第3話 特異点(シンギュラリティ)
今までジャレオと子ジャレオの生活を覗いてきたが、これほどまでに奇妙なものだとは露とも思わなかった。しかし、あれからしばらく覗いているが、やはり前と同じようにジャレオの両腕が爆発して、それに伴って子ジャレオが成長してを繰り返していた。それでまた、子ジャレオがジャレオと同じ背丈になった。さあまた面白くなってきたぞ。今度は果たしてどうなるのか。覗いてみよう。
ジャレオはいつものように仕事場から帰ってくると、ソファに座った。ジャレオはそれからリモコンでテレビを点けると、スノーノイズの映るテレビを死んだように見ては、しばらくするとリモコンをいじってチャンネルを変え、スノーノイズを見るということを繰り返した。そして、いつしかジャレオは死んだように眠った。
翌朝、いつものようにジャレオはコーヒーを淹れて飲むと、窓辺に置いた植木鉢に水をあげた。植木鉢には小さいが、しかし、青々とした緑が芽吹いていた。ジャレオは植木鉢を両手で持ち上げると、まじまじとその若葉を見つめた。その瞬間、ジャレオの両腕は爆発した。スーツの袖は一瞬にして吹き飛び、ジャレオの両腕から音を立てて煙が出た。植木鉢は砕け散って床に落ちたが、芽吹いていた若葉はというと、奇跡的に無事であり、飛び散った土の上に残っていた。
ジャレオがその小さな命をすくいあげようと身をかがめたそのとき、部屋の奥から子ジャレオが現れた。そんな子ジャレオが我を失った様子で口をあんぐりと開け、ジャレオめがけて突撃した。もっとも、子ジャレオと言えどもジャレオと背丈も変わらないため、瓜二つの見た目である。ジャレオは床に落ちた若葉を庇いながら、必死に子ジャレオの猛攻を抑え込もうとした。そして、そのまま子ジャレオとジャレオは膠着状態になった。
力の強さはほぼ互角である以上、埒が明かないように見えたがしかし、子ジャレオの状態が突如落ち着いたことで、ジャレオの辛勝となった。けろっとした顔の子ジャレオは何事もなかったかのように部屋の奥へと消えていったが、その大きさは明らかにジャレオ以上の大きさだった。ジャレオはというと、床に残った若葉を優しく手で包み、新しい植木鉢に植えなおした。そしてジャレオも、そのまま何事もなかったかのように仕事場へ向かった。
驚いた。ジャレオが子ジャレオに勝つとは。しかし、そのことで子ジャレオがついにジャレオよりも大きくなってしまった。こうなると、ジャレオが子ジャレオで、子ジャレオがジャレオな気もしなくもない。しかし、この先はどうなってしまうのか。私は恐ろしい。子ジャレオがジャレオよりも大きくなってしまった以上、もはやジャレオの力では抑えることができないのではないか。もし、次に子ジャレオが暴走したらどうなってしまうのか。恐ろしい。私はただ、恐ろしいだけだ。これ以上彼らの生活を覗く勇気もない。しかし、私、いや、我々は彼らの生活を覗くべきだろうか?それとも、彼らの生活を覗かなければならないのだろうか?
このあと彼らがどうなるのかは、実のところ私も知らない。だから、子ジャレオがいつ暴走するのかも知らないのだ。恐ろしい惨劇がきっと来るだろうことは知っていながらも、しかし、我々にはそれをただじっと傍観することしかできない。それが嫌ならば、我々は彼らの生活を見るのを止めればいいのだが。しかし、今までマジカル・ボンバー・ハンズの生活を面白おかしく覗いていたわけだが、今となっては恐ろしいだけだ。我々の選択としては、この物語をここで終えていくことにとどめておこうか。私はもう彼らの生活をこれ以上見たくはない。私ではない他の誰かが、彼らの生活を覗いてくれればいい。私はもう疲れた。
そういうわけだ。マジカル・ボンバー・ハンズの物語はこれでおしまい。もはや私の知ったことではない。そんなものは、そもそも私は一切関知していないから、そういうことだ。
マジカル・ボンバー・ハンズ 箱陸利 @WR1T3R
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます