超えてしまうから、アモンは合計十八で、今回は勝負するんだね。


 次に、ベルゼブブさんは自分の裏になっていたもう一枚のカードを表にする。グラブの七。ダイヤの八と合わせて合計十五だ。もう一枚引くのかのな? どうするのかな? と、ボクが興味津々で見ていると、アモンが教えてくれる。


「テーブルに『Dealer must draw on 16 & stand on 17』って書いてあるだろ? この勝負の場合は、ベー兄がディーラーになるんだけど、ディーラーは合計十六以下の時は、必ずヒット。十七以上の時は、必ずスタンドっていうルールなんだ。だから、今回は、ベー兄はヒットして、もう一枚引かないといけない」


 ベルゼブブさんが引いたカードは、クラブのジャックだった。合計二十五。


「よっしゃ! ベー兄、失格バスト!」


 アモンの元気の良い声する。アモンの十チップは、二倍の二十チップになって、もどってきた。え。すごい面白いかも、このゲーム!

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