第3話 星の街の住人
お腹が空けば腹が鳴るのはどの世界も共通らしい。随分と長い音を鳴らした私の胃袋、アスラは笑ってまた違う部屋へと案内してくれた。
壁からぶら下がる茎を少し握ると、茎の先から水が流れてきた。木を上手く刳り貫いた器に水を入れ、アスラは私に差し出してくれた。
何をするにも、植物の力が欠かせない。
この世界の……インフラなのだろうか?その内光る葉っぱとか出てきそう。
「ティナ、チャルル」
壁に張っている蔓達が、薄っすら蒼白く幻想的に光り始めた。思ったそばから出てきたよ、光る葉っぱ。
身振り手振りで何となく伝わった事で、どうやら日中陽の光を蓄え夜の間は発光しているらしい。「はぇぇ……」とか「ほぉぉ……」なんて間の抜けた言葉しか出ず、それを真似するアスラは可愛さの化身。
「アルル。ティナ、ディアラ」
水を飲めということだろうか?
恐る恐る口をつけると、ふわりと甘い香りがする水だった。砂糖水みたいに口がベタつく事はなく、何杯でも飲めてしまいそう。
「美味しい。ありがと、アスラ」
「フフッ、ナブラ♪ ティナ、アルル」
水を指差し、それをアルルと呼ぶと教えてくれる。
……仕事で何かを覚えるのは当たり前だったし、義務感が強くて気持ちばかりが駆け足で私を急かしていた。
狭い世界で、狭い会社で、狭い部署の中で覚える事なんてどうだっていい。そう思えるのはきっと、この翠の世界と……純粋に微笑んでくれるアスラのお陰なのだろう。
今はただ、目に映る全てを感じていたい。
「アルルは甘い水……ねぇアスラ、何か書くものって無いかな?」
ジェスチャーで伝えてみると、少し悩んだ末に凹凸のない束になった葉っぱと細い木の枝を持ってきてくれた。
アスラはお手本として木の枝を握ってみせると、墨のような物が出てきた。先程の葉っぱに呪文のような文字を書き始め、私に渡してくれた。
「ヤ、アスラ。ヤ、ティナ」
「これがアスラでこっちがティナね? ふふっ、不思議で素敵な文字。ありがと」
「アリガト♪」
自分の名前……見真似でティナと書き、アルルは水、ヤはこれ。ミが私でラがあなたと書き記す。
どうしよう……凄く楽しい。
せっかくの可愛い顔なのにニヤケてしまう。
……今まで張り詰め過ぎていた衝動なのかもしれない。
「ティナ、カリチェ!」
天井から無数にぶら下げてある……何かの実を干したような物を私に見せ、美味しそうに頬張るアスラ。
真似をして頬張ると……優しくて甘い干芋のような味がした。
「美味しい。カリチェって言うのかな?」
「ヤ、カリチェ♪」
カリチェを二個もぎ取り、手を引かれ外へ出た。
外壁に這う蔓を伝って屋根へと登ると、辺り全体が先程の植物で蒼白く輝き……夜空の中へいるような……なんて言えばいいんだろう。
素敵過ぎて、言葉が見つからない。
「凄い……星の街……ねぇアスラ── 」
聞きたいことが山程あるからアスラの方に目をやると、彼女の大きな瞳と目が合い……高い声で何かを叫びながら部屋の中へと走っていってしまった。
分からないことばかりだけど、星の街を肴に、カリチェを食べながらアルルを飲む。
遠くで鳴る不思議な音色達。
巨木の上で踊る者、歌う者。
私も鼻歌でお気に入りの歌を歌うと……この美しき星の街の住人になれた気がして、嬉しくて……また一つカリチェを齧り、身体を揺らしていた。
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