十一月のはめごろし窓

ハッカ雨

十一月のはめごろし窓

秋枯れは錆び色 にぶくなる手つき 寒露這はせるはめごろし窓


はんぶんをついばみ尽くしたデラウヱア うらかへすとき思ひ出す君


わかつてゝ待つふりをする たまさかに遠い焚火の焦がれるにほひ


満天の星のれかに運命を読んでゐる間に新聞が来る


抜け出した栞は二度と帰らない あの霧雨のシーンの君と


活版印刷のでこぼこみたいな優しく触れて気付く傷痕


南回帰線へ向かふ陽をつた利口な鳥をぶ夕の鐘


珈琲の湖面を渡る薄霧へ北風ボレアスのふりした溜め息を


心には噴水が在る青粉る暇もなくまた浮き上がるもの


入れすぎた砂糖は底にゐて少し自分で咽せる 窓は薄暮れ


退屈の淵へいざなふ白鳥は二人を乗せてあはく沈んだ


シリウスは焼き焦がす 凍て空の下かすかな熱の星を探せど


流星の代替として窓を打つ君によく似た指してこさめ


霜纏ふくさむらにつく踏み跡を無垢な顔して痛さうと言ふ


さよならは水溶性でありすぎる洋墨インクの泣きが正直すぎる


千枚の葉が重なつて冬が来る 手紙を裂いて降らせてみれば


君の名は忘れるけれど 口癖は辞書に挟んで押し花にする


永遠と最後に君が呉れたもの名付け葬る午後は秋晴れ


襟巻きぢや防ぎゝれない風がきて きらめいてゐた こはれた葉さへ


幾重にも星には霜が降り 来世会はむ夜鳴く鳥の姿で

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