何があっても、必ず君を救い出す。たとえそこが、異世界だったとしても。

黒ごまペースト

プロローグ


『——————待ってる』


海に沈んだような感覚のなか、そんな声が聞こえた。


(……?誰だ?)


ぼんやりとした頭のなかで声の主を探そうと目を開ける。

その先には誰かがこちらへ手を差し伸べているのが見えた。


(あれは……顔は、よくわからないな。モヤがかかっているみたいだ。名前は……分からない、というより思い出せない?知っている気はするんだけど。でも———)


わずかに逡巡したのち、こちらからも手を伸ばした。

名前も顔も分からないのに、その手を握らなくてはいけない気がしたからだ。

だが、力いっぱい伸ばしてもその手が届くことはない。

それどころか遠ざかってさえいく。


(……っ)


手が届かないと悟った瞬間、先ほどわずかに躊躇ったことへの後悔と、ある感情が生まれる。


彼女に会わなくてはいけないのにいったいなぜ、自分はこんなところにいる?

あの手を掴まなければならないのに、なぜ自分はこんなことをしている?

なぜ———彼女に会いに行かない?


そんな言い知れぬ焦燥感を胸に、今日も目を覚ます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る