新しい1ページ

 フィニッシュして感じることはいつも同じ。

 今日は死なずに済んだ。

 コースをゴールから振り返ってみると、その安堵はより確かなものになる。

 こんなところを走るなんて正気の沙汰じゃない。いつもながらそう思う。


 そしてゴール・エリアから出れば、すぐそばにはいつでもあなたが待っている。

 離れていた時間なんて、ほんの僅かなはず。なのに顔を見るのが、ひどく懐かしい。

 私たちはお互いの走りが見えてる。だから結果リザルトは、聞かなくてもフィニッシュした瞬間に分かる。

 だからかける声はいつも、

「おめでとう」

 この言葉だけは、不思議なほど素直に口にできる。


 かつての私は、走り以外のことは面倒くさくて仕方がなかった。

 マスコミへの作り笑い。

 スポンサーへの堅苦しい礼儀作法。

 ファンへのサービス。

 エントリーのための、ひどく回りくどく細かすぎる契約。

 ライダーひとを犯罪者どころか人間としてすら見ていない、ドーピング検査。

 あなたと出会って初めて、その全てが意味あるものと実感できた。

 全てはあなたを叩きのめすか、できることなら消し去るため。そう思うだけで、不思議と雑事を真剣に取り組めるようになった。


 私たちの関係を形容するならば、光と影が最もふさわしいだろうか。

 お互いの存在がなければ、どちらもこの世に存在できない。

 光がまばゆく輝くほどに、影もまた色濃く暗くなってゆく。

 けれど両方が重なることは、決してない。

 ならば私は光になろう。誰よりも速くどこまでも高く、この競技スポーツ魅力ポジを見る者の網膜に焼き付ける。

 ならば私は影になろう。何よりも暗くどこまでも低く、この戦争スポーツ問題ネガを聞く者の鼓膜に囁きかける。


 今日ももうすぐ戦いレースが終わる。

 あなたと共有する最高に忌まわしい、だけど最高に濃密な時間が終わりを告げる。

 いつものことながら感じる。終わってみればその時間の、なんて愛おしかったことかと。

 再び顔を合わせるまでの短い休息の時間の、なんて空しく、次の戦いの待ち遠しいことかと。


 表彰台ポディウムではほとんど必ず隣どうしに立ち、けれど決して同じ高さに並ぶことはなく、関係者の手前型通りに握手を交わして、ハグをして、言葉を交わして、シャンパンをかけ合って、こうして私たちの物語に新しい1ページが付け加えられていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

KAMIMAKZE ~feeling of Ls~ 飛鳥つばさ @Asuka_Tsubasa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ