第4話 この星一年生


 もう時間だ、起きないと……

 でもなんだか心が軽い気がする。じゃあ今日は日曜日……


「ケラセタ! オハヨー、ティナ♪」

「……あ、えっと……」


 毎日、決まった時間に目が覚める。

 この世の終わりみたいな顔で、その日の現実を受け止めて立ち上がる毎日。

 でも……違うんだよね。

 何にも縛られなくて……子供の頃の夏休みが始まったような、物語の主役は私なんだと言い切れる私の世界。目が覚めても……碧色の世界はそこにいてくれた。


「……ケラセタ。おはよう、アスラ」

「オハヨー、ティナ♪」


 この世界……挨拶はケラセタ一種類らしいので、朝昼晩私が日本語で挨拶をするとアスラは直ぐに覚え真似してくれるようになった。

 勿論、私も負けないよう兎に角真似をした。

 言葉の意味なんて……後からついて来る。

 喋り始めた子供を見れば分かることなのに、大人になると……凝り固まった訳の分からないものに縛られて、簡単なことが見えなくなってしまう。


 大切なのはコミュニケーションすること、触れ合うこと。

 

「ティナ、メコラベブー!!」

「ふふっ、なにそれ? どんな意味?」


 今私……自然に笑えてる。

 いつぶりだろう。息を吸うのも瞬きするのも……痞えるものが無い。

 絵に書いたような草原に寝転び、見慣れぬ空を見上げる。

 真似するようにアスラも隣に寝転ぶと、指を指しながら白昼に見える星星の名を教えてくれた。

 一際興奮して教えてくれた星がティナだということは、名を聞かなくても分かった。

 

 ◇  ◇  ◇  ◇


「ティナ、ティナ!!」

「ちょ、ちょっと待って」


 アスナは兎に角健脚で、一日中駆け回っても笑っている子。言葉と同時に、植物の使い方を私に教えてくれる。

 先ずは植物の声を聞かなければいけないらしく、草木に触れ合ったり話しかけたりする毎日。

 根本的な考えが違うのか、いつまで経っても私には聞こえなかった。おかげでアスナがいなければ何も出来ない生活。

 それでもアスナは笑ってくれるから、私も笑っていられる。

 まだ少数の単語しか分からない私に、優しく分かりやすいように話しかけてくれた。


「ティナ、ダイジョーブ!!」


 日本語も織り交ぜながら、アスナは頭を撫でてくれる。

 褒められるのも甘やかせてくれるのも慣れてないから、つい顔が熱くなってしまう。


「ありがと。私、その……頑張るね」

「ダイジョーブ♪」


 この世界には時間を知らせる花がある。

 一日が何時間なのかは分からないけれど、日が出ると八枚ある花が一定の時間で落ちていき、すべて落ちると夜になり一日が終わる。そして朝までにはまた花が咲く。

 夜散る花もあるみたいなんだけど、それを聞くと……なんとなく、「ティナはまだ子供だから」と言われている気がした。

 夜外に出るのも禁止され、やけに子供扱いされてるなと思うけど、こんなに可愛らしい姿になってしまったのだから仕方のないことなのだろう。


 ◇  ◇  ◇  ◇


 花が全て散り、夕食の支度をする。

 今日の夕食は二日連続で果物(らしき物)のスープ。

 それだけだとお腹が空くので何かつまみ食いをしようとするとアスラが走ってきて私に何か注意をしてくる。何かルールがあるのだろうか……


 窓から見える、そびえ立つ巨大な樹。その大樹からは、時折良い匂いが漂ってきたり、騒ぎ声が聞こえる。

 どうも夜の間賑やかになるらしく、いつか行ってみたいな……なんて大樹を見つめていると、アスラが窓と私の間に立ちはだかる。


「ティナ、ラ……ヌト、ヌト!」


 多分ヌトは駄目という意味なんだと思う。

 必死に手を振り私の視線を隠そうとするアスラ。きっとアスラなりに私を守ろうとしてくれているのだろう。


「ふふっ、駄目?」


「ダーメ♪」


 この星一年生、知りたい事だらけ。

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