ビルの窓

 私の住むアパート近くのビルの4階は、夜になると常に灯りがついている。

 私が残業をして日付が変わる頃帰宅した時でもついている。世の中には私よりも残業をしている人間がいるのだな、とよく思っていた。

 ある日、23時ごろに帰宅すると、そのビルの4階の電灯が消えていた。

 珍しい、今日は早く帰れたのかな、と思って4階の窓を見つめた。

 窓いっぱいに、巨大な顔がへばりついていた。

 その顔は虚ろな目で下を見つめていた。

 最初はギョッとして動けなかったが、その顔と目があったような気がしたので、急いで顔を伏せてその場を離れた。

 あの電灯は、残業の為ではなく、あの顔を出現させない為につけっぱなしにしていたのかもしれない、と思った。

 そのビルはまだそこにあり、4階は常に電灯がついている。私はあまりそのビルを見ないようにする事にした。

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