第十三回「月」

 月の花 値打ちや如何に 空に問う


 これは中学の頃、友人にアドバイスをもらってつくった俳句。国語の授業で俳句をつくる宿題が出たものの良い案が浮かばず、悩みに悩んだ結果、いつもは話さない教室の窓際の男子に助けを求め「秋っぽいものを考えてごらん?」と言われて咄嗟につくった。ほぼ適当にそれらしい語句を並べたのだが、あろうことか教諭から高い評価を受け、最終的には公民館で展示されるに至ったから驚いたものだ。恥ずかしいことに、この句の背景を私は説明できない。ひどくべらぼうなもので、思い描くストーリーも何もあったものではないからだ。だが、この俳句を読んで学年コンテストに入選した経験が現在の活動に繋がっていると我ながらに思う。成功体験こそが自信を深める。それは成長においては欠かせない。


 今日は十五夜、中秋の名月。人々が月を愛でるようになったのはいつの頃からか。夜空に輝く銀色の衛星として、月は古来より人間の好奇心と創造性を刺激し続けてきた。


 古代の文化では、月は神話や宗教で重要な役割を果たし、季節や海の状態を予測するためにも活用されてきた。月のサイクルは人々の生活のリズムにも影響を与え、農業や暦に組み込まれた。田畑を耕すのが人々の主な仕事だった頃から、月は一種の信仰ともいえる崇敬を受けてきた。事実、日本各地には月にまつわる言い伝えが多数ある。私が生まれ育ったド田舎の村でも、「お月様が輝く夜は獣の行動が活発になるから山道を歩いてはいけないよ」といわれてきた。事実、月の引力は生き物の自律神経に影響を与えるのだという。他にも沢山の迷信や風習があるのだろう。


 また、古代日本の神話や文化において、月は特別な存在とされ、月に関連する神話や詩が多く伝えられてきた。例えば、日本神話に登場する「月読(つくよみ)の命」は、月の神とされる。古典文学においても、万葉集や平家物語などの作品には月に関する詠まれた歌や詩が多く見られる。


 古の時代から人々に愛され、時に畏れられてきた月だが、やがて時代が進むと科学の対象となった。地上での観測から実際に到達することを目指した超大国の手でロケット技術が生み出され、ついにはアポロ計画によって人類は月に到達し、歴史的な一歩を踏み出すことなる。人間の探求心と技術の進歩はまさに日進月歩で成長を続け、決して止まることを知らない。月面で収集されるデータは地球と宇宙に関する重要な知見を与えてくれる。いずれ月面にコロニーが建造され、人々が月で暮らすようになる日も遠くはないだろう。


 そんな月の裏側は誰も観たことが無い。


 月は地球に対して自転と公転の周期がほぼ同期しているため、常に同じ側面が地球から見えており、もう一方の側面、つまり「裏側」は常に隠れているのだ。ソビエトのルナ3号が人類史上初めて月の裏側の写真を撮影するまでは、月の裏側には何があるのか、人々は心踊らせ、恐れてきた。誰も観たことが無いものだからこそ想像や憶測が掻き立てられるのだろう。


 未知の領域への挑戦は困難だ。観たことが無いものが「怖い」と感じるように、やったことの無い行為に挑む際には恐怖をおぼえるのが人間の習性。私にも「あれをやったらどうなるんだろう?」という疑問に対し、果敢に挑んだ結果、失敗した経験がある。


 十歳の時分、家族でキャンプに出かけた。ちょうど中秋の名月が輝く夜だった。そこでどういうわけか「花火をしよう」という流れになり、姉と私は手持ち花火を手にとって夜の時間を楽しんだ。


 その時、私が持っていた花火の筒の先にロケット花火があった。猛烈な勢いで噴き出す炎。「これで火をつけられるのかな…?」と今思えば正気を欠いた思考に至った私は、愚かにも手持ち花火でロケットに着火。結果、その場で大炎上してしまった。大惨事にこそ至らなかったものの、あの時の炎の勢いの怖さたるや、未だに脳裏に焼き付いている。


 多くの場合、失敗はしたくないもの。だが、失敗を経て初めて気づかされることや、学ばされることも多かろう。冒頭で紹介した友人は現在、プロの俳人を目指して賞レースへの参加を続けているらしい。「そろそろ諦めて普通に就職したらどうだ?」と諭す周囲の声と軋轢を抱えながらも、懸命に創作意欲を保っていると聞く。分野は違えど、同じ文学を志す者として彼の熱意は見習わなくてはと思う。


 人類が月の正体を完全に知り尽くす日や、月の裏側にたどり着く日、そして月に移住する日が、いつになるかは分からない。いずれ来ると信じて挑戦する限り、そこへの道は開かれるだろう。諦めてしまえばそこで終わりだ。


 私自身、いま抱えている夢が実現するかは分からない。けれども挑戦し続けることだけは忘れずに居たいものだ。


 さて、七月から今日にかけてエッセイのようなものを目指して書いてきたわけだが、今回をもって一旦の区切りとさせてもらう。小説ではないワン・クールの連載は私にとっては初めての経験で、良い勉強になった。「金曜の夜だから…」の第二シーズンがあるかは未定だが、個人的にはこうしたものをいずれまたやりたいと考えている。


 今までお読みくださった全ての皆様に感謝を申し上げ、この連載を終了させて頂こう。


 それでは、また。

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金曜の夜だから・・・ 雨宮妃里 @amamiya_0913

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