第一章 この世界にさよならを
第1話 これまでの終わり
朝、自宅で目を覚ますと天井に向けて伸ばしている自分の手が目に入る。
「……また、あの夢か」
あの夢を見るたびに、本当に自分は今のまま何もしなくていいのかという不安に苛まれる。
(だからって、どうすればいいんだよ……)
何かしなくてはいけない気がするのに、何をすればいいのかわからない。
そんなもやもやを感じながらふと、涙を流しているのに気が付く。
「あーもう、忘れよう!何かができるわけでもないし、こういうのは忘れるに限る!」
涙をぬぐいながら、自分にそう言い聞かせる。
すると、一階のリビングから母親の声が聞こえてくる。
「直人~?今日部活でしょ?そろそろ起きないと間に合わなくなるわよ~」
時間を確認すると、今は8時30分だった。
今日は土曜日で練習は9時からなので、確かに早くしないと間に合わなくなる。
「あーい、今行くよ」
手早く着替えて一階に降りる。朝ご飯を食べている時間はなさそうだった。
「今日帰りに雨降るかもだから、折りたたみ傘持っていきなよ」
そう言われ、あいよーと返事をしながら頭の中で考える。
(雨かー……まあ帰りなら濡れてもいっか!荷物も増やしたくないし)
と練習着とシューズ、飲み物だけという最低限の荷物で家をでた。
…………
(あー暑い、死にそう)
バスケ部に所属しているため、体育館のなかはそこそこ地獄だった。
少しでも風を通すため窓を開けているが、それでも限度というものがある。
ましてや、朝母親が言っていた通り雨も降っているのだからそれはもう酷かった。
(もう辞めようかなー)
中学に入学し、バスケ部に入ってから半年足らずではあるが、それでも退部を考える程度には酷かった。
…………
「直人、お前傘は?」
部活が終わり、片付けも終わったので帰ろうとしたところ同じ部活の同級生から声をかけられた。
「あー、荷物増えるの嫌じゃん?帰りなら濡れても関係ないじゃん?だからいらないかなーて」
「お前馬鹿なの?帰る方向違うし、傘貸せないけど風邪ひくなよ?」
と呆れられながら解散した。
…………
「……さて、走るか!」
濡れてもいいやと思っているとはいえ、雨に打たれるのが好きなわけでもないので、早々に帰ろうと走り出す。
思ったよりも雨強いなーと考えながら走っていると、ふと肌にぴりっとした感じがした。
(……?まあ、いいや)
気のせいだろうと、そのまま走って角を曲がると、信じられないような光景が目に映った。
「もういい加減逃がしてくれないかな?そろそろ飽きてきたんだけど」
「だめに決まってるじゃないですか。やっとここまで追い詰めたのですから、逃がすわけにはいきません」
二人の人間が、対峙していた。
片方はやや小柄な銀髪の女性で、槍を2本持っている。
もう片方はフードを深くかぶっているため顔はわからないが、声からして男性らしい。こちらは何か持っている様子はないが、足元に何匹か犬がいる。
しかし、その犬には頭が二つあり、グルグルと鋭い牙をのぞかせながら唸っている。
会話からして、どうやら女性のほうが男性を追っていたらしい。
「……ふん、行け」
男がそう言うと、足元にいた犬のうち3匹が女性に襲い掛かる。
だが女性はすぅと息を吸うと———。
「……はあっ!」
両手に持っていた2本の槍で3匹の犬たちを薙ぎ払った。
犬たちは真っ二つにされ、ボトボトと地面に落ちる。
「だから犬だけではどうすることもできませんよ。そろそろ捕まってくださ……」
女性は呆れたようにそう言いかけた瞬間、
「ひっ」
と直人の声が聞こえた———。
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