第35話
岩に鞘ごと刺さった日本刀に花を添える。シュルクの墓はオーガの里から少し離れた丘にあった。周りにはススキが揺れており、夕方の今、非常に趣があった。
この刀を抜こうと数多の力自慢が挑戦したが、岩はびくともしなかったらしい。試しに俺とライラも柄に手をかけて引っ張るも、やはり抜けない。
「私も無理だった。シュルクさんは岩をも斬ったと言われている。刀を抜くんじゃなくて岩ごと斬らなきゃいけないのかも。」
なるほど確かに、あいつ岩どころかどんな硬いモンスターでもバターでも切るかのように一刀両断だったからな。
手を合わせて彼の墓の前に立つ。戦争が激化する前、最後に会った時なんて言ってたっけ。普段にこりともしないあいつにしては珍しく、また会おうだなんて笑ってたな。
500年、決して短くない時間だ。普通の人なら忘れられているが、ちゃんとお前の流派を継いでるオーガはいたぞ。
本心ではバトルジャンキーなあいつなら、「いざ立ち会わん!」とか言って刀を抜くんだろうな。
後ろ髪を引かれる思いで彼の墓を後にする。優しい風がススキの穂揺らした気がした。
ーーー
所変わってオーガの里。大学での講義が詰まってたこともあり、割ともう眠たいがこんな美味しいイベントは逃せない。
進められるままに酒を飲む。意外にも俺たちとは別に人間、しかもプレイヤーが何人かいた。
ライラはオーガと人間の女性陣と飲んでいるようだ。ちらちらとこちらを見ている気がするが、気にしないでおこう。
「ここにはクエストで来たのか?」
酒の勢いもあってか短剣を腰にさげたイケメンに話しかける。素面だったらコミュ障発揮して絶対にやらない。
「そうなんだ、オーガと騎士団の抗争に関するクエストでオーガ側につくよう立ち回ってたら気づけばここさ。君は?」
彼も酒が入ってるのか気前よく話に乗ってきてくれる。
「俺は森で歩いていたらオーガの少女に会ってな。なんやかんやで連れてこられたってわけ。」
「なら俺たちはもう仲間だな!俺の見立てではそろそろオーガと騎士団でレイド戦みたいなものが起こると踏んでるんだが…。」
「だよなぁ、オーガも弱くないが決着がついてないということは、人間の騎士団も意外とやれるのか?」
「あぁ。何回か手合わせしたんだが、ある時から突然強くなったんだよ。それまでは正直余裕で勝てそうだったんだが…。向こう側にも誰かプレイヤーが付いてるのかもな。」
「まぁいるだろうな。どれ、今度俺も前線に出てみようか。」
「君、あのジンだろ?隠してるが腕ないし。あ、すまない、俺はセンリ。一応前作組だ。竜祭も配信見てたぜ。」
「バレてるか〜。内緒な。」
しかしセンリ…?どこかで聞いたことのある名前だ。どこかのクラントップだったか?
「あぁ!わかったわかった!俺もあんまり周りにここにいられること知られたくないし、お互い様よ。」
2人で溺れるように酒を飲み、夜は更けていく。明日の講義出れるか、これ…。
またツバキも鍛えないとな。そう思いながら、空いたコップに酒を注ぐのだった。
昨日の敵は今日の武器〜前作ボスと歩むVRMMO道中〜 いろは @ilohas_07
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