星空
学生時代、別の大学に通う地元の友人と、週に数日は深夜に散歩やドライブに行っていた。
それぞれ実家暮らしで地元から大学に通っていたが、地元は田舎故に夜に遊ぶ場所など無く、それでも暇なので結果的に真っ暗な街中を歩き回って駄弁ったり、車を出して少しでも遅くまでやっている飲食店や店舗に行こう、となった結果、そのような遊び方が多くなったのだ。
ある日の夜、友人の車で近くの山の頂上付近にある公園に行こうという話になった。
なぜそこに行く事になったのかはよく覚えていない。適当に車を出してからどこに行くか決めた、一度も行った事の無い場所に行こう、となったのではないかとなんとなく記憶している。
その公園は小さな山の、ほとんど山頂に設けられていた。ガラガラの駐車場に車を停めて、公園内に入っていく。大きめの体育館程度の広場となっているその公園は、一応はバーベキュー等ができるようになっているのだが、当然だが深夜となってはそのような施設の利用は終わっており、公園内には誰もいなかった。
スマホで時刻を確認すると、ちょうど0時をまわった頃だった。
公園の端まで歩くと、街が一望できる場所があった。
田舎とは言っても街灯や少ないビルの灯り、少しは栄えている隣町の施設の灯り等が見え、一応は夜景を楽しむ事ができるようになっていた。
「星も綺麗だぜ」
友人がそう言うので空を見上げると、確かに雲一つない夜空は満点の星空だった。田舎故に空気が澄んでいるのか、細かい星々まで綺麗に見えた。
アレはどの星座か、何座はあるか、とかつて習った知識を思い出しながら星座を探そうとした時、違和感を覚えた。
その時期に必ずあるはずの星座が見当たらない。
そもそも、いくら田舎の星空と言っても、星が多すぎるような気がする。
「なあ、なんか星が多すぎやしないか?」
友人にそう声をかけたか、あるいはかけようとした瞬間か、よく覚えていない。
夜空に光る無数の星が、ぴくぴくと動き始めた。
星々は次第に動きを大きくしていって、縦横無尽に動き始めた。
流れ星などでは断じてない。
その動きは、コバエの群れのような、小さな羽虫の群れが一か所に固まって、何かにたかって飛んでいるような、不快な動きだった。
夜空中の小さな光が、そのようにワラワラと動き始めた。壮観だったが、とても気持ち悪かった。
意味がわからないが、これは動画に残しておこう。そう思ってスマホを取り出して撮影を始めた直後だった。
「これはヤバいぞ。早く逃げよう」
友人からそう声をかけられた。
友人の方を見る。私と同様にスマホを構えていた友人の、そのスマホの画面に照らされた顔は、とても怯えたような、焦ったような顔をしていた。
確かに異常事態ではある。
私は頷いて、友人と二人で車に向かって駆け出した。
空ではまだ光がワラワラと動き回っている。
飛び込むように車に乗り込む。
友人はすぐにエンジンをかけて車を発進させた。
「おい、気づいてるか?」
友人が強張った顔で車を運転しながら話しかけてきた。
「時計見てみろよ」
そう言われてスマホで時刻を確認する。
3時51分と表示されていた。
公園についてから今まで、せいぜい20分程度しかたっていないはずだった。
「時間がおかしい」
私は思った事をそのまま口にしていた。
「あのままアレを見続けていたら、ヤバかったかもしれない」
友人はそう応えた。
ふと車の中から空を見上げると、もうそこにはいつもの夜空しかなかった。
山道を出て、街中を少し走ってコンビニに辿り着いた。
駐車場に車を停め、二人とも外に出てもう一度夜空を見上げた。
「やっぱり普通の空だよな」
二人してそう確認し合った。
友人が言うには、私と同様に動く星空を動画で撮影しようとスマホを取り出したときに、画面上に表示された時刻が3時半を過ぎている事に気づいてゾッとしたらしい。
「その2、3分前に街の夜景を撮ったときは、0時20分くらいだったんだぜ」
お互いのスマホを確認した。
友人が撮影した夜景は確かに0時21分と画像に時刻が記録されていた。
一方、私も友人も数秒は撮影した、動く星空の動画データは、お互いに真っ暗だった。時刻の記録は、これもお互いに文字化けしてしまって真っ当に記録されていなかった。
意味がわからない、アレはなんだったのか、UFOか。コンビニで買ったジュースを飲みながら二人でああだこうだ喋っているうちに、空が白んできた。
その日はそのまま帰宅した。
後に、インターネットであの公園について調べてみたが、とくに謎の光の目撃談などは見つからなかった。心霊スポットという話もなかった。
「そのうち、他の友人も誘ってもう一度深夜にあの公園に行こうぜ」
友人とはそう話していたが、けっきょく大学を卒業するまでにあの公園に再び行くことは無かった。
現在、お互いに社会人となり、結婚などして会う機会も減ってしまった。
ふと思い出して、またあの公園についてインターネットで検索してみたところ、数年前に利用者がいないという理由で閉鎖されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます