生まれ変わったら翠星で

@pu8

第1話 蒼い星からこんにちは


 朝、必ず同じ時間に起きる。

 二時間睡眠でも、日曜日でも、死んだような顔をして起き上がる私。

 食べることさえも面倒で、スポーツドリンクをコップ半分だけ飲んで着替えた。

 今日は特別しんどくて……メイクすらもする気が起きなかった。

 日焼け止めも……しなくていいや。


 ◇  ◇  ◇  ◇


 赤信号、人の群れ。

 このままではいけない気がして、コンビニへ寄りアイスコーヒーを買った。

 何か自分の為にしないと……そう思っていたのに、半分も飲めず捨てた。

 幹線道路の車、ひた走る電車。

 飛び込めばどれ程楽なのかと思うけど、そんな勇気も無い私には楽など出来ないのだろう。

 何度も、幾度も拳を握っては……私には関係の無い誰かと何かを考えて、先の見えない仄暗い道を歩き続けている。


 短大を卒業して六年。

 歳を重ねる毎に、背負わなければいけないものが増えてきた。

 皆んな凄いよ。私には……重すぎて、これ以上持てないもの。


 気が付けば廃れたビルの非常階段を登り切っていた。

 早く会社に行かないといけないのに……廃れたビルの廃れた屋上で、廃れた私が涙を流している。

 飛び降りる度胸なんて無いし、座り込んで空を見上げていた。


「……もう頑張れないよ」


 過去の自分に戻っても、きっと私は私のままだ。それこそ、私じゃない誰かにならなければ…………たらればで現実逃避しても仕方が無い。


 スマホには会社からの着信。

 繋がれた首輪を引っ張られ、立ち上がろうとした時……淡く滲んだ絵の具のような水溜りを見つけた。


「わぁ……凄い……」


 雨が降ったのは二日前の筈なのに……局所的に降ったのだろうか。

 それにしても……綺麗な水溜り。


 惹き込まれるように覗き込むと、いつもより何倍も可愛い私の顔が…………違う。誰……これ……?

 でも……私の動きに連動して映っているけど……

 

【…………ユナタマ……ソシ…………コメラ……】


 奇妙な言葉が水溜りから響いてくる。外国語……?

 恐る恐るその根源に触れてみると波紋は輝き……眩しすぎて強く目を閉じると、瞼の裏が切り替わる不思議な感覚。

 

 コンクリートの湿気が陽光に熱せられ、噎せ返るような匂いがしていた筈なのに……

 何故かアロマを焚いたような落ち着いた良い匂いがし、疑問尽きぬまま目を開けると…………


「………………えっ?」


 自分が発する声の違いなんて気にならない程に美しい……淡く滲んだ絵の具のような髪と天色をした澄清な瞳で私を見つめる少女が優しく微笑んでいた。


 誰……この子……凄く綺麗…………


「ケ、ケラセタ!! ミ、アスラ!!」


 水溜りから聞こえた声と同じ言葉。

 どこの国の言葉なんだろう……それにここは……

 

 壁は丸太小屋みたいだけど、草や蔓に覆われた室内。瓶のような容れ物には多色な液体。

 見たことのない文字が白く床に描かれている。

 私の…………っ!!?

 

「な、何これ!!? 私……じゃない……?」


 自分の身体が、明らかに一回り小さくなっている。華奢な指先……白くて……綺麗な肌……胸が…………ぺったん…………こっ!!!?


「服無いし!!!? ちょ、ちょっと、何か隠す物無いの!?」

「ラ……ハイト、ディホ……?」


 身振り手振りで説明すると、眼の前の少女は麻のような物で作られたポンチョ?を渡してくれた。身に纏う時に見えた私の髪の毛は……腰まで伸びる程長く、窓から差し込む陽光が白銀色のこの髪の毛を美しく輝かせている。

 あの時水溜りで見た可愛らしい顔は……今の……この私ってこと……?


 この出来事全てに追いつけない。

 会社に行かないといけないのに……スマホも無いし……ここどこよ……


「ラ。ケ、ケラセタ」


 相変わらず眼の前の美少女は訳の分からない言葉を発している、けど…………最初と同じ単語を繰り返してる。

 大切な意味が……あるのかな……


「け、けらせた?」

「!!!! ケラセタ、ケラセタ♪」


 訳分かんないけど……嬉しそうだし可愛いし、これで良いや。

 

 喜ぶ彼女に手を引かれ、従うように建物の外へ出ると……

 見たこともない程の巨木達と…………そこに巣食う多種多様な……漫画でしか見たことの無い……人間では無い何か達が当たり前のように生活している光景が、眼前に広がっていた。

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