第2話 夢が始まるまで
(え、え、なにあれ?槍?なんで槍持ってるの?あの男の足元にも犬みたいなのいるし。というかあれ犬なのか?なんか頭2つあるんだけど。どういうこと?)
直人には今の状況が全く理解できていなかった。
槍を持った銀髪の女性と2つの頭を持った犬を従えている男が向き合っているという、日常ではまず遭遇しない光景に頭が追い付いていなかった。
そして———
(それにあの女性銀髪?実際に生で銀髪見るの初めてなんだけど。今日の晩御飯なにかな?)
などと、もはや現実逃避を始めた状態で真っ二つになった犬の一片が目の前に落ちてきたのだから、悲鳴をあげたのは仕方のないことだった。
…………
「ひっ」
バシャっという音とともにその声を聞いた女性は後ろを振り向き、驚きの声をあげた。
「……っ、一般人!?どうして」
直人は目の前に犬の一片が落ちてきただけでなく、それが煙のようになって消えるという状況に、もはや足に力が入らず、尻もちをついていた。
「あ……あ……」
「くっ、逃げて!!」
女性は焦ったようにそう言い、その声を聞いた直人はなんとか足に力を入れ、逃げようとする。
しかし、次の瞬間男が発した一言により、直人から逃げるという選択肢は消えた。
「……お前、どうしてここにいる?」
「……………」
『——————待ってる』
男のその一言によって思い起こされたのは、今朝見た夢。
『彼女に会わなくてはいけないのにいったいなぜ、自分はこんなところにいる?
あの手を掴まなければならないのに、なぜ自分はこんなことをしている?
なぜ———彼女に会いに行かない?』
そして、それと同時に感じた焦燥感。
「どう、いうことだ?」
逃げようとしていた直人の足は男のほうへ向く。
もしあの夢について何か知っているのならば、問いたださなければならない。
あの夢について聞きださなければならない。
「お前、何か知っているのか?」
だがその言葉を聞いた男は、わずかに呆けた後に大きく笑い出した。
「は、はははははは!!あはははは!!ああ、そうかそうか、あいつやったのか!!こいつは良い、傑作だ!笑いが止まらん!」
はははははと笑い続ける男に、直人は怒鳴る。
「どういうことだよ!何か知ってんのかよ!答えろ!」
だが男はそれでも笑いが止まらないようで、
「ははははは!ああいいぜ、答えが知りたいか?なら俺を追ってくるといい。こっちの世界でやることはもう終わった。もし、本当に答えを知りたいと思うのなら、向こうの世界まで来るといい」
その言葉を最後に男は去ろうとする。
しかし、その前に銀髪の女性が再度立ちはだかる。
「逃がさないと言いいましたよね?聞きたいことも増えましたし、ここで捕まってもらいます」
「ああ、そうだったか?なら、ほら!」
男がそう言って右手を振ると、足元にいた犬が一斉に直人のほうへ向かう。
一体どこにいたのか、その数は先ほどの比ではなく、30匹は超えていた。
「ほら死んじまうぞ!?一般人が!」
「……くっ」
女性はギリッと歯嚙みしながら直人のもとへ向かう。
そして間もなく、直人と犬の間に女性は立ちふさがった。
「ふっ!はあっ!」
と槍を1度振るごとに、迫っていた犬たちは1匹、また1匹薙ぎ払われる。
そんななか、男が去っていくのを見た直人は
「待て!」
と追おうとするが、
「動かないで!」
という女性の一言によって立ち止まる。
そして全ての犬を倒した後には、男の姿はもう無かった———。
数秒経った後、はあと女性は息を吐く。
(逃がしてしまったものは仕方ありません。まずは……)
と直人のほうを見る。直人はというと
「……あ、えっと」
とようやく我に帰ったようで、何を言えばいいのかわからなくなっていた。
女性はふう、と再度息を吐くと、
「まあ、このまま帰すわけにはいきませんし、まずは家に来てもらいます。構いませんね?」
と拒否を許さない口調で直人に告げた。
そして直人もコホンと咳ばらいをし、
「はい、俺もあなたに聞きたいことがあります」
と返した。
「じゃあ、向こうに車を停めてありますから、行きましょう」
女性が先導しようとしたところ、直人はハッと助けてもらったことに対するお礼を言っていないことに気が付いた。
「すみません、えっと、遅くなってごめんなさい。先ほどは助けてくださってありがとうございました」
そういうと女性は、柔らかな笑みを浮かべた。
「気にする必要はありません。わたし……」
と言いかけて、ふと気になったことがあった。
(いえ、周辺には人払いの結界を張っていたはず。なぜ彼はここに来れたのでしょうか?)
ふむ、と考えていると停まっている車にたどりついた。
「まあいいでしょう。とりあえず乗ってください。あ、濡れたままで問題ありませんよ。すぐに乾きますから」
そう言って女性は直人に乗るよう促した。
「じゃあ、失礼します」
と高そうな車だなぁと思いながら、直人は車に乗る。
直人が車に乗ったことを確認し、車にエンジンを入れ、走り出した。
「………」
「………」
家に向かっている最中、2人は無言だったが、直人はふと今通った道が先ほども通っていたことに気づく。
気のせいかと思っていると、再び同じ道を通っていることに気が付き、迷っているのかと思い質問をする。
「あの、さっきから同じ道を通っていませんか?ここさっきも通ったような……」
すると女性はなんでもないかのように答える。
「ん?ああ、問題ないですよ。もう着きます」
女性がそう答えた瞬間に雨が止んだ。
「特別な手順を踏まないと着けないようになっているんです。さ、降りてください」
車を停め、降りるよう促す。
そこは澄み渡った空に加え、様々な花が咲き誇っていた。
そしてなにより目を引いたのは、今まで見たことがないほどの大きな屋敷がだった。
「さて、ようこそ『
何があっても、必ず君を救い出す。たとえそこが、異世界だったとしても。 黒ごまペースト @pesto
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