【結】 サチ先輩

その城は、駅からバスで30分くらいの場所にあった。

今や観光地に過ぎないが、前世で戦った俺の心に戦場の匂いが甦って来た。


俺といぶき先輩は、同時に深い深呼吸をした。


「ねえ2人は、いつからそんなに仲良くなってたの?」

幸が薄いサチ先輩は言った。


「えーと」

いぶき先輩は焦った。


俺といぶき先輩の関係は、カツを貰っただけの関係に過ぎないし、さらにサチ先輩に、前世の事を話す訳には行かないのだ。

いぶき先輩は、俺に助けの視線を投げかけた。


俺は仕方なく

「先週、いぶき先輩が、突然、俺の家に突然やってきて、3人でお城見学とかしたいな~って言って来て~」

と事実を話した。


「えええ!すっごい急転回だけど!どういう事?愛衣めいは、肉食系じゃなくて、おしとやか系だと思ってたのに、先週って言ったら、カツ上げた日だよね。その日に家に行ったの?」

サチ先輩は、かなり驚いたようだ。


そういぶき先輩は、ぱっと見は清楚なおしとやか系に見える。


そのぱっと見は清楚なおしとやか系の、いぶき先輩の蹴りが、サチ先輩に知られずに、俺のお尻に入った。それは明らかに【疾風迅雷しっぷうじんらいいぶき】の蹴りだ。

現代人が冗談で蹴る蹴りではない。


「いや違うのサチ、学校の食堂でこの子が携帯忘れててね。それを届けに行っただけだよ。そしたらこの子が玄関先で、『僕は前世でお城で処刑されたんです。こんどいぶき先輩とそのお城に行って見たいです』って痛い事言ってきたの」


さすが【疾風迅雷しっぷうじんらいいぶき】頭の回転が速い!

次から次へと嘘八百が出て来る!


「それは痛いね」

「でしょう、でも折角うちの高校に来て知り合った訳だし、先輩としてほっとけないでしょう?それにサチは心理学に興味が合ったじゃない。サチならこういう痛い子の対応が出来るんじゃないかと思って」

「そうだね。陽翔はるとくんだっけ?大丈夫だよ、わたしが話を聞いてあげるから」

そう言うとサチ先輩は、俺の頭を撫でてくれた。

そう言えば、殿は優しい人だった。俺は思い出した。


でもこれであの頃の事を話せそうだ。


500年前、殿の首が晒された場所の前に来た。

「ここで俺の殿の首が晒されたんです」

俺はサチ先輩に告げた。


サチ先輩は、ちょうど晒された首があったであろう場所を見つめた。

今は何もない場所なのに。


「なんだろう・・・・凄く、心が締め付けられるんだけど」


一度消された前世の記憶を、思い出す事なんて事はないし、例え思い出したとしても、それが自分の事だと解る訳がない。


その場所をじっと見つめると、サチ先輩は涙を流し始めた。


いぶき愛衣めいは、サチ先輩の肩を抱きしめると、

「大丈夫だよ、ずっとわたしが側にいるから」

と囁いた。


「ずっとわたしが側にいるから」の言葉の後に「もう裏切ったりはしないから」と言いたかったに違いないと俺は思った。


「ありがとう」

サチ先輩は、そう言うと涙を拭いた。


      

           完


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疾風迅雷の颯は女子高生のはず! 五木史人 @ituki-siso

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