まだこれからも

最終話 妹に隠れて

 文化祭も過去のものになり、数ヶ月が経った冬休み初日。


「ふぅ、こんな感じかな」

「良い感じっすね!」


 俺と真緒は、文化祭が終わってからどんな部屋に住むか話し合い、3LDKの部屋を借りる事が出来た。今は荷解きが一段落し、休憩中だ。


 真緒が部屋は二つ欲しいと頑なに譲らなかったので、想定よりも出費が多くなってしまったが、立地がとても良かったので今は気にしていない。


 市内からは少し離れているが駅は近いし、スーパーも徒歩数分圏内の場所にある。真緒と買い物に行く頻度も増えるかも。


「それにしてもいい部屋に住めたな」

「そうっすね、キッチンも広くて私的にも大満足っす!」


「良かったよ、結構調べたからな。手続きとか、前のアパートどうするかですごく悩んだし。もう、当分引っ越しは勘弁だわ」

「そんな頻繁にするようなものでも無いっすから大丈夫っすよ…っともうすぐ着くみたいっすね」


 そう言った真緒はスマホを確認している。着く?何かまだ荷物があるのだろうか。今ある段ボールからは全て出したのだからそんなはずはないと思うが。


 そんな事を考えていると、まだ聞き慣れない呼び鈴が聞こえてきた。


「誰かな?」

「あ、健一さん私が出てくるっす」


「え、大丈夫?」

「大丈夫っすよ」


 俺は真緒が来客の対応をしている所を見た事がないので、少し心配になってしまう。だが、真緒も成長したって事かな。


 そんな事を思いながら真緒の背中を目で追うと、玄関の方へと歩いていく。


 ガチャッという前のアパ―トとは違い重めの音と共に話し声が聞こえて来る。


「迷わなかったっすか?」

「うん、大丈夫だったよ」


「良かったっす!ほらほら私達の新居っすよ」

「う、うん。入るね」


 となんか聞き慣れた声が玄関の方から聞こえてきた。


 すると、真緒と一緒にまだ何も置いていない広いリビングに少し長い茶髪を揺らし、クローバーの髪飾りを付けた大荷物の少女が現れる。


 それは誰かというと…


「お兄ちゃん、久しぶり」

「あ、あぁ…涼香か」


 どうして涼香が?と一瞬思ったが、真緒が新居の紹介として連れてきたのかもしれない。でも、初日…それにまだ荷解きが終わったタイミングに来るのはどうなんだろう。


 そんな風に考えていると思いもよらぬ発言が耳に入って来る。


「お兄ちゃん、今日からよろしくね。それで私の部屋ってどこになるのかな」

「え?」


 俺が、驚き変な声を上げてしまうと涼香は頭に疑問符を浮かべているのか顔を傾けている。


「もしかして涼香、一緒に住むのか?」


 俺は疑問に思った事を聞くと、涼香は「そうだけど…」と言って隣に立っている真緒の方に視線を向ける。


「真緒ちゃんもしかして、言ってなかったの?」

「言ってなかったっすよ。だって断られそうだったっすし」


 そう言われると渋ってしまう自分が思い浮かんでしまう。だってこれまで真緒と二人だったのだから、普通一緒に住む人間が増えるなんて考えないだろうに。


 ん?いや、俺はそこで気づいた事に対して真緒に聞いてみる事にした。


「なぁ真緒、涼香が一緒に住むのを計画したの結構前からだったりするのか?」

「そうっすね、6月に入る前だったっす。本当は結婚してからにしようと思ったんすけど案外早くに引越しの話が出てたので」


 今は12月中旬、もう半年も前に考えていたと言うことか。まぁ、たまに二人では難しいとかそんな事を言っていたような気もするし、部屋はもう借りてしまっているしで断るのは難しくなりそうだ。


 俺は小さくため息を吐いて、涼香を見る。


「部屋はあるから好きに使ってくれ」

「それは、いいって事っすか?健一さん」


「あぁ、涼香は真緒に言われて来たんだもんな」

「そ、そうだけど…お兄ちゃん怖い顔してるよ」


「まぁ、これからちょっと真緒にお説教をしないといけないみたいだからな」

「え゛…」


 俺がそういうと真緒は顔を青ざめ始める。


「涼香、ちょっと教育して来るから空いてる部屋のどっちか使っていいぞ」

「う、うん。分かった、お手柔らかにね」


「け、健一さん暴力は振るわないっすよね?」

「振うわけないだろ、今からお勉強だ。冬休みの宿題たくさん出てるだろ…?」


「も、もしかして…」

「全部終わるまで寝かせないからな?覚悟しろよ」


「ご、ごめんなさいぃぃ」


 半泣きになる真緒を連れて、これから寝室になるであろう部屋へと向かうのであった。今日明日は、仕事をお休みにしているので寝るのが朝になったのはまた別のお話。



*****



 新居に移り、涼香とも一緒に住む事になって早数日。雪は降っていないが、外に出ると体が震え息が白く見えるようになった。


 真緒の誕生日にまたハウステンボスに行く事になるからと、移動手段を予約していたが涼香も同行するなら変更する必要が出てくる。


 だが、涼香は大切な日になるかもしれないからとその日は実家に戻るらしい。


 よく出来た妹で本当に嬉しい限りだ。


 そして今日は旅行に行く三日前、そろそろ準備を終わらせないといけない。


「おはようお兄ちゃん。寝起きで申し訳ないんだけど真緒ちゃん知らない?」


 朝、目が覚めて寝室を出ると外行きの服に着替えた涼香にそう質問されてしまう。


「さ、さぁ?お昼の買い出しにでも行ったんじゃないか?」

「そうなのかな、もう明日には私も実家に戻るって言うのにどこに行ったんだか」


「あはは…本当に困った奴だよな」

「お兄ちゃんが甘やかすからでしょ」


「ごめんなさい」

「まぁ、いいや私も実家に行く準備しないとだから一、二時間外行ってくるね」


 涼香はそう言って玄関を潜り外へと出ていった。


 部屋を三つにしたのは、涼香の提案だったらしく『エッチだめ!一緒に寝ない』と言われてしまい別々に寝ている。


 なので、大きなベッドは買わずこれまで使っていた物を持ってきた。


 本音を言えば真緒と二人っきりが良かったが、そうも言ってられない事情があるんだよな。


 そんな事を考えてながら顔を洗い、仕事をする為に寝室に戻ると…


「涼香行ったっすか?」


 懐かしく布団の中で包まる真緒の姿があった。


「あぁ、帰る準備するってさ」

「それは良かったっす!それよりも、健一さん今からしないっすか?最近出来てなくて溜まってたんすよ」


「そうだな、あの感じからしてすぐには帰ってこないだろうしな」

「それじゃあ決まりっすね!ほらほらそんな所で立ってないでこっちに来て下さいっすよ」


 そう言った真緒は何処から出したのか箱を手に持つと手招きしてくる。最近ご無沙汰だった事もあり、俺は真緒のいるベッドへと足を運ぶ。


 真緒が家事全般を担って、俺と涼香がお金を稼ぐ。涼香が俺よりも稼いでる事実を知った時は驚いたけど、今の部屋で真緒とこれまで通りにイチャつくには涼香の協力が必要になりそうだ。


 だからまだこれからも、妹に隠れて部屋に居るこの状況が当分終わりを迎える事は無いんだろう。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』


最後まで読んでいただきありがとうございました!


あとがきです


 やっと完結を迎える事が出来ました!

 これも読んで頂き、応援、レビュー、応援コメントを頂けた読者様のおかげです!

 改めて感謝させてください、ありがとうございます!


 今回初めて長編のお話を描くという事で、次はどんなお話を描こうかと楽しさもありネタが尽きそうになる事もあり苦しい思いも致しました。

 ですが、こうして最後まで描く事が出来た喜びに比べたらソシャゲで推しキャラを引けたくらいには嬉しいですね!…低いですか、ごめんなさい。


 ま、まぁそんな事は置いといて改めて完結まで読んでいただけた事への感謝と次に描く新作タイトルの投票もお願いしようかなと思います。


 現時点で、二作品どちらを描いていこうか迷っていまして、希望の多かった方を描いていきたいと考えております。


『ルームメイトは口が悪い』

 1人暮らしに慣れた主人公の下に1人の少女がやってくる、始めこそ口悪く言っていたが助け合ったり、お互いの距離が近付くにつれて…彼女の事が。


『毒親から逃げた俺と捨てられた義妹は一つ屋根の下で大人になる』

 高校1年から2年間住み込みでアルバイトをしている主人公、親には頼れないからと大学に行くお金と遊ぶ為に働く毎日。そんなある日、1年前に一度顔を顔を合わせただけの義妹が来店して来た。


 どちらも、捨てられたヒロインとの恋愛物です。


 もし投票が無い場合、作者の独断と偏見で決めさせていただきます!


 よろしくお願いします


 白メイ

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ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話 白メイ @usanomi

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