第2話 ジャレオと子ジャレオ

 さて、あれからどれだけ経っただろう?そんなに時は経っていないはずだが。というのも、ちらっと覗いてみると、子ジャレオの大きさがおかしいのだ。ほんのちょっと離れただけなのに、あんなにも大きくなるとは。まあ、しかし、マジカル・ボンバー・ハンズならば仕方ない。大きくなってしまうのだろう。あ、ジャレオがまたいつものようにテレビを見始めた。さて、覗いてみることにしよう。


 ジャレオはプラグの抜けたテレビをじっと見ていた。しかし、いつもと違うところがあった。それは、ジャレオがしばらくすると立ち上がり、プラグをコンセントに差し込んだのである。そして、再びソファに座ると、ジャレオはテレビを見始めた。しかし、テレビは騒がしい音と共にスノーノイズが映るだけだった。


 「ジャレオ、何見てるの?」部屋の奥から子ジャレオが出てきた。子ジャレオはジャレオの肩くらいの背丈になっていた。「ジャレオ(子ジャレオ)、今テレビを見ているよ」「面白い?」「面白いよ。とても。一緒に見るかい?」子ジャレオはソファに座るジャレオの隣に立った。暗く静かな部屋のなか、テレビだけが明るくザーザーと鳴っていた。無表情な二人の顔に、テレビの光が反射し、暗闇に不気味に浮かび上がっていた。


 しばらくして、ジャレオは立ち上がると、テレビのチャンネルのつまみを回した。チャンネルを変えたところで、スノーノイズが映ったままなのだが、それでもジャレオは満足して再びソファに座るとテレビを見始めた。子ジャレオはというと、その様子をただじっと見守っているのだった。


 二人はずっとこの調子で映らないテレビを見ている。こんなものを覗いていても仕方がない。しかし、ジャレオはマジカル・ボンバー・ハンズだ。きっとまた何か起こるはずだ。というよりかは実際にこれから事件が起きる。だから、もう少し彼らを見ていようか。


 二人はスノーノイズの映るテレビを死んだようにじっと見ては、しばらくするとジャレオが立ち上がり、チャンネルを変え、再びスノーノイズを見るということを繰り返していた。またしばらくすると、ジャレオが立ち上がり、チャンネルのつまみを回そうとした瞬間、突然ジャレオの両手が爆発した。その爆発によってテレビも誘爆した。ジャレオの右手にはつまみだけが残り、テレビはスクラップになった。


 と、さっきまで死んだようにじっとしていた子ジャレオの様子が突然おかしくなった。子ジャレオは鬼の形相でスクラップになったテレビを片付けるジャレオに突撃した。ジャレオは口を大きく開けて噛みつこうとする子ジャレオを軽くいなそうとするのだが、子ジャレオの体は以前よりも大きくなっていたからか、彼は苦労して暴れる子ジャレオを抑えつけた。テレビの片づけどころではないジャレオは汗をかきながら、何とかして子ジャレオを落ち着かせた。


 まただ。子ジャレオの様子がおかしくなった。そういえば、ジャレオが爆発するたびに子ジャレオの体が大きくなっているんだな。となると、今の爆発で子ジャレオはまた大きくなっているんじゃないのか?ん?ジャレオが二人いる?新しいテレビを持ってきたのはジャレオだけど、じゃあソファに座っているジャレオは誰だ?もしかしてあれが子ジャレオか?面白くなってきたぞ。子ジャレオの大きさがついにジャレオと同じになった。よーし、それなら次の爆発まで飛ばしてみるとするか。


 ある日の朝、コーヒーを飲み終えたジャレオは窓際に飾っていた観葉植物に水をあげていた。しかし、植木鉢には細い枯れ木が一本植わっているだけで、お世辞にも観葉植物とは言えないし、水をあげたところで意味があるようには見えなかった。それでもジャレオは枯れ木に丁寧に水をあげていた。


 すると突然、ジャレオの両腕が爆発した。ジャレオが手に持っていたじょうろも爆発して飛び散って、窓辺の植木鉢は爆風によって床に落ちて砕けた。ジャレオが冷静に割れた植木鉢を拾おうとすると、子ジャレオがどこからともなく現れ、ジャレオに突撃した。子ジャレオはもはやジャレオと背丈も瓜二つだったから、必死に抑え込もうとするジャレオの力をもろともしなかった。そのまま子ジャレオは大きく口を開けると、ジャレオに噛みついた。


 その瞬間、ジャレオの体は小さく爆発して、煙になって消えてしまった。そして、子ジャレオはジャレオになった。ジャレオになった子ジャレオは、何事もなかったように、床の掃除をし、新しい植木鉢をどこからか持ってくると、枯れ木を植え替えた。ジャレオはそれから、いつものように仕事場へと向かった。


 驚いた。ジャレオが消滅して子ジャレオがジャレオになった。あれがマジカル・ボンバー・ハンズなんだな。しかし、そうなると今までのジャレオはどうなったのだろうか?それとも、消滅したのは子ジャレオの方なのだろうか?ますます面白い。これだからマジカル・ボンバー・ハンズの観察はやめられないな。


 ん?ちょっと待てよ。あそこにいるのは何だ?小さい子供のように見える。背丈は子供だが、ジャレオと同じ格好している。もしかして子ジャレオじゃないか?子ジャレオがジャレオになって、新たに子ジャレオが生まれたのか?うーん、全くわからない。もう少し様子を見続けることにしようか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る